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サイラス・バリー・フィッツクラレンスの苦慮

「ジョシュ、ジョシュ。大変なの」

「どうしたの、フィオナちゃん。何だか嬉しそうだね」


 久しぶりにジョシュアを呼び出して、フィオナは嬉しそうに報告をする。

 兄の衝撃的事実についてフィオナに負い目のあるジョシュアは、気遣うようにフィオナの誘いを断らず菓子まで用意して出迎えていた。


「私ね、すっごいこと知っちゃったの。もう、誰かに言いたくて言いたくて」


 1人盛り上がるフィオナであるが、ジョシュアとしては複雑である。

 何せフィオナと婚約中のエルバートは実は男色家だったのだ・・・と、ジョシュアは確信している。確かに、フィオナも他の男性に現を抜かしているのだから、婚約でも解消すればハッピーエンドかもしれない。

 しかしだ。何せエルバートはこれでも完璧な王位継承権を持つ王子様である。恋慕と結婚を混濁して考えたりしないだろう。さらに言えば、自分以外に心を動かしているフィオナは好都合であり、なおかつ彼女の兄こそがエルバートの思い人とあれば、彼女と結婚してしまうのが一番良いと考えるかもしれない。

 そうなれば、フィオナは自分を愛することが永劫ないエルバートと結婚し、囚われの王妃生活を余儀なくされる。エルバートはフィオナと結婚することでボイル家と繋がりを深くする。何ならそれを口実にコーネリアスと頻繁に会う・・・それどころか陰で逢引なんて始めるかもしれない。


「(いやいや、あの兄上が、そんな道徳的にも酷いことできるだろうか!?)」


 しかし、恋は人を盲目にさせる。ましてや彼らがしているのは禁断の、報われない愛なのである。燃えないはずがない。

 ジョシュアは不憫な子を見るかのようにフィオナを眺めた。

 大丈夫だよ、フィオナちゃん。絶対に僕だけはフィオナちゃんの味方でいるからね!


「実はね、あの女好きのルークとエミリアが、陰で恋仲だったのよ!」

「いやいやいや、他人の恋仲をでばがめしてる場合じゃないから!」


 思わずツッコミを入れてしまうが、ジョシュアはすぐに自分を戒める。彼女は兄の性癖に気付いていないのだ。知らないことは幸せである。それならば自分は彼女が不幸に気づかないよう、そっと見守ってあげるべきなのだ。


「そりゃね、ジョシュ。私も私の恋路をがんばりたいとは思っているのよ」

「そうだよね。ごめんね、大声出して」


 フィオナは分かっていない。私の恋路はそんなに大っぴらに話していい内容ではないということも、ジョシュアが言ってるのはそのことではないということも。

 しかしジョシュアは哀れなフィオナの囁かな幸運を祈り、菓子を勧めるしかできなかった。



 ***



「大変です、サイラス様」


 そして、ジョシュアとフィオナの学食テラスにて行われる茶会が見える音楽室にて、窓から双眼鏡を使って監視をしている少女が1人。


「どうした、キャロル・グローリア・オルコック」

「その呼び方やめてください。それより、あれです」


 窓際に寄ってきたサイラスが見れば、茶会を楽しむ2人の姿が見えた。


「ジョシュアとフィオナ・ニコラ・ボイルだな」

「あの女、ジョシュアを呼びつけて無理やり茶会なんて開いてんですよ」


 怒り心頭のキャロルであるが、サイラスは不思議そうに首を傾げた。


「ジョシュアとフィオナ・ニコラ・ボイルは昔から懇意だぞ」

「えぇ!?だって、あの女はエルバート殿下にべったりくっついてジョシュア殿下に嫌われていたはずじゃ・・・!」

「何の話だ?」


 聞いたことも無い話にサイラスは困惑するしかなかった。

 キャロルとしても納得がいかなかった。ここまで話の捻じれは起きているのか。考えられる事案としては、もうあのフィオナ・ニコラ・ボイル令嬢は『カメコン』のことを知っている転生者なのではないかと言うことだ。

 そうであれば先手を打って、攻略対象たちの未来を変えていても不思議ではない。サイラスが公式通り変更がないのは、たぶん彼女のタイプではなかったので除外されたのだろう。


「おのれ・・・すでに動き出しているというのね」

「なんと・・・我々の知らないうちに、一体何をしているんだ」


 ここ最近は、もっぱらフィオナの監視で放課後に時間を費やしていた。サイラスと合流してはフィオナの動向を探る日々である。しかし、成果は思わしくないのであるが。

 キャロルはフィオナが何エンド狙いなのかを知りたかった。サイラスに手を出していないのならばハーレムエンドは除外されるだろう。


「(いえ・・・もしかして、他の攻略対象の好感度をマックスまで上げてから最難関に挑む可能性だってあるわ)」


 サイラスは『カメコン』において攻略難易度最難関のキャラであった。

 何せ殿下第一主義の男である。あまりにも行き過ぎた忠誠心のせいで腐った女の餌食となり、彼と殿下のキャッキャウフフな二次創作はネットにたくさん上げられていたほどだ。


「まだ彼女の狙いが分からない。気が抜けないわ」


 1人だけいい思いをしてイケメンに囲まれようったってそうはいかない。キャロルは怒りに燃え、監視を続けた。

 そんな情熱的な少女の後ろ姿を、サイラスはじっと見ていた。

 真っ直ぐな少女だ。それがサイラスの彼女に対する印象だった。彼女はひと月ほど経つが、常に全力投球でフィオナの監視に当たっていた。それはもう、必死とも言える。


「(これだけ熱意を傾けているのだ・・・相当、エルバート殿下のことを慕っているのだろう)」


 当然のことだ。エルバート殿下は百年に一度かの名君となるような逸材である。そんなエルバートのために働けることをサイラスは誇りに思っているし、この少女もまたそうなのだろう。


「(しかし、何だ?この、胸につかえるモヤモヤは・・・)」


 サイラスはそっと自身の胸を押さえた。

 彼女が頑張っていれば頑張っているほど、なぜか苦しくなる自分がいた。あろうことか、羨ましいなどと考えてしまうこともある。

 羨ましい?一体誰のことを?

 サイラスはそこで分からなくなり、いつも考えることを止める。いや、薄々気付いているので考えることを放棄せざるを得ないのだ。


「サイラス様!見てください、近い。近すぎます!」

「そう興奮するな、キャロル・グローリア・オルコック」


 実はサイラスの攻略対策であるが、冷たく突き放すことがキーポイントとなる。貴方に興味がありませんと態度で示すと、途端にヒロインが気になってしまうツンデレの鑑なのである。しかし、やりすぎると決裂してしまうので、その微妙な駆け引きが難しいのである。

 今のキャロルは効果覿面であった。窓際でキャーキャーと騒ぐ少女に、サイラスは何故か安らぎすら感じているのだ。


「奴の陰謀を暴くためとはいえ・・・『あまり、ムリをしすぎるなよ。キャロル』」


 彼の一言はしかしキャロルには届いていなかった。好感度アップ時の彼のセリフなのだが、フィオナに夢中のキャロルは気づくことがなかった。

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