踊れトルソー
息抜きに。
シャーシャーと、図を書く音。
チョキチョキと、ハサミの音。
ガタガタと、ミシンの音。
出来た服は、トルソーへ飾る。
自己満足の出来。
けれども誰かにとっては良作かもしれない。
誰か、気に入ってくれる事を祈り、僕は店へ飾る。
ここは店と共同生活場のようなものが合体している場所。
アーティストは、それぞれの作品を店という場所に置く。共同だ。
訪れる客は、気に入った作品に好きな値段を付け買い取る。買い取られた商品と値段は、毎週、毎月、作品が売れるたび、自分の好きな時に知る事ができる。
自分が値段を決めるんじゃない、客が値段を決める。
でも、それが今の自分の実力の値段だと、思い知らされる時もある。
だが、それがいい。それでいい。
売上は、食事付きの共同生活などを抜いた分。
全額寄付もできる。
僕は、値段が知ればそれでいい。誰かが持って行ってくれればそれでいい。だから、僕は値段を教えてもらい、材料費を抜いて、あとは寄付。
それでなんとかなるさ。
・・・お腹がすいた。
誰かにおごってもらうでも良し。自分で何か作るでも良し。
うん、とりあえず食堂に行って考えてみることにしたが、邪魔な奴がいる。
『絵画』ジャンルのアーティスト。でかいキャンバスを食堂で広げて邪魔だ。
彼は作品を生活スペースにしか置かない。僕らアーティストにしか売らない。その報酬は、食べ物だ。
しかし今は、僕が食べ物を欲しい。
「・・・服の人」
「ん?あ、おはよう」
「・・・おは」
僕に話しかけてきたこちらの人、『面細工』のアーティスト。
「・・・おごる。話付き合え」
「了解」
どうやら、食事はなんとかなりそうだ。
ここでの食事方法は3つ。食券購入。自室で何か作る。誰かに何か恵んでもらう。
僕は彼女のおごりで、遠慮なく高いものを選ぶ。
そして、『パフォーマンス書道』のジャンルの暑苦しくうざいやつが来たり、食堂が賑わってきた中、彼女と2人で食事をとる。
「・・・踊るトルソー」
「ん?」
「外国の、都市伝説」
「どんなの?」
「・・・トルソー、胴体のみのマネキン。恐ろしい。それは、昔、人で作られていた」
「人の死体?」
「死体だったり、生きていたり」
「へー」
隣のテーブルの書道のあいつが、怖がっている顔をしている。もっとやってやろう。
「昔々、トルソーマニア、人を殺しトルソーに」
「人をトルソーにするならあれだね。首をちょんぎって、四肢切断して、支えの長い棒を肛門から突き刺そんだよね」
「・・・多分」
みんなは平気に食事しているが、隣のテーブルのあいつは顔面蒼白といったところだろうか。面白い。
「で?」
「殺され、怨念が詰まったトルソー。夜中に踊りだす。それは、まるで逃げようとしているかのようだった・・・」
「まあざっくり言えば、人の作ったものには怨念が宿るってことだね」
「・・・怨念がおんねん」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
あ、面を被ってしまった。こうなると彼女は、何も話してくれない。
・・・ま、いいか。隣の奴の嫌がらせも出来たし。
彼女に色々とお礼を言い、デザートの苺ケーキを床に絵を描きだしている彼にわたし、僕は部屋へ篭る。
ここからは、僕の世界。
現実世界に戻るのは、尿意か空腹のみ。
「・・・」
夕焼け色に照らされたトルソー。
ふと、彼女の話を思い出す。
「踊れトルソ~、朝~まで~」
昔流行った恋愛ソング。それを替え歌にして口ずさむ。
作品には、必ずしも何かの願いや思いが込められている。
それならば、僕の作品には何が込められているのだろう。
フッと笑いながら、今日もまた、僕はいつものようにトルソーと向かい合う。