第三話
車で屋敷に突っ込む。それがオウマの選択だった。
騒ぎを大きくし、とにかく衆目を集める。ド派手な事故で有れば有るほど、消防、警察が多く出動して来る。野次馬も同様だ。
考えたのは、そこまでだった。そこまでで十分だ。時間は無いし、方法も少ない。後先を考えられるだけの余裕は無い。妹が893に拉致監禁されているのだ。正気では何も出来ない。非日常を突破するには、狂気が必要だ。
幸運なことに、家の車は、機動用多目的車であるSUVだ。車高も高く、FR(フロントエンジン・リアドライブ方式)なので穂先も長い。衝撃吸収柵が付いていないので、荒野用多目的車であるRVほどではないが、それでも椅子かご(セダン)や室内高長大よりは、特攻向きだ。
突撃してくる不審な車に、正門の脇に立っていた門番が気付く。一人が懐から何かを取り出そうとするが、もう一人が制する。台詞と寒さに、白い息が漏れている。
広域暴力団指定の、噂は本当だったようだ。目撃されたら、銃刀法違反で捕まるのは本人だけだが、使用者責任が組長に、重く伸し掛かるの。近隣住民から賠償請求訴訟でも起こされたら、大事になる。その危険性を回避したかったようだ。
その躊躇の分、反応が遅れる。中に何か連絡を入れるのを、
パーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン!!
と、警音器を鳴らし続け、けたたましい音量で妨害する。アクセルはずっとベタ踏みだ。自動変速のギアが、最高速の六速に変速する。速度計は目盛り最大の百八十キロメートルを振り切っている。
ピンカン、ピンカン、ピンカン。
警告音が鳴り響く。正門まで後二秒。
門番一人が急いで飛び退く。残った一人、先ほど懐から何かを取り出そうとした一人が、今度こそ拳銃を取り出す。腕を伸ばし肩越しに狙いを定め、銃口を向け発砲する。
撃鉄が雷管を叩く。薬莢の火薬が発火、爆発。衝撃に薬莢内部から弾頭が押し出される。弾丸が銃身内に刻まれた回転印で横回転。速度を増す。鉛玉が照門で正確に合わせられた照準に向かい、音速弱で飛来していく。
特攻車の前方防護硝子の窓が、ひび割れる。射撃はオウマの眉間の位置を正確捉えてはいたが、貫通には至らなかった。
口径八ミリ、弾量七グラムの弾丸は、時速二百キロメートルで突撃してくる対象を目的とはしていない。その質量エネルギーと風圧に威力を削られ、貫き通せなかったのだ。その威力は、ガラスにヒビを入れただけに留まる。
だが、効果は絶大だった。
オウマの視界は奪われた。フロントガラスは安全上、粉々に砕ける設計となっている。事故時に乗員に突き刺さらないようにするためだ。
そのため一点の衝撃でも、全体的にヒビ割れる。蜘蛛の巣状に亀裂が走り、その白い線が視界を塞ぐ。
しかし、オウマは怯まない。もとより妨害は想定済みだ。脳内に正門までのイメージを焼き付かせてある。目で見えなくても、脳内残像を辿る。連続攻撃においては、目標物を目で追っているのも時間喪失になる。そのために使われる目切り(アイ・カッター)、脳内再生の武技を使う。。
オウマはイメージを再生し、ハンドルを微調整する。視界は真っ白でも問題ない。ヒビなのか雪なのか分からないが、車は真っ直ぐに正門へと向かっている。
狙撃手が飛び退く。車が登り坂の頂上で跳躍する。宙に浮かんだ三トンもの巨体が、木造の正門に体当たりする。
寸前、オウマはさらに身体を座席に押しつけ、衝突の瞬間にブレーキを踏み込んだ。全身を固め、特に鞭打ちで動けなくならないように、顎を引いて肩をすくめ、首回りを固める。バンパーが門扉に触れる。ハンドルを放し、両腕を額の前での交差させ、衝撃に備える。ここからは運任せだ。
衝突の瞬間、オウマは幸運の女神の名を叫んだ。
ユウヤ!!




