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プラウファラウド  作者: ドアノブ
一話 独立都市アルタス
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 格納庫に納められた、見慣れぬ万能人型戦闘機。

 その周囲に珍しげな視線を隠そうともせずに整備員達が集まっている。

 それはそうだろう。その機体の搭乗者は神業ともいえる操縦技術を見せつけて堂々と発着場へ降り立ったのだ。

 まるで機体の損傷を感じさせないその技に、感嘆の息を漏らすと同時にその搭乗者へと興味が向くのも自然なことである。


 シーモスが自分の愛機である蒼躯の『フォルティ』が降りると、まだその搭乗者は姿を現していないようだった。

 シーモスは整備員から渡された飲料ボトルを口に咥えながら、目の前に佇む機体に目をやった。


 片腕を失った痩躯の万能人型戦闘機。


 元は白い塗装が施されていたであろう複合装甲板も、今では見る影も無い。正面を始め各所が何かと衝突したかのように潰れているし、間接部に目をやれば人間でいう骨格にあたる内部フレームにも亀裂が走っている。

 

「……ありえねえな」


 この場にいる整備員達は皆、その着地を見て熱を上げている。

 だが、そうじゃない。 

 確かにあれは神業とも思える着地技術ではあったが、本質はそうではないのだ。


 シーモス=ドアリン中尉は知っている。


 あの機体の搭乗者は、あの壊れかけの機体を操り空を駆け、白兵戦兵装のみで三機の〈ヴィクトリア〉を容易に撃墜しているという事実。


 改めて認識してみて、馬鹿げていると呟く。

 シーモスは思わず操縦席がある機体の胴体部分を見やった。

 ひしゃげた正面装甲。その中に何か、得体の知れない化け物が入っているような気がしてくる。根拠もなく、このまま一生開かないほうがいいのではないか。そんな想像が――。


 だがそんな思いも露知らず。

 ギッと金属が擦れるような異音を僅かに発しながら、その搭乗口が開いた。

 形の歪んだ装甲板は、開閉機能には被害を及ばせなかったらしい。


 ざわめきを発していた者達が揃って口を閉じ、その場にいた誰もが口を開けた巨人の胸部を注視する。


 そしてそこから出てきた人物を見て、


「……こども?」


 シーモスの漏らした呟きが、湖面に垂れた一滴のように響き渡った。




 ***

 



 独立都市アルタス西方防衛基地所。

 現在交戦状態にある隣国メルトランテからの防衛を一手に担う、都市防衛の要所である。駐留万能人型戦闘機数は常に百を超えていおり、その稼働数も都市領域内では最大利率を誇る戦争の最前線。


「それでどうだった?」


 そこの一室。

 部屋の入口には『基地最高司令官室』という文字が刻み込まれている。

 そこは独立都市アルタス西方防衛基地所の最高司令官の仕事部屋であった。

 面積の限られた基地でも流石というべきか、部屋の敷居面積は広い。だが部屋主の気質なのか配置されている物は少なく、それがこの部屋を異様に寂しく感じさせた。

 無駄に腰が深く沈む応接用のソファーの慣れない座り心地に内心で顔を顰めさせながら、額から右頬にかけて大きな切り傷を持つ男は与えられた質問に答えた。


「はい。予想通りあの機体は今回の防衛戦に参加していた傭兵の中には登録されていませんでした。いえ……、それどころか、そもそも都市内にはあのような傭兵は存在していません」


 そう告げて、〈切り裂き(ジャック)〉とも渾名されるグレアム=ヴィストロ少佐は対面に座るこの部屋の主を見やった。

 真っ白な髪と髭を持った老人の域に差し掛かった男。だがその体つきには歳を感じさせる要素は無く、またその青い瞳には一切の曇りは無い。

 それらを証明するかのように、彼の着る黒い軍服の襟元には幾つもの勲章が存在を耀かしている。


 基地最高司令官であるソピア中将はその眉間に深い皺を寄せて、暫し何かを考えているかのようだった。

 それは一見深く物事を考察する、知謀を巡らせる軍官の姿に見えなくもないが、この様子を見せたときの最高司令官は大抵ろくでもないことを考えているということをグレアムは知っていた。

 英雄でその名を届かせるソピアであるが、どの伝聞を耳にする度にグレアムは頬の筋肉に力が入るのを必死に堪える必要があるほどだ。


 暫くして、ソピアは口を開く。


「搭乗者はまだ少年だという報告だったな」

「ええ。見た目から推測するに十三、四って所でしょうね。この予想はそう大きくは違わないかと。黒髪亜麻色の目をした、これは東洋の少数民族には見られる特徴です」


 独立都市アルタスと東はあまり関わりは無いが、それでもそういった特徴を持つ人種がいることは知っていた。ごく少数ではあるが、都市内でも市民権を得て暮らしているものもいる。


「……本人は自分のことをなんと?」

「レジスと名乗ったそうですが、他のことについてはだんまりです。部下の報告では通信機越しには普通に会話していたとのことですがね」

「ははは、まさか人見知りで喋れないというわけでもないだろう」

「小官もそう思いますよ」


 白い歯を剥き出しにして笑うソピアに、グレアムは溜息を吐きたくなるのを我慢しながら首肯する。


「――あとは整備の者達が機体について色々と気になると言ってきていますね」

「壊れかけの万能人型戦闘機だったな。具体的にはどんな言葉があがってきている?」

「あれが傭兵だった場合、下手に触れると協定違反になるので詳しくは分からないそうですが。外側から見る限り、かなり特異な機体だろうと。各メーカーの最先端技術を組み合わせているようにも見えると言っている者もいます」

「ほう。それは凄いな。私が知らない間に、技術者共は一致団結手を取り合っていたのか」

「……あくまで外から観察した限りです。それだけ高度な技術を用いられた機体だと考えた方が無難ですよ」

「なんだつまらん。そこまで来れば世界平和まであと一歩だというのに」


 本気でつまらなそうに語るこの基地の最高司令官を前に、思わずグレアムは自分のこめかみを押さえてしまった。

  

 そんな部下の苦悩を気にした様子も見せずに、ソピアは訊ねる。


「この件、少佐はどう思う?」

「私見ではありますが、恐らくスパイの類いではないでしょう。そう考えるにはあまりにもやることが杜撰すぎます」


 諜報員を潜り込ませるにしてはあまりにも場当たりすぎる。

 何か一つ違っていれば、あの搭乗者はこの基地には訪れていないだろう。それをスパイ活動と任命するにはあまりにも苦しい。


 その点は目の前の上官も同意なのだろう。特に否定意見も出さなかった。


「となると、傭兵。ただしアルタスにいた者ではなく、都市外部から来たということになるか。しかし、それならば何故黙秘を続ける必要があるのか。さっさと証明してセミネールにでも迎えに来て貰えばいい」


 そう悩むような口振りではあるが、ソピアの中でその答えは既に出ているのだろう。

 それはグレアムも同様であった。

 傭兵でありながら身元を明かさぬ。それはつまり知られたくない理由があるのだ。最悪、組織からの脱走兵という可能性もある。


「すぐにセミネールに報告し、引き渡すべきです」


 その立場にいないと分かっていても、思わずグレアムは進言していた。

 その声には確かな破滅への危惧がある。


「ふむ、何故そう思うのかね?」

「当然の判断です、あれがセミネールから追われる立場だった場合、匿ったりすれば粛正の対象にされる可能性もあります」


 傭兵派遣企業セミネール。

 万能人型戦闘機を初めとした多数の軍事兵器を保有し、それらを操る人材と共に世界中のあらゆる勢力に貸し出す特殊企業。

 その成り立ちも、他の組織との繋がりや、どのような営利形態をしているのかも不明。

 確かなのは彼らは世界で最も巨大な力を誇り、金さえ払えばあらゆるどんな勢力にも平等に傭兵を派遣するということである。

 技術の非干渉など、彼らを利用する際にはいくつかの取り決めがあり、それを破った場合はセミネールの粛正対象と見なされることになる。

 戦場を知る者でその恐ろしさを知らない者はいない。


「あの企業と敵対するなど馬鹿げています。失礼を承知で言わせてもらいますが、中将はアルタスを滅ぼすつもりですか」


 過度にも思えるグレアムの危惧は、決して大袈裟などではない。

 何故ならば、この世界でセミネールの粛正対象となって一ヶ月と保った勢力は存在しないのだから。

 その対象が組織であれ国であれ結末は変わらない、戦火が絶えないこの世界において絶対の頂点として立っている企業。それがセミネールだ。


 口調は静かながらも責める視線を隠そうともしないグレアムの顔を真っ直ぐに見やりながら、ソピアは飛ばすように軽く息を漏らした。


「――少佐。君はそのレジスという少年の戦闘記録を見たかね?」


 唐突に話が切り替わったように感じたグレアムは顔を僅かに顰めたが、彼は軍人である。上官の質問にはすぐに答えた。


「――もちろん見ました。あれは私の部下の機体に撮影されていたものです」


 セーラ=シーフィールド少尉。

 彼女の乗機に映像記録はグレアムも既に拝見していた。

 その時、グレアムの表情が僅かに強ばったのを目の前の老将は見逃さなかった。


「どう思った」

「それは……」


 醜聞を恐れずにはっきりと言ってしまえば、あの映像を見たときグレアムは戦慄した。あの機体で、あんな動きを出来る。確かにそれだけでも驚愕すべき事実ではあるのだが――


「隠さないでいい。正直、私も背筋が凍る思いをしたからな」

「はい……」


 その言葉にゆっくりと首肯する。

 そう、グレアムは間違いなくあの時、恐怖を覚えたのだ。


 三機の〈ヴィクトリア〉を相手に、あの半壊の万能人型戦闘機が攻撃を仕掛けた回数は僅か三度。白兵戦用のナイフを搭乗者のいる胸部へ三度差し込んだだけだ。

 そこには人を殺すという意思が何も感じられなかった。

 あったからとりあえず殺した。

 それを命を奪う行為とは認識しておらず、まるでただの作業のように。


軍用規格性能調整個体(ミルスペックチャイルド)を初めて見たときも相当驚きましたがね、あれはそれ以上です。死神でも目にしたんじゃないかと思いましたよ」

「はは、それは言い得てるな。いっそ、それをそいつの通り名にでもして流行らせるか」


 その言葉にグレアムは動きを止めた。

 通り名。つまりは周囲から使われる渾名であり、その人物が長い間そこに存在することを意味することでもある。


「まさか、あれを囲い込むつもりなのですか? セミネールはどうするおつもりで?」


 険しい顔つきをするグレアムに、ソピアは小さく肩を竦めた。

 その瞳は、まるで出来の悪い教え子見るかのような光を持っている。


「少佐。君の有能さを私は評価しているが、少々早合点が過ぎる」

「……どういうことでしょうか?」


 憮然とした気持ちになりながらも、グレアムは静聴する姿勢に入る。

 目の前の人物は巷で噂されるような英雄然とした人物では無いことは百も承知だが、優れた手腕を持つこの基地の最高司令官だというのも確かなのだ。

 何の考えも無しに発言しているとは思えなかった。


 ソピアは一つ頷くと、口を開いた。


「まず第一に、その少年がセミネール所属の傭兵だとは限らないこと」

「それは……、確かにそうですが」


 今までの仮定は全て状況証拠から推定したに過ぎないということは、グレアムも重々承知していた。しかし万能人型戦闘機などいう戦闘兵器を個人で所有していることなどほぼありえない。それに拠点も人材も無しにどうやってそれを扱うのか。


「まあこれは確かに楽観した考えだと私も思うがね」


 そうあっけらかんと言って、ソピアは人差し指で自分の頬を叩きながら続ける。老将にとっては、次の要素こそが重要だったのだろう。


「二つ目は、彼の機体が半壊していたという事実だ」


 その蒼い双眸がグレアムを射貫くように見やってくる。


「あれ程の卓越した操作技術を持つ搭乗者が、一体何と戦ってあそこまでの損傷を負った? 半壊していた機体であれだぞ? 万全の時であったらどれだけの力を発揮するのか。一体どんなものがあれをあそこまで追い詰めた?」


 それはグレアムも考えたことではあった。

 

 ソピアの言うとおり、あの搭乗者にあれだけの手傷を負わせるものなど通常の兵器では――


「まさか」


 そこまで考えを巡らせて、グレアムはその想像に思い至った。

 驚愕に目を見開きながら、言う。


「――すでにセミネールの追撃を逃れた後だと?」

「うむ」


 グレアムの言葉に、ソピアは頷く。


 件の少年がセミナールから何らかの理由により脱走してきたとするならば、間違いなく追っ手による追撃がかかったはずだ。


 その結果があの機体の成れの果て。

 全ての機能に異常をきたしていると言っても過言ではない、激戦の爪痕。


 しかし、同時にその機体は今も現存し、搭乗者も生きている。

 それが意味することとはつまり、撃破したのか撒いたのかそれは分からないが、セミネールからの追っ手を振り切ったということである。


 その可能性に気がついたとき、グレアムは思わず呼吸を止めた。


 もし仮にそうだとするならば。

 今自分達の基地においてあるあの機体はセミネールの最新技術で生み出された産物ということになる。例え氷山の一角に過ぎないとしても、かの企業の技術はどの勢力もが喉から手を出すほどに欲せられているものだ。

 それを自分達が独占出来る。


 グレアムは思わず目の前の上官を見返した。

 この老将はとっくにその可能性に気がついていたに違いない。


 グレアムは一つ頷くと、真剣な光を持った眼差しを向けながら言った。


「これは千載一遇の機会だ」


 勿論リスクはある。

 言うまでもなく、セミネールにこの事態が発覚した場合だ。

 彼らの粛正対象に認定されて逃れたものは存在しない。例え独立都市アルタスであろうとも、例外ではないだろう。


 普通であれば中将という立場であれ、一人の軍人が決めて良い案件ではない。

 然るべき事情説明を添えて、アルタスの運営政府へ通達し、そこで議論されるべき事柄である。


 しかしそれが出来ない理由がこの基地の最高司令官にはあり、その部下もまたそれを承知していた。


 事態の方向性を認識したグレアムは、早速行動に移そうと腰を浮かせた。


「――では搭乗者は排除。その後あの万能人型戦闘機の解析作業に移って……」

「馬鹿もん」


 部下のその提案をソピアは一蹴した。


「あれだけの搭乗者をみすみす殺すな。そんな面倒なことをしないでも事は進められるだろうが」

「しかし、搭乗者はずっと沈黙を保っているままです。こちらに協力的になるとも思えませんが……」


 そうグレアムが口にすると、老将はふるふると首を振った。


「そんな面倒な話ではない。いいか、自分の命令をきかない人を従わせたいときにはな――」


 そう言って、


「欲しいものを渡してやればいいだけのことだ」


 年甲斐の無い笑みを浮かべた。




***




 一方その頃。

 二人のいい年したおっさんおじいちゃんがそんな勘違いと共に明後日の方向の会話をしているとは露とも知らず、〈レジス〉は一人現状を整理していた。

 正確には一人ではなく、さして広くない室内にどう見ても子供にしか見えない女の子がいるのだが〈レジス〉は完全に意識の外にやっていた。余裕がなかったのだ。


 部屋にある椅子に腰掛けたレジスは冷静に考えを巡らせる。

 そもそも今のこの事態が『プラウファラウド』においてはありえない事態である。ゲーム内においてプレイヤーがアバターを操って移動出来るのは共通ロビー、ガレージの二つのみ。

 にも拘わらず、既に〈レジス〉はこの部屋に至るまでに格納庫を抜け外を歩くという行程をこなしている。まるで本物の世界を歩いているようだった。


 〈レジス〉は記憶を遡る。

 

 高校の夏休みの中盤。

 サーバーメンテナンスが原因で先日はリュドと現実で会って時間を潰した。

 次の日の朝、ランキング一位の報酬で運営から特殊兵装を貰い、その試し撃ちにフリーマッチに出た。

 その後RUNIからメールが届き特別任務へ。

 それから――

 それから――


 ここに至るまでの経緯を委細間違いなく思いだして。

 試しに〈レジス〉はその場で空気を撫でるように軽く手を振ってみた。もし『プラウファラウド』であればこれで簡易メニューが出現するはずである。

 だがしかし、訪れるのは痛いほどの静寂。メニュー画面も無ければそもそも何の手応えも無い。


 溜息を吐く。


 無駄に発想力のある〈レジス〉は、既に現状を理解するための説明を三つほど思いついていた。


 一つ目は、自分はまだ『プラウファラウド』内にいて、何らかの原因でログアウト出来なくなっていること。心情的にはこれが一番楽なのだが、知らない戦場領域やアバターの活動範囲など、いい加減バグという言葉で誤魔化すのも無理な領域に来ているのが難点だ。


 二つ目は、理由とかは知らないが『プラウファラウド』によく似た異世界に転移した。書体では割と目にする文面ではあるが、それを現実として受け入れるには色々と壁がある。


 三つ目は、元々自分はこの世界に住んでいた人間だが、戦闘に出た後遺症か何かで頭が完全におかしくなってしまったという線。紫城稔としての記憶が全て偽物ということになる心情的には最悪な説だが、受け入れられるならば現状の全てに説明がついてしまう。


「……はあ」


 思わず大きく息を吐き出した。

 厄介な点は、どの説も証明する手立てが全く無いことである。いや、三つ目の場合自分の知らない親友とか恋人が現れれば一発確定になるのかも知れないが。


 ともかく、どれが正解なのか分かれば、行動の指針も自ずと見えてくるはずなのだ。


 一つ目ならば、VRゲーム機本体の電池切れまで待てば良いだけであるし、そもそも二十四時間以上VRゲーム機が稼働した場合は強制的にログアウトされるように出来ている。これはVR規制法が出来上がる前に、仮想世界に意識を飛ばしたまま餓死した例が数件あったのが原因なのだが、それはともかくとして。


 二つ目ならば、元の世界に変える方法を探すということになる。正直全く何のあても無いが。


 三つ目なら、諦めて生きていくしかないだろう。幸い紫城稔の記憶を持った自分はそんなにこの世界を嫌ってはいないのだ。


 色々と考えて、結局の所意味の無い思考実験に過ぎないのではないかという疑念に駆られて、〈レジス〉は前髪をがしがしと弄った。


 結局の所、気付くのが遅すぎた感はある。

 もう少し早く現在の異常を受け入れられていれば、色々と選択肢もあっただろう。だが今の〈レジス〉が選べる手段は無いに等しい。こうして部屋に入れられている時点で、受動的にならざる得ない。


 部屋の入口に控えている少女に目を向ける。

 色々と考えていて全く意識をやっていなかったが、改めて見てみるとかなり容姿の整った少女である。しかし同じ美少女でもリュドとは全く雰囲気が違う。目先にいる彼女は作り物のようで、精巧に作り出された人間の偽物のようだった。

 最も気になるのはその真紅の瞳だろうか。現実 ――と言っていいのかどうか現状では不明だが ―― ではまず目にしない色である。


「……なあ」

「なんでしょうか」


 試しに声をかけてみると返事が返ってきた。

 無視されるかとも思っていただけに、少し意外な気持ちになる。


「そこで何してんの?」

「あなたを見張っています」

「……」


 そうだとは思ってはいたが、その直球な物言いには流石に閉口する。しかしそれも数秒。少しでも情報が欲しい〈レジス〉は会話を続けた。


「ちなみに、今俺が無理矢理出ようとしたら?」

「力尽くで押さえ込みます。また、殺害は許可されていませんが発砲の許可はいただいています」

「あー……、そう」


 少女は表情を一ミリたりとも揺らさずに答えた。

 とりあえず、逆らうのだけは絶対に止めておこうと心に誓っておく。それから少し考えて、訊ねてみる。


「ところで『プラウファラウド』って言葉に覚えは?」


 あまり期待はしていなかったが、それでも気がつけば引きずられるようにその質問を口にしてしまっていた。


 少女はその赤い双眸で〈レジス〉を凝視していたが、やがて静かに首を振った。


「その言葉に私は聞き覚えがありません」

「……そっか」


 まあそうだよなと口の中で呟いて、〈レジス〉は少女から視線を外した。

 そして考える。


 今後自分はどうなるのか。

 どうやらここは軍隊の施設であり、自分はそこに連行に近い形で連れられてきたと言うことは理解している。当然と言えば当然で、戦場で正体不明機(アンノウン)が現れれば、怪しむに決まっている。

 まあそれも〈レジス〉はこの世界の常識を知らないので何とも言えないところではあるのだが。


 現状を自分の知る知識に照らし合わせたらどうなるだろうか。

 監禁して尋問や取り調べが妥当な線だろうか。

 どこかに救いを求めるならば、ここまで〈レジス〉と〈リュビームイ〉を誘導してくれたシーモス中尉という人物は身の安全は保証すると言っていたことだろうか。勿論、それが口約束であり何の拘束力も持たないものではあることは百も承知なのだが。


 拷問とかは本当に勘弁して欲しい。


 暫くそんなことを考えていると、入口から新しい人物が二人部屋に現れた。

 その姿をみて〈レジス〉は思わずぎょっとする。

 人を見かけで判断するのは良くないと知ってはいるし、心がけてもいるが、それでも今回の二人は相手が悪い。

 一人は骨肉隆々とした筋肉質な男であり、その額から右頬にかけては深い切り傷の後が刻まれている。マフィアやギャングと説明されれば、すぐに信じてしまいそうな見かけである。

 もう一人の人物は、一見すれば年を取った男性としかいえず、取り分け何か外見的な特徴があるわけでは無い。しかし衰えを一切感じさせぬその引き締まった肉体と、襟元についた勲章の数、そして何よりもその身に纏った空気が、ただの老人など言う言葉を掻き消していた。


 突然現れた二人の存在に〈レジス〉は内心で土下座したくなっていた。


 なんか見るからに怖いし!

 さっきの少女は敬礼してるし!


 そんな少年の脅えを察してるはずもなく、グレアムは自らに恐怖を覚えさせた〈レジス〉に最大限の警戒をし、ソピアは強ばった〈レジス〉見て流石に油断の無い引き締まった表情をしているなどと勝手に感心していた。


 そうしてから二人の大人はどちらともなく目配合わせをすると、口を開く。


「君はレジスと言ったな」

「……はい」

「初めまして。私はソピア=ノートバレオという者で、この基地の最高責任者などをやっている」


 その出てきた言葉に〈レジス〉硬直した。

 いま目の前の老人はさらりと言ったが、基地の最高責任者なんて大物が現れるなど露とも想像していなかったのである。

 だがそんな〈レジス〉の様子を気にとめた様子も無く、ソピアは続けて言った。


「君には是非とも私達に協力して欲しい」


 予想外の人物に予想外の言葉。

 困惑気な〈レジス〉の表情をいったいどう受け取ったのか、ソピアは分かってると言わんばかりに頷いてみせた。




「――勿論、報酬は用意してある。君がもし我々に協力してくれるならば、アルタスの永久市民権及び戸籍をあげよう」







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