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お花屋さん ー春ー  作者: ニケ
18/21

サクラ ~心の美しさ~3

杉崎に急かされながら派出所へと急いだ。その間にも隣を見れば杉崎が楽しそうに走っている。自転車に乗った西森よりも速いスピードで前に出て、振り返りながら、早く!と急かしていた。嬉しそうでわくわくとした杉崎の顔を見ていると可笑しくて笑ってしまう。はいはいと返事をしながら西森はさらに強くペダルをこいだ。派出所が見えてくる。この辺りの花畑にはなかなか行かないので西森としてもとても楽しみだった。



派出所に着くとがらんとしている。そういえば表にパトカーがなかったなと思い出し、ゆっくりと中に入っていった。大きく声を上げながら派出所の様子を伺う。警官が敬礼しているポスターや大きな地図などが置いてあり、普段目にしたことのないものばかりで西森はキョロキョロと辺りを見回した。蛍光色のストラップや警察のマスコットのぬいぐるみもある。面白い。隣の杉崎を見れば、来るときにあんなにはしゃいでいたのに今は緊張した面持ちで辺りを見ている。聞いてみると急にドキドキと落ち着かなくなったらしい。



「あれ。。?どうしたんだろ?やっとあの天使に会えると思ったのに。。」



ぶつぶつと小さくなっていく声を何とか拾い上げて西森は励ますように大きく頷いた。勢いはあるが、怖くなったのだろうか。しばらく派出所にいても誰も居ないようなので周りの花畑に行ってみようかと向きを変えた時、後ろから車の音がした。杉崎も気づいたようで西森の方を見て派出所の外へと歩いていく。車から降りてきた女を見た瞬間、隣から美しい。。と呟く杉崎の声が聞こえた。西森は女に頭を下げる。見つめた女が嬉しそうに西森に笑って隣の杉崎に首を傾げた。



「西森さん!いらっしゃい!あなたとはゆっくり話をしたかったの。それと事件のことで進展があったから。今日にでもお花屋さんにお邪魔しようと思ってたのよ!っと、あなたは確か、この間の。。」



女が言いかけた直後、す、すすす杉崎です!!と震えた大きな声が聞こえた。あまりの大きさに西森は首をすくめる。女は笑って、そう!杉崎くん!!と近寄っていた。思い出したわ!と軽やかに笑いながら肩を叩く女に杉崎は緊張しながらも嬉しそうに笑っている。頬が赤いが西森は気づかないふりをした。後でからかったやろう。女は西森と杉崎を派出所のソファへと招いて、お茶を淹れようと急須を取り出している。俺がやります!!との杉崎の提案に、じゃあお願いとにっこり笑った。



「来てくれてありがとう。伝えたかったのよ。あ、私、夏川さつきって言います。みんなさつきって呼んでるから、そう呼んでくれると嬉しいです。でも。。お会いできてよかった!西森さん!うふふ」



さつきさんと言うのか。。この間旅館で襲われた時に助けてくれた人だった。警官だと言われるとそうだろあなぁと納得する。可愛らしい雰囲気もあの時と同じで太陽のような笑顔に心が和む。さつきの言葉に西森は首を傾げた。事件のことで会いたかったのだろうか。不思議そうに見つめる西森にさつきは笑って手を振っている。



「違うの。あの速水の片想いの相手だから、すっごく会いたくてね。。でも旅館で抱き合ってたってことは、恋人同士なんでしょ?もう、びっくりしちゃった!この間の空手部交流会で速水の雰囲気が変わってたから、もしかしてって思ってたのよ」



うふふ。優しそうに笑いながら西森にウインクをした。そうだったのか。と言うか速水の知り合いだったなんて、少し驚く。速水は無口だし友人なんて居なさそうだったから意外だ。西森が告げると、そうねぇとさつきは何やら考え込む。杉崎がお茶を持ってやってきた。ありがとうと受け取りながら笑うさつきに見とれてぽかんと口が開いている。



「速水がここの高校の空手部だったことは知ってます?中学の時から強いって有名で、特待生で高校に入学したんです。私も空手部に入部したから、そこからの付き合いですね」



杉崎のお茶を啜って美味しいと呟いている。安心したように笑うさつきはとても可愛らしい。杉崎をちらりと見れば、惚けたようにだらしない顔をしている。可笑しくて笑うのを堪えながらこれは速水に絶対伝えようと心に固く誓った。



「速水、本当に強くて。。私だって悔しくて何度も挑戦したの。でも、速水にだけは勝てなかったな。他の連中には勝てたのに。どうしてだろ?」



思い出すように上を見上げた。一つ息を静かに吐いてぼんやりと天井を見ている。惚けていた杉崎が少し真面目な顔をしてさつきを見ていた。西森も先程の明るい雰囲気とは違ったものを感じてさつきを見る。もう一度息を吐いてぽつりと静かに口を開く。放心したように目は少し虚ろだった。



「あの時も今も。。速水には勝てない。技術とか気持ちとかではないの。なんか、別の。。そうね。。大切なものを持ってるっていうの?ただ自分のために勝つってことじゃない気がして。。よくわからないけど、私と速水とでは違う。根本的な何かよ。今回の交流会でも負けちゃった。。」



悲しそうな苦しそうな声に西森は心配になってさつきを見る。ずっと黙っていた急に杉崎が静かに言葉を紡いだ。はしゃいでいた時とはまるで違う落ち着いた深い声だった。



「。。速水さんに勝つ必要あるんですか?。。そりゃあ、あの人の強さは化け物だし、俺も勝てたことないですよ。でも、速水さんはあなたに勝とうとはしてなかったはずです。俺、近くで見てましたもん。戦う必要はないんじゃないですか?」



空手をやったことのない西森にはよくわからない世界だが、確かに速水とは戦いたくない。一見優男で筋肉がたくさんついているという訳ではないのに、速水は強い。鋭い目に見つめられるとどうしようもなくて。速水のことを思い出し、西森は静かに目を閉じた。ここで照れてどうする。お茶を取って落ち着かせるように一口啜る。そんな西森に気づいていない杉崎はさつきをじっと見つめている。手合わせって感じでしたよね。強い口調で話した。戦いと手合わせ。きっと違うものなんだろうなぁと西森はぼんやりと思う。さつきが杉崎を見つめる。さつきの悲しそうな目を真っ直ぐ見つめて杉崎はゆっくりと伝えた。



「あの時のさつきさんって、とても必死で何か速水さんに敵意を持って向かい合っていましたよね。詳しく言えば、他の人を速水さんに見立てて攻撃していた。違いますか?」



驚いたように見開くさつきを杉崎は真剣な目で見つめている。さつきの顔つきが変わった。明るくて優しい顔がみるみると強張って、口がかすかに開いている。怯えたような目の中に強い怒りが込められていて西森は心配になって杉崎を横から強く揺さぶるった。でも杉崎は変わらずにさつきを見つめている。堪らなくなったのか、さつきが視線を外す。下を向いて黙ってしまった。わなわなと体が小刻みに揺れている。嫌な予感がして西森はさつきに声をかけようと口を開いた時、急にさつきが顔を上げる。激しい怒りを全身にぎらつかせ、憎しみを込めた目で杉崎を見つめた。今にも飛びかかりそうな好戦的な雰囲気に西森は息を飲む。何もできずに二人を見守ることしかできなかった。



「何よ。。!!わかったような口利かないで!!あんただって速水に勝てないんでしょ!!だったら、同じよ!!あんた、本庁から飛ばされた負け犬のくせに!!偉そうに言わないでよ!!」



狂ったように杉崎に言い放ち、胸ぐらを掴んでそのまま投げ飛ばした。素早く滑らかな動きに呆然と西森はその光景を見つめる。さつきが倒れた杉崎を起こして殴ろうと拳を振り上げた。不味い!!と西森が立ち上がった時、拳が杉崎に向かって落ちていく。もうだめだと思い、西森は思わず目を閉じた。しーんと静まり返った不思議な時間が流れる。大きな音も何かが倒れる音も聞こえてこない。恐る恐る目を開けると杉崎の顔の前でさつきの拳が止まっている。



「どうしたんですか?殴りたいのなら、殴ればいいでしょう。俺はあなたに言ってはいけないことを言ったから」



穏やかな杉崎の声が聞こえる。意味がわからないと顔をしかめるさつきに杉崎は静かに口を開いた。二人の視線はずっと交わっていて、西森は心配で張り裂けそうな胸を抑えながら見守っていた。



「あなたが男に対して、対抗意識と敵意を持ってることはとても伝わってきました。ずっとあなたのことを見ていたから。。話しかけたくて、でもできなくて。ここに配属になって、久しぶりに見たあなたはとても綺麗だった。昨日の交流会でも、ずっと見ていた。男への対抗意識がなくなるまで。待ってるつもりだったのに。。」



悲しそうに顔をしかめながらも、ゆっくりとさつきの拳を包み込む。そのまま自分の胸の辺りに持ってきて大切に

握りしめた。辛そうに目を瞑って、言うべきではなかったですね。静かに呟いている。さつきは意表を突かれたように呆然と杉崎を見ていた。



「でも。。俺、もう傷ついているさつきさんを見ていたくないんです。男への対抗意識と敵意に無理をして強くあろうとするさつきさんを放ってはおけない。我慢できなくてすみません!!でも、俺、もう待つだけなんてできないですよ!!」



握りしめた手を強く引いて倒れてきたさつきを強く抱き締める。いつの間にか杉崎は泣いていた。さつきは抵抗することすら忘れていたように放心して大人しく杉崎に抱き締められている。さつきさん。何度も名前を呼びながら杉崎は頭を撫でていた。小さな優しい呟きがかすかに聞こえてくる。



「さつきさん。俺は、ここに配属されてすごく幸せです。こうやってあなたのそばにいることができる。。飛ばしてくれた先輩や上層部に感謝してるんですよ」



昨日の交流会で長い間憧れていた人が不意にやってきた。時々、速水と対戦する人に杉崎は心を奪われずっと密かに探していたのだが会えず悲しい思いばかりをしていたのだ。あの天使のように清らかな美しい人は誰だと速水に問い詰めても全く教えてもらえない。速水は杉崎が言う天使がさつきだとは思わなかったので、罪はないのだがすれ違いは続いた。昨日の交流会の帰り速水に聞いてみると、近くの派出所に配属されている人らしい。遠回りをしてちらりと派出所の中を覗き見れば、昨日の天使がそこにいるではないか!居ても立ってもいられず、旅館に着いてそわそわしている所に速水と西森がやって来て駆け出していたのだ。



「やっと会えた。。名前もやっとわかった。。俺、ずっと待ってますから。さつきさんの男へと対抗心と敵意がなくなるまで。それまで何度でも受け止めますから。俺を、俺を憎んでください」



杉崎から止めどなく涙が溢れている。西森はそっと見守っていた。空手や勝負のことは自分にはよくわからない。でも、杉崎はずっとさつきを想っていたのだなということは強く伝わってくる。さつきに伝わるだろうか。心配しながら見つめていた。



杉崎の腕の中で静かだったさつきがもそもそと体を動かす。ゆっくりと腕を解く杉崎をさつきは強く睨んで手を上げた。叩かれると思って目を瞑った杉崎のおでこに指を軽く弾く。驚いて目を開ける杉崎に、生意気ねと一言呟いた。少し涙目ではあったが、あの激しい怒りや憎しみはもう何処にもない。照れたように少し笑ってさつきは口を開ける。



「もう。。酷いこと言ったのに、何よそれ。ここは田舎町なのよ。出世とか

縁がないんだからね。。エリートの癖に。。幻滅したって知らないんだから。。」



ふわりと優しく笑ってもう一度杉崎のおでこにデコピンをお見舞いしていた。嬉しそうに屈託なく笑う杉崎と優しく見つめているさつきがとても微笑ましい。西森はほっと胸に温かなものが広がっていくのを心地よく感じていた。しばらくそのままでいた二人が派出所にかかってきた電話の音でビクッと体を揺らす。慌てて杉崎から離れたさつきが電話応対に追われていた。頬が赤くて可愛らしかったが、恥ずかしそうなので見て見ぬふりをする。またにやけた顔に戻った杉崎を連れてさつきに手を振る。二人の温かな姿を見ていたいがもうそろそろ旅館に戻らないと速水が配達に遅れてしまう。気づいたさつきが西森に手を振って穏やかに笑っている。優しい笑顔に癒されながら、惚ける杉崎を引っ張っていく。風に乗ってやって来た桜の花びらが祝福するかのようにひらりと優雅に舞っていた。

とりあえず、サクラの話は終わりです。頭がふらふらしております。。今回は長かったなぁ。。ではでは皆様、これからも素敵な時間をお過ごしくださいね(*^^*)

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