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お花屋さん ー春ー  作者: ニケ
15/21

スノーフレーク ~汚れのない無垢な心~2

旅館へ着いて女将を降ろし西森の自転車を積んで花屋へと速水に送ってもらう。おにぎりを取り出して鼻を近づけてみると変な匂いはしない。でも、心配だ。持って帰ろうとする西森の手から速水はおにぎりを奪い取った。



「ほら、削り節。またおかか頼むぞ」



奪われて掴むものがなくなった手にさっと削り節の袋がやって来た。渋々受け取る西森を速水は嬉しそうに優しく微笑んだ。花屋に到着すると速水から何やら小さい機械のようなものを手渡される。この小さな機械の丸く赤い出っ張りを引っ張って外すと大きな音が鳴り響き、警察署まで連絡が届くらしい。驚きながら速水を見つめる。



「何かあったらすぐ外せよ。遠慮するな」



先程までからかっていた楽しそうな目が急に真剣さを宿して真っ直ぐ見つめてくる。心配そうな色も混ざっていて少し苦しそうだ。そばにいたいのだなとわかって自分を心配してくれる速水の気持ちが嬉しかった。口元を上げて笑ってみせる。大丈夫だと伝わるだろうか。急に手を引かれ体を強く抱き締められた。何も言わずさらにきつく抱き締められて、胸が熱くなる。西森はそのまま身を委ねていた。速水の温もりが体全体を通して伝わってくる。心地よい安らぎとどうしようもない胸の高鳴りを感じて静かに目を閉じた。速水のポケットから携帯の音楽が鳴る。そっと離して西森を見た。



「行ってくる。またな」



想いを振り切るように短く呟いて携帯を取る。後ろを向いてトラックへと行ってしまった。遠くなるトラックを見えなくなるまで見送って西森は一つ息を吐く。途端に溢れてくる寂しさに苦笑しながら明日の花籠を作るために出掛けようと外に出た。



「あの。。!!すみません!お花屋さんですか?」


外に出た瞬間、声をかけられたので体がびくっと震える。相手にも伝わったようで、すみません!と謝る大きな声が聞こえた。声のする方へ視線を送ると、少し距離がある位置で若い男が立っていた。二十代半ばだろうか。西森目掛けて走ってくる。すぐ目の前にやって来て少し遠い距離を走ってきたのに息は切れておらず動きも軽やかだった。スポーツか何かをやっているのかもしれない。男についてあれこれと考えていると男は西森に自己紹介をする。



「あの。。!俺、今朝の事件の連絡を受けてここに来た、杉崎って言います。あなたが花屋の西森さんですよね。これから夕方まで護衛するように言われました。事件が起きた後の鎮まったかに見える今のような時間が危ないんです。護衛しますので連れていってください」



驚いた。この若い男は警官なのか。驚きのあまり固まっている西森にどこに行くのですか?と聞いてくる。止まっていた意識を再開させて咄嗟に笑いかけた。今日はなんだかんだといろんなことが起きている。頭がついていかない。



「花籠を作るために花を摘みに行くんです。昨日の雨で花畑がどうなったかも見たいですし。。護衛って。。でも、俺、自転車で回りますよ」



言いながら男の周りを見渡しても何もない。歩いていくとしても少し距離があるし、行かないのなら裏庭の花で作ってもいいが明日もまた10組の花籠を作る。いざという時のための裏庭の花だ。なるべくなら自転車で花を摘みに行きたい。申し訳なさそうに言う西森に目の前の男は朗らかに笑っている。



「大丈夫ですよ。俺は走って行きますから。気にしないでください。いいトレーニングにもなりますしね」



花摘みですか。なんだかロマンチックです。にこにこと笑う男は何とも思っていないらしい。学生の頃にそんなトレーニングをしましたと爽やかに言ってのけた。何だかキラキラしてるなぁと西森は思う。問題ないなら遠慮なく自転車に乗っていこう。西森は男を連れて花摘みへと丘を目指した。



自転車を強くこいでかなりのスピードが出ているのだが、後ろからやってくる男の気配は遠くならない。いつの間にか横にやって来た男が大きく息を吸いながら楽しそうに両手を上に挙げる。気持ち良さそうに走っている姿に西森も嬉しくなって自転車をこいでいく。目指していた花畑が見えてきた。男が歓声を上げる。



「うわー!!綺麗ですね!!なんかテンション上がりました!!」



子供のように無邪気な笑顔に西森も思わず笑顔になる。ここの花を摘むからと伝えていつもの通りに感謝の気持ちを込め手を合わせた。不思議そうに西森を見ていた杉崎に、すべてのことへ感謝を込めて祈りながら花を摘むのだと伝える。あんなにはしゃいでいた杉崎の顔がふっと無表情になる。どうしたのかなと思った瞬間、杉崎はぼそりと呟いた。



「すべてのことへの感謝って。。悔しいことや理不尽なことへも感謝するんですか。。?」



嬉しそうに笑っていた時と今の杉崎の表情のギャップに西森は驚く。そうだと伝えると顔を曇らせて西森を睨んだ。その目は憎しみに満ちている。あまりの変わりように目を見開いた西森に杉崎は吐き捨てるように声を荒立てた。



「そんなの。。!!だだの負け犬の遠吠えですよ。!!それじゃあ、悔しいことにも理不尽なことにも屈しろってことじゃないですか!!」



俺はそんなこと出来ない!!したくない!!顔をしかめて西森を強く睨んでくる。西森は驚いたが事情がありそうだなと静かに杉崎を見つめた。憎しみの中に悲しみが含まれていることも何となく感じる。何かに傷つついて苦しんでいるのだなと思う。花は人を正直にさせる。何も言えず杉崎を見守ることしか出来ない。静かに自分を見ている西森に杉崎は視線を下に落とした。悔しそうに手を握りしめて絞り出すように声を出す。西森はそっと耳をすませて杉崎の声を聞いた。



「俺は。。俺は本当はここに配属される予定じゃなかった。。!!俺の先輩がここに来る予定だったんだ。でも。。先輩に騙されて。。先輩がやったことの後始末として俺が泥を被ったんだ。。悔しくて悔しくて。。周りはみんな先輩のせいだってわかっているのに誰も何も言わない。。先輩の親父が幹部だからって。。!!」



顔を上げて西森を真っ直ぐ睨んでくる。怒りを露にして体が小刻みに揺れていた。雷雨が去って軽やかな優しい風が西森と杉崎の周りをゆっくり流れていく。西森はそっと目を細めた。



「ここに来ることが嫌って訳じゃありません。配属されたら、しっかり力を尽くします。誰かを守ることに憧れて警察になったんですから。それは俺が選んだことだし。。でも。。裏切られたことが悔しいんです。感謝とかしたら。。屈したみたいで。敗けを認めたことになるじゃないですか。。!!」



それが納得いきません。真っ直ぐに自分を見つめる杉崎はとても純粋な人なんだなと西森は感じた。どんなに睨まれても激しく怒りをぶつけられても全く怖くない。速水の鋭利で熱い視線の方がよっぽど怖い。いろんな意味で。素直な怒りをぶつけてくる杉崎はなんだか可愛い。そう思ったら杉崎が愛しく見えてきた。西森は杉崎に向かって優しく微笑む。杉崎の目が大きく開いて動きが止まってしまった。予想できないことが起きて驚いているようだ。構わず西森は大きく笑って杉崎に提案する。



「ねぇ。花を摘んでみないか?好きな花を探しなよ。俺も明日の花籠用の花を摘むからさ。一緒に」



返事がない杉崎を放っておき、西森は手を合わせて息を吸い込む。心が落ち着くのを感じて目を開けた。花たちとの対話が始まる。一心不乱に花たちと向き合った。しばらく花を摘んでいる西森を呆然と見ていた杉崎が、周りを見渡して花を探しだした。雄大な花畑に目を奪われながら気の向くままに足を進めている。夢中で花を摘んでいた西森は杉崎の大きく呼ぶ声に顔を上げた。



「西森さーん!!この花好きです!!何て言うんですかーー!?」



いつの間にか邪気のなくなった笑顔で大きく手を振っている。そばに駆け寄って杉崎が見つけた花を見て西森は優しく笑った。



「スノーフレーク。花言葉は汚れのない無垢な心。うん。杉崎くんにぴったりだね」



小さくて可愛らしい花を見ながら西森は笑った。汚れのない無垢な心。。スノーフレークの花言葉を杉崎は口ずさみぎゅっと唇を噛む。何かを考えるように下を向き、しばらくして西森の方を見上げた。悔しそうに眉をひそめていたが、笑いながらはっきり答える。



「。。俺、本当はこの怒りも悔しさも抱えていたくないんです。乗り越えて力にしたい。でも心の中からどんどん溢れてきて止められない。どうしようもなくて。。もどかしかった。コネのある先輩への嫉妬や怒りでどうにかなりそうで、自分が汚くなりそうで怖かった。でも。。汚れのない無垢な心。。この花がそう言ってくれるなら。。頑張れそうな気がします」



吹っ切れたように穏やかに笑う杉崎の顔が可愛くて、西森は大きく頷いた。この花を速水にも見せてやろう。そして新しくやってきた杉崎のことを話そう。



「すべてに感謝するって聞いた時、悔しさが溢れてきました。先輩から裏切られたことを思い出して。。でもこのスノーフレークの花を見ていたら急に思ったんです。あの時泥を被らなければ、この花には出会えなかったし、こんな綺麗な花畑も知らなかった。。なんか得した気分。。西森さん。これからもよろしくお願いしますね」



西森の前に手を出して無邪気に笑っている。悔しさや理不尽さにはなかなか感謝することは難しい。でもきっとそこには大きな喜びと楽しさが待っている。こちらこそ!西森は励ましの気持ちも込めて目の前の手を握って握手をした。

しょうが焼き旨し!でございます。ではではまた~(*^^*)

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