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お花屋さん ー春ー  作者: ニケ
13/21

スターチス ~永遠に変わらない心~

温かくて心地よい温泉から出ようとしても出られない。それどころか自分を包み込む温かい何かがぎゅっとくっついてきて危ないのになぜか嬉しくなった。このまま溺れてもいいかなと思ってくる。体も心もゆったりとしていて、今まで経験したことのないふわふわで柔らかく優しいもの。抵抗する気持ちが薄れていく。



(。。気持ちいいなぁ。。このまま沈んで。。)



重い瞼を開けてみると真っ暗で息苦しい。これはもう本格的に駄目だと思い覚悟を決めた。温かくて心地いいものの中でゆったりと死んでいく。ああ、誘惑に負けてしまった。みんなごめんなさい。西森が何もかもを手放そうとした時、視界が少し明るくなる。覗きこむように現れた速水のドアップに西森は激しく動揺した。動かなかった手足が急に動く。近すぎる!!とにかく速水と距離を置きたくて必死に体を動かした。



「。。?起きたのか?。。くすぐったいなぁ。もう少し力を入れろよ」



遊んでいるのか?爽やかな速水の笑顔に西森はさらに混乱する。どんなに力を入れても自分を抱き締めている速水の腕の力には敵わない。照れで少し遠慮していたが今は本気で暴れているのに全くもって、びくともしない。なんなんだ、こいつの力は!



「あ、遊んでいませんって!!これでも必死で!動いているんです!!」



へぇ。。速水の顔を見てしっかり睨むと気の抜けた声が聞こえて体の縛りが緩くなる。西森は安心したように息を吐いた。普段、力仕事と言ったら鉢植えを動かしたり花壇を綺麗にしたりたくさんしているつもりだったのに。簡単に捕らえられてしまった自分が少し情けない。悔しくてまた睨むと今度は優しそうに微笑まれて一気に顔が赤くなる。どうしよう。。目のやり場に困った。速水はそんな西森の動揺に気づいているのかいないのか。優しく穏やかに見つめている。そっと顔を撫でられれば、恥ずかしい気持ちを通り越してくすぐったいような嬉しさが溢れてきた。速水の目には温かさが満ちていてその目が自分に真っ直ぐと向けられている。自分の心が熱くて恥ずかしい。それと同じくらいに温かかった。昨日のことを思い出して照れ臭いけれど、速水がそばにいるんだなぁと今更ながら思い、ほっと安心する。あのまま速水が帰ってこなかったら。そう思うとゾッとした。頬を撫でている速水の手を西森は優しく掴んだ。



「昨日はどうして連絡してくれなかったんですか?。。女将さんは本当に心配していました。きっと会社の人達も正宗さんもそうですよ。。女将さんは速水さんのこと息子さんのように思ってるんですから」



昨日、ずっと聞きたかったこと。何があったのか。そして、なぜそんなにも悠長に構えてここに来たのか。西森は速水がいなくなったらという恐怖が再び涌き上がってきて強く睨んだ。頬を撫でる手の温もりは心地よいが誤魔化されたくない。握った手の動きを封じ込めるように掴む力を強めた。速水はじっと西森を見ている。真っ直ぐな目は変わらず、ごめんと小さく呟いた。捕らえられた手をそのままに西森にキスを贈る。不意の攻撃は西森に更なる動揺と照れを与えたがなんとか睨む目を保った。



「。。いつものように都会での配達を終えて、新しい荷物を入れたんだ。そのままここに向かって。都会を出たのが昼だから夕方には着くはずだった」



いつもの配達にいつもの仕事。なんら変わりのない普通の出来事。日常。高速に乗って法廷速度を守って車を走らせていた。



「ここと都会のちょうど真ん中くらいにサービスエリアがあるんだよ。そこでコーヒー買って休んだ。いつものことだぜ。違うことはやってない。でも。。」



甘えるように西森の顔にすり寄ってくる。頬にかかる吐息が温かい。西森の温もりを感じるように速水はそのまま強く抱き締めてきた。西森は驚く暇もなく為されるがままだ。激しく鼓動が乱れて速水に聞こえないかと半ばパニックに陥る西森に気づかず速水はゆっくりと口を開いた。



「事故って起こるんだな。何もかもがいつもと同じなのに。どうしてだろ。。助かったのが奇跡だって言われたよ。事故の状況ってあんまり覚えてないけど」



胸の高鳴りと人生初めてのパニックに西森は気を取られて反応が遅れたが、事故という言葉に耳を疑いながらも心が急に冷たくなっていくのを感じた。事故。。事故って。。?詳しく聞きたくて声に出したいのに口がパクパクと動くだけで何もできない。全身に震えがきて怖くなって速水にしがみついた。速水は優しく西森の頭を撫でながら思い出すように少しずつ話していく。



都会での配達を終えて、新たな荷物を運ぶため田舎町への道をいつも通り走っていた。事故が起きたのは田舎町に到着する予定の2時間前だ。サービスエリアでの途中休憩を終えて会社へと連絡し、荷物を確認して高速道路に合流した直後だった。左車線を走っていた速水のトラックに右側から何かが激しくぶつかってきたのだ。咄嗟にハンドルを切って左に寄ろうとした瞬間、目の前に車の姿が見えた。普通自動車が宙に舞い速水めがけて飛んでくる。避けたくても避けきれず思いっきりハンドルを左に切った。想像以上の衝撃とタイヤの摩りきれる音。耳を塞ぎたくなるようなクラクションの中で目を瞑る。しばらくして何もかもが止まり不思議な静寂がやってきた。体を動かそうにも動かない。誰かが車の窓を叩いて必死に声をかけている。ぼんやりとした意識の中で次第に重くなっていく瞼をゆっくり閉じた。



速水が目を覚ましたのはそれから大分後の夜中だった。目を開けて周りを見渡してみると、真っ白いカーテンや真っ白い天井。白い服を来た男と女が歓声を上げながら話しかけてくる。何を言っているのか聞こえなくてぼんやり見る速水の目をしっかりと見つめていた。腕を見ると点滴がしてあって息が苦しいと思ったら何やら口にはまっている。徐々に声が聞こえてきた。



「大丈夫ですか!?き、奇跡だ!!とにかく検査を!!まずはお名前を聞かせてくれますか!?頭や体で痛い所は!?」



興奮気味の男にまずはこの口にはまっているものを取ってくれと伝えて、名前と体が怠いことを伝えた。安心したように笑う男と女にここは何処だろうと聞いて驚く。そういえば車が飛んできたなとのんびりしている速水を病院の医師と看護婦はあなたは凄い人ですねぇ。と笑っていた。



「それから、もう夜中過ぎだって聞かされて慌てて電話を借りたよ。検査するって聞かないから、とりあえず連絡させてくださいって。トラックの荷物も気になったし。それでお前への連絡が遅れたんだ。ごめん。。」



速水からの連絡はすぐ旅館に伝わった。会社の人達とともに女将が迎えに来てくれて、検査が終わり次第この旅館に連れてきてもらった。体の怠さはあるが、痛みは不思議となく医師たちも驚いていた。車が飛んできた瞬間に自分の体が何か柔らかいものを包まれたような感覚を速水は感じていた。激しい衝撃の後に薄くなっていく意識の中で亡くなった亮太郎の顔が浮かんできて、振り返って考えてみると不思議な体験だった。女将にそれを言おうか迷っている。あの時、確かに亮太郎を感じた。まるで生きているかのように自分に笑いかけてきた。



「お前ってさ。。そうやって配達ばっかやってるから、無愛想になるんだよ。いざって時に会いたい人ができたら何もアピールできないぞ!!」



恋だの色気のない自分に、呆れたように笑いながら屈託なく接してくる。いつも旅館のことばかり考えているくせに、会えば亮太郎は速水のことを心配していた。小さな頃からずっと一緒だった。同じ町で同じ土地で、学校も町のイベントでもずっと一緒に育ってきた。怒ったり笑ったり喧嘩したり。女将や正宗に言えないことも二人でたくさん経験した。その大切な幼馴染みが亡くなった時、命とはこんなにもあっさりと消えるものだと虚しくなった気がする。ポツンと一人残されたような。亮太郎の葬式で崩れるように泣いていた女将や正宗を見て、亮太郎の一生は何だったのかと答えの出ないもどかしさを抱えていた。でも。目の前の心配そうな西森の顔を見る。亮太郎が亡くなって、いつもの通り配達を繰り返していると見えてくる。亮太郎が遺したもの。旅館にある花籠や常連さん。板前たちと必死に考えて出されている料理。今もそっと飾られている亮太郎の写真。そして昨日の事故の時に確かに感じた雰囲気。未だにそばにいるのではないかなと思わせる。



「お前なぁ。。好きなやつがいるのなら、ちゃんと大切にしろって!!そばにいることができるってすごく尊いことなんだぞ!」



うるさいほど、そう言っている気がする。亮太郎の葬式の時に顔をくしゃくしゃにしながら泣いていた西森のことを思い出した。祖母が亡くなって必死に働いている話は聞いていて、亮太郎からもよく聞かされていた。いつか西森に余裕が出来たら。話しかけてみようと二人で決めていたのに。あの頃から亮太郎は速水の気持ちを見抜いていたのかもしれないなと思う。検査が終わり旅館へと向かう車の中で女将から西森が励ましてくれたのだと聞いた。冷静で頼もしかったと。嬉しそうに笑う女将を見ながら、安心したけれど、つまらないような面白くない気持ちを抱えていた。



「ここに帰ってくるなり、ぐったりと倒れていたお前の顔を見たら、嬉しくなって。。ごめん。。不謹慎かもしれないけど、取り乱してるお前を見てとても愛しいって思ったんだ」



冷静で大人しい西森が、いつも怯えたようにおどおどしている西森が、自分に本気で噛みついてきた。悪かったなと思う気持ちよりも嬉しさの方が勝る。思わず抱き締めて再会できたことに感謝した。西森はただじっと速水を見つめている。西森の目から涙が溢れてゆっくりと落ちていった。涙に優しくキスをする。



「ごめんな。西森。。ごめん。。」



謝りながら抱き締めてくる速水に、もう激しい怒りは湧いてこなかった。帰ってきてくれたこと。速水がとても反省していること。穏やかな日常でも不意に事故は起こること。忘れていたけれど、いつも危険と隣り合わせなんだと強く思った。配達の仕事はこれからも続いていく。今はここにいてもまた速水はトラックを運転する。怖くなって西森は抱き締める力を強めた。気をつけて行ってきてほしい。そして帰ってきてほしい。涙が溢れて止まらない西森に速水は申し訳なさそうに呟く。何度も何度も優しく頭を撫でた。



「好きなやつを泣かせるなんて情けないけど。。それが俺の仕事だ。お前も気をつけて。無理だけはするなよ」



溢れだした涙が止まっても速水は西森をずっと抱き締めていた。もう大丈夫だと伝えたら、嬉しそうに笑っている。今日の予定を聞けば心配そうに西森を見て、夕方から配達だと教えてくれた。不安そうに見えるかな。。西森は無理に笑顔を作った。ぷっと吹き出す速水の顔がからかうように西森を見ている。



「そんな無理してますって顔されてもな。。お前に気を使われるなんて、さらに情けないよ。。大丈夫だ。俺はお前のこと幼稚園児だって思ってるから。見栄すいたことはするなよ」



とても自然にさらりと西森のカンに障ることのたまった。可笑しそうに笑いながら西森の頭を軽く叩いている。お子ちゃまはお子ちゃまらしくな!爽やかに笑う速水が憎らしくてたまらない。あれだけ心配していたのに!!ムッとする所ではない。この目の前のイケメンをぶった切ってやる!!西森の闘志を込めた拳を速水は笑いながら難なく避けていく。何度やっても避けられるので西森の怒りは頂点に達した。顔を真っ赤にして怒り狂う西森をあしらうかの如く速水は避けながら頭を撫でていた。



西森が見た所、元気そのもののような速水は一応安静にしてくださいと病院から言われていたらしい。どこが安静だよ!!と毒づきながら頂いた朝御飯を食堂へと持っていった。楽しそうに笑う速水は格好いいが、心の底からからかわれているのがよくわかる。速水の笑顔に見惚れながらも心は複雑だった。



「いつか仕返しを。。おにぎりの中にめちゃくちゃ辛いものを入れて食べさせてもいいな。。でも、配達中にお腹を壊したら。。嫌だ。じゃあ別の仕返しを。。」



ぶつぶつ言いながら女将と出会う。昨日の速水のことを西森に話して、ありがとうとお礼を言われた。すっかり元気を取り戻していた女将にほっとする。今から花籠用の花を摘みに行くのだと伝えた。



「今日はもうすぐ雨になるって天気予報で言っていたわ。雨雲も流れているようだし。。気をつけてね」



空を見上げると遠くの方から黒いどんよりとした雲が大きく浮かんでいた。早くしないとどしゃ降りになる。女将に笑いかけながら西森は自転車に乗って花畑を目指していく。明日の花籠は何にしようかなと思いを巡らせた。速水の話を聞いていてきっと亮太郎が速水を守ってくれたんだと西森は思う。死んでもなお、こうして繋がっているのだなと不思議な嬉しさを感じた。生前の祖母からもらった優しさも温かさも西森にはちゃんと残っているし、祖母が亡くなった後でも遺してくれた花屋がある。誰かが死ぬことは悲しいが、繋がっている。速水の中にも亮太郎が遺したものはたくさんある。



「悲しみは癒えないけれど、繋がっているんだ。この気持ちを明日の花籠に込めよう。そして。。速水さんが無事に帰ってきたことへの感謝を。。悔しいけど」



ふと自転車を停めて目の前に咲き誇る花畑を見つめる。風に湿気が含まれていてもうすぐ激しい雨になるだろう。今はこうして咲いている花が、雨に打たれて散ってしまうかもしれない。でもそれは自然なことだ。息を大きく吸って手を合わせる。昨日までは花に出会えた喜びや泊まりに来てくれる客への感謝を込めて祈っていたけれど。今日からすべてのことに感謝して祈りを捧げよう。悲しいことも嬉しいことも。すべてに感謝を込めて。ありがとう。今日もこれから花を摘んで花籠を作ります。落ち着いていく心を感じながら西森はそっと目を開けて花を摘んだ。


お久しぶりです~!いかがお過ごしでしょうか?

いや~、参りました。。なかなかにまとまらないという。。新たな壁に出会いました。よし!楽しみながら向き合いたいと思います!

ではでは皆様、これからも素敵な時間をお過ごしくださいね(*^^*)

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