特命機甲隊ギガント・ブレイブ【パイロット版】
以前から予告していた小説のパイロット版です。
お好みのワンダバでも脳内再生しながらお楽しみください。
東京のビル街、人々の視線は巨大なスクリーンに注がれていた。
映し出されているのは、怪獣とMASオーストラリア支部の戦闘だった。特撮などではない。本物の怪獣だ。
画面の中で、全高60mのセミ型怪獣がMASの小型高速戦闘機〈ペネトレイター〉の1機に羽根を広げて追いすがり、鎌状の両腕を振り下ろした。しかしペネトレイターは飛び跳ねる様なマニューバで回避し、機首を地上に向けて口から吐く火炎弾で援護射撃を行っていた蜘蛛型をビーム砲で一掃。追跡してきたセミ型を重戦車〈ストライカー〉が正確なミサイル射撃で撃墜し、起き上った瞬間に飛び込んできたもう3機のペネトレイターから発射された貫通ミサイルがセミ型の腹部に次々とめり込んだ。人々がかたずをのんで見守る中、セミ型がゆっくりと倒れ伏し、そのまま動きを止めた。
「「「おぉぉぉぉぉぉ!!!!」」」
人々が大歓声を上げる中、セミ型の死骸が泡となって消滅、怪獣の全滅を確認したMASが撤収していく様子が画面に大写しとなった。
それを遠目で見ていた青年がいた。
彼はMASが着実に戦果をあげていく事に安堵していたが、現在の快進撃がいつまでも続くとは思っていなかった。
怪獣の反撃がもうすぐ始まるだろう。その時のために彼は、いや「彼ら」はいるのだ。
青年は背負っていたカバンから取り出した物を見やった。銀と青の、ガントレット状の何か…
それから半月後、MAS日本第3支部の、基地からせり出した構造の指令室で、数人の人間がスクリーンを眺めていた。
隊長のムナカタ・エイスケ、航空隊リーダーのイシボリ・レイジ、その部下にして最年少隊員のイガラシ・マユだ。全員が一様に眺めているのは、半月前にオーストラリアで行われた戦闘だった。
「ふあ~ぁ、最近じゃあんまり怪獣出ないし、たまに出てきても海外ばっかだし、日本は全然目立ってないよね~…」
退屈そうにマユが呟く。
「我々の仕事が少ないという事は歓迎すべき事だぞ、イガラシ隊員。」
「隊長の言うとおりだぜ。昔の戦場カメラマンも言ってただろうが、『我々の最大の望みは仕事が無くなる事だ』ってよ。」
「それは分かってるんですけどね~…」
ムナカタとイシボリに窘められ、マユは隊員服の左上腕についた航空隊の部隊章を見やった。
「刺激が無いというか、何と言うか…」
その時だった。基地内各所のランプが赤く灯り、甲高いサイレン音が鳴り響く。
『エマージェンシー!エリアK-7に怪獣接近中!MASに出動要請!』
「これは…」
イシボリが呟くのとほぼ同時に、指令室に何人もの隊員達が駆けこんできた。総勢22名の隊員全員が、過酷な入隊試験を突破した、ISDFきっての精鋭たちだ。
「久方ぶりの実戦だ。気を抜くな。MAS、出動!」
「「「了解!」」」
号令の直後、実戦要員たちは指令室に備え付けられた幾つかのシューターにセクションごとに分かれて入った。副隊長のマツナガ・トオルがレバーを倒すと同時に、シューターが作動して隊員たちを格納庫のライドメカのもとへ運ぶ。
指令室のすぐ下のハッチが開き、艦橋の無い艦艇が下からせり出してきた。
MASが誇る巨大飛行戦艦〈ガーンズバック〉だ。指令室が基地外壁のレールに沿って下降し、艦橋部分として合体する。
艦橋では、艦長席に座ったムナカタやその脇に控えるマツナガの指示のもと、オペレーター、レーダー要員、操舵師が作業を進めていた。
「艦橋合体シークエンス、完了!」
「システムコネクト、オールグリーン!」
「プラズマリアクター、パワーアップ!発艦準備完了!」
全ての準備過程が完了した事を確認し、ムナカタが指揮の声を張り上げる。
「プラズマリアクター、動力レベル巡航、反重力発生装置起動!」
「アイ、サー!プラズマリアクター、動力レベル巡航、リパルサーリフト起動!」
「プラズマリアクター、動力レベル巡航、アイ!」
「リパルサーリフト起動、アイ!」
搭載されたリパルサーリフトが起動、発生した斥力が巨大な船体を浮遊させた。
「方位2-8-4、目標地点エリアK-9!ガーンズバック、バーナー・オン!」
「アイ、アイ、サー!」
ブースターが点火、ガーンズバックの巨大な船体が目標値に向けて突き進んでいく。
目標地点付近に到達し、格納庫では各ライドメカが発進準備を進めていた。
『Crusader1、crusader2、prepare for take off.
Crusader1、crusader2、prepare for take off.
All vehicle bigin final preparation.
Gate No.1 opening in 30 seconds.』
ガイド音声の下で発進準備を完了させつつあるのは、ペネトレイターに代わる主力としてロールアウトしたばかりの、MASが誇る最新鋭統合攻撃機〈クルセイダー〉だ。イシボリ率いる第1飛行隊の機体は赤と白、ヤナガワ・ミカリーダー率いる第2飛行隊の機体は青と黒のツートーンに塗装されている。
「セーフティロック、チェック。」
「リフレクションバリア、システムアーナブル。」
「プラズマリアクター、パワーアップシーケンスクリア。」
「システムチェック、オールグリーン。スタンディングバイ。」
リニアカタパルトのパワーアップが完了し、発艦口付近のランプが赤から青に変わる。
「クルセイダー1、テイクオフ!」
電磁カタパルトが作動し、設置されたクルセイダー1を勢いよく射出、すぐさま第2飛行隊のクルセイダー2が接続され、同じように発進していく。
一方、第2格納庫では、地上部隊のストライカーが効果の準備を完了させていた。
「オールシステムグリーン。車体固定、および全兵員の搭乗を確認。」
『了解。ハッチオープン。』
『Gate No.2 opening in 30 seconds.』
ストライカーを固定するアームが機体を持ち上げ、先ほどまで無限軌道が踏みしめていたハッチが開いた。
『ストライカー投下!』
『アイ、サー!ストライカー投下!』
『ストライカー投下、アイ!』
ムナカタの指揮とマツナガおよびオペレーターの復唱がスピーカーから聞こえ、固定アームが解除、眼下の旧都市部へと投下されたストライカーは車体底部のホバー装置を使用して軟着陸、駆動を無限軌道に切り替えて作戦ポイントへ移動していった。
2機のクルセイダーと1台のストライカーが向かう先では、怪獣の群れが歩を進めていた。サソリ型の10m級〈スコーピス〉10体、キツネ型の20m級〈フォックズ〉5体、そしてそれを統括する、60m級のトカゲ型〈ウィンザー〉が1体だ。現在地は〈ロストシティ〉と呼ばれる海岸沿いの旧都市部の一つだ。海から攻めてくる怪獣から避難するために破棄されたものだが、ビル群が障害物の役割をはたして怪獣の進行を遅らせる役割もある。
『航空隊はウィンザーを、陸戦隊はスコーピスとフォッグズを攻撃しろ。クルセイダーの分離機構使用を許可する。』
『クルセイダー1了解。』
『クルセイダー2了解。』
『ストライカー了解。』
クルセイダー1がウィンザーに突っ込み、レーザーチェインガンの砲火を矢継ぎ早に浴びせかける。レーザーを顔に喰らったウィンザーは怒りの咆哮を上げて口を開くと、大きく息を吸い始めた。それを見た第1航空隊のサタケ・ススムが急いで指示を仰ぐ。
『リーダー!』
『当り前だ!』
イシボリが叫ぶのと、ウィンザーが青い光弾を吐くのはほぼ同時だった。光弾がクルセイダーに到達し、機体が3つにわかれる。しかし被弾したのではない。その直前に、大きな機体を、格闘能力の高い攻撃機クルセイダーα、電子兵装が充実した指揮官機クルセイダーβ、パワーに優れたクルセイダーγの3機に分離させて回避したのだ。
『攻撃開始!』
『α号了解!』
『γ号了解!』
3機の小型機と1機の大型機がウィンザーの周囲を飛行しながらミサイルとレーザーで攻撃を開始する。ウィンザーはいらだつように光弾を連射するが、身軽になったクルセイダーにはかすりもしない。
陸戦隊は、6名の随伴歩兵を展開し、ビルの谷間を進みながら小型中型の怪獣を着実に始末していた。
いましがたもスコーピス1体が、歩兵が手にした大型ライフル〈デュアルシューター〉に足止めされストライカーの主砲で貫かれて倒れ伏し、絶命して泡と消える。横のビルの陰からフォッグズが奇襲をかけようとしたが、歩兵のロケット弾が喉を直撃し、傷口にデュアルシューターの8mm弾を集中砲火されて絶命。
「こちらストライカー。残りはスコーピス2体のみです。」
『残存ターゲットを確実に殲滅、その後は現場の判断で航空隊を援護しろ。』
「ストライカー了解。」
ストライカーの運転席で、陸戦隊リーダーのウエマツ・トオルがムナカタと交信、手早く指示を送る。
「ターゲットを速やかに殲滅しろ。完了し次第、航空隊を援護する。」
『『『了解』』』
その頃、航空隊とウィンザーの戦闘は大詰めに入りつつあった。第1小隊がウィンザーの頭上を飛び回りながらレーザーを雨霰と浴びせ掛け、動きが止まった怪獣を第2小隊のミサイルが確実に弱らせていく。
『ミカ、そろそろデカブツに止めを刺してくれ!』
『名前で呼ぶんじゃないよ!』
砕けた合図を交わした直後、クルセイダー2がウィンザーの正面に回り込んだ。
『エネルギー充填、完了!バスター発射出来ます!』
「オッケー!」
ミカはコックビット内で不敵に笑うと、操縦桿のスイッチの一つに指をかけ、押し込んだ。すると機体底部に格納された、クルセイダーの最強武器〈クレメイトバスター〉の砲身がせり出し、緑の光がちらつき始める。それを確認した第1小隊は置き土産とばかりにクラスター爆弾をバラまいて散開。
「喰らいな!クレメイトバスター、シュート!」
トリガーを引こうとした、その時。
ウィンザーが凄まじい咆哮を上げた。生身の人間が近くで聞いたらショック死しかねない大音響がクルセイダーのキャノピーをびりびりと震わせ、中のパイロットたちを一瞬ひるませた。
『なあっ!?』
それで十分だった。次の瞬間、ウィンザーが前肢を持ち上げ、横に広げると、前肢から巨大な翼が広がった。さながらファンタジーのドラゴンの様だった。巨大な翼をはばたかせ、ウィンザーが空中に飛び上がった。我に返ったミカがトリガーを引くが当然外れ、射線上にあった廃ビルが木破微塵に吹き飛んだ。
『アイツ飛べるのか!?』
『反則でしょ…』
隊員たちがさまざまな反応を漏らす中、クルセイダー2に搭乗するマユが叫んだ。
「隊長、分離を!」
『そう言うと思ったよ!』
短い会話の直後に、ダークカラーの機体が3分割され、クルセイダー1と同じくα、β、γ号の3機に分離。マユが搭乗するα号が急加速し、飛び上がった怪獣に追いすがる。
「こんのぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」
追従する5機の小型機のパイロット達の目の前で、マユとウィンザーが壮絶なドックファイトを繰り広げていた。翼を器用にはばたかせながら光弾を連射する怪獣と、それを紙一重でかわしながらミサイルとレーザーを撃ちまくるα号。マユの、エリートが集うMASに史上最年少入隊を果たした凄腕パイロットとしての腕前と、怪獣の凄まじい機動力によって展開される超音速戦闘は、さながらサーカスの曲芸の様な緻密なバランスで成り立っていた。それが崩壊するという事は、イコール勝敗に直結する。
そして、唐突にそのバランスが崩れた。ウィンザーが吐きまくった光弾の1発が、α号の左翼を掠めたのだ。クルセイダーには防御用のエネルギーシールドが張ってあるが、それでも60m級の攻撃を前には直撃による機体の大破を防ぐのが精一杯だ。左翼から黒煙が噴き上がり、機体が失速して落下していく。
『マユ隊員!脱出しろ!』
「了解!」
指示されるまでもなかった。コンソール下のレバーを力いっぱい引く。
…しかし、何も起こらなかった。
「!?」
『どうした、早く!』
マユの顔から、さあっと血の気が引く。
「ヤバい…射出座席が壊れた!」
『何だと!?』
どんどんパワーダウンしていくリパルサーリフトを使って精一杯制動をかけようとするが、眼下の廃棄都市はどんどん迫って来る。
「きゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」
身を打ち砕く衝撃を予想し、堅く眼をつぶる。
…死は訪れなかった。
「……え?」
おそるおそる眼を開けると、視界一杯にまばゆい光が輝いていた。
そして、それが収まると…予想だにしなかった光景が広がっていた。
「…!!??」
機能停止したα号を、巨大な何かが受け止めていた。
それは、巨人だった。
全高60mもの人型。青と銀の鎧の様なフォルムで、頭部では黄色いツインアイが鋭い光を放つ。
巨人がコックピットを見降ろし、ゆっくりと頷く。マユが恐る恐る首肯を返すと、巨人はα号を地面に降ろし、大地を蹴る。空中に飛び上がった巨人が手刀を振るうと、そこから放たれたカッター状の光線が、空中で航空隊と熾烈な戦闘を展開するウィンザーの翼を正確無比に撃ち抜いた。
錐揉みしながら墜落するウィンザーだったが、すぐに体勢を立て直すと穴のあいた翼を即座に広げた。急に制動がかかり、ウィンザーを軟着陸させる。地面に降り立った怪獣は、目の前の巨人に怒りの咆哮を上げる。
「ギャオアァァァァァァァァァァ!!!!」
巨人は怪獣を見据えると両腕を持ち上げ、それぞれの腕で拳と手刀を作って構えた。
『ハアッ!』
『リーダー、何ですかアレは!?』
「俺が知るか!ったく、ウルトラマンでも来たってのかよ?」
想定外の事態の連続に、イシボリが吐き捨てる。
その時、クルセイダー1,2のβ号に通信が入った。ガーンズバックのブリッジからだ。
『全員その場で待機。状況によっては各位の判断で巨人を援護せよ。』
「あれが味方と言う保証はありません!」
『そうです!偶然ウィンザーと戦っているだけかも…』
ミカもムナカタに抗議する。
『あの〈ブレイブ〉は我々の戦力だ。これ以上の情報をこの時点で与える資格は、残念ながら私にも無い。通信は以上だ。』
「隊ちょ…」
ぶつんと通信が切断される。
「…何だってんだ…」
その間にも、ウィンザーと巨人はビルの谷間で壮絶な戦いを展開していた。しかし、巨人が圧倒的に優勢だった。超重量級の拳と蹴りが、ウィンザーを滅多打ちにする。
『セアァッ!』
巨人が気合と共に放ったドロップキックがウィンザーをふっ飛ばし、後ろに弾かれた巨体が廃ビルをなぎ倒す。
巨人が右腕を掲げると、手首が消滅する。いや、前腕が砲身へと”変形”したのだ。
『ハアァァァァァァァ……』
引き絞られた右腕の砲口から、青白い光が次第に放たれ…
『デェヤァァァ!!!!!』
正拳突きの様に突きだされると同時に、クレメイトバスターすら及びもつかない超エネルギーのビームが発射され、ウィンザーの巨体を貫いた。
「カアァァ…オォォォォ…」
弱弱しく喘ぎ、ウィンザーが地響きを上げて倒れ伏す。そしてその巨躯が、泡となって消滅した。
「…凄い…」
マユはそう呟くのがやっとだった。α号のキャノピーを蹴り開けて機外に出た彼女は、巨人が怪獣を圧倒する一部始終を見届けていた。
ぼうっと突っ立っていると、いきなり巨人の体が赤い光を放ち、かき消えた。
「…?」
ぼんやり見ていると、巨人が立っていた場所に光が降り立った。それは徐々に薄らぎ、1人の人間が姿を現した。
茶髪の青年だった。着ているのは紛れもなくMASの制服で、胸には日本第3支部所属であることを示すエンブレムがあったが、あんな隊員は見た事が無かった。
思わず腰のホルスターに収めた拳銃〈ライザーショット〉に手を伸ばすマユだったが、それを見た青年は両手をあげた。
「僕は味方です。…ご無事でしたか?」
青年は、そう言った。
いかがでしたか?
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