少年Aの小話
ある小道の端で、一人しゃがみこむ少年。まだふくらみの残る少年の生白い頬には、涙の跡があった。
小道を抜けた先にある車道からは、ドラ声と共に芋をふかしたような良い匂いが漂ってきた。芳しい風が少年の髪を揺らす。
「……うぅ」
少年は土にまみれたネームプレートを握り締め、再び涙を零す。プレートには油性ペンで何か書いてあるが、常人には解読できない文字だ。
「ポテトぉぉ……」
少年が本格的に泣き出す寸前、小道に面した一軒家の窓が開きけばい顔の女が顔を覗かせた。
「近所迷惑よ」
「おがぁざぁぁあんッ」
「もう死んでるんだから待ってても戻ってこないし何も生えてこないの。風邪ひくから戻ってきなさい。焼き芋も買っ――」
「ンッ!」
女は、全力疾走をはじめた少年を不安げに目で追っていたが、やがて冷たい風に追いたてられるように窓の奥へ引っ込んでいく。
窓を閉める寸前、女はぼそりと呟いた。
「何で石焼き芋、土に埋めるかなぁ」
スイカの種が腹中で発芽するんじゃないか、と恐れるのと全く同じ原理で彼はやらかしました。おそらく千円分。
ちなみに埋められた石焼き芋のフルネームはスイートポテトです。失われた未来。