コロリンボールを3つ集めると
「今日もだめだったか」
「そうだね」
金曜日の放課後。私は学級委員長の真田君と一緒に、クラスメイトの小森君の家の前に来ていた。
小森君はいわゆる不登校というやつで、ここ1ヶ月ぐらい学校に来なくなっている男子生徒だ。元々は普通に登校していたのだが、一度体調を崩して休んでからそのまま来なくなってしまった……という風に担任の先生から聞いている。
そこで白羽の矢が当たったのが、学級委員長である真田くんと副委員長の私。
放課後2人で小森くんの家に行き、学校に行かないかと説得しているのである。ちなみにそれも、今日で5回目。
「小森君はまだ風邪を引いていると言ってたからな。早く良くなってくれるといいんだが……」
「そ、そうだね」
真剣な顔でそう語る真田君は、たぶん本当に小森君が体調不良で来れないのだと思い込んでいる。
私はさすがに察しているのだが、学校に行くのが面倒になったとか、そんな感じなのだろう。小森君はいじめられていたわけでもないし、無気力な人だったから、それぐらいの理由で不登校になっているとしか思えない。1ヶ月も風邪引くことないだろうし。
「ここはあの手を使うしかないか……」
「あの手って? 何かいい手があるの?」
「あぁ。横井さんは、俺たちの学校にまつわる七不思議を知っているか?」
「い、いや」
急に真田君が変なことを言い出した。
彼は良くも悪くも真っ直ぐな人だから、七不思議とかオカルト系の噂も鵜呑みにしてしまっているのだろうか。
「実はうちの学校には伝説の七不思議というものがあってだな。その中に、コロリンボールの伝説があるんだ」
「こ、コロリンボール……?」
「そうだ。コロリンボール……手のひらに収まる程度の小さな球の事だ。その球を3つ集めた者は、1つだけ願いを叶えてもらえるという」
「なんか誰かが落っことしたみたいな名前ね。どこかで聞いたことある設定だし……。でも、集めるのは3つだけなんだ?」
「あぁ、田舎だからそんなものなんだろう」
「そんなものなのね……」
真田君が言うには、コロリンボールは校内のどこかに隠されているらしい。学校の七不思議だから、校内で完結するということだ。
しかしその効果は絶大で、依頼者の願いは校内の事に限らずどんな大きな願いでも叶えられるとか。不老不死や、大金持ちになる事も可能だそうだ。
「それに真田君の件をお願いするってことね? でもどうやって3つ集めるの?」
「実はもう、俺は3つのコロリンボールを集め終わっている」
「……え、そうなんだ」
ずっとこの話に半信半疑……いや、ほとんど信じていなかった私は、彼がカバンから小さな球を取り出した事に驚く。
透き通るような綺麗な球だ。本物なんだろうか……。
「これって、そんなに簡単に見つかるものなの?」
「いや。何でも願いが叶う球だからな、そう簡単には見つからなかった。1つ目は音楽室の呪われたピアノの中、2つ目は理科室の開かずの扉の向こう、そして3つ目は…………ゴリ先の机の中だった」
「ゴリ先の……机の中……」
「まぁ、そんな苦労の末、俺は今3つのコロリンボールを手に入れている。本当はいつか宿題を忘れた時に使おうと思って探していたんだが、友のために使うなら、躊躇いはない」
何でも願いが叶うって言ってたよね……?
でも勇ましくボールを掲げている彼を、私は止めたりしない。
そして、真田君が「広いところに移動しよう」というので、私たちは近くの河原へと移るすることにした。
河原への道を歩きながら、私は彼に質問する。
「広いところに行くってことは、もしかして大きな竜でも出てくるの?」
「あぁ。なんでも、願いを叶えてくれる伝説の蛇竜が出てくるという話だ」
「蛇竜……ってことは、蛇みたいな竜?」
「いや、蛇か竜か分からなかったから蛇竜と言われているらしい」
「それは第一発見者の責任ね……」
真田君の話によると、蛇竜はボールを3つ並べ、とある呪文を唱えると姿を現すらしい。
彼の様子から呪文は把握していそうだが、この人はそういう情報、どこから仕入れてきているんだか……。
河原に到着すると、真田君は砂利の上に3つのコロリンボールを並べた。そして何故か自分のスマートフォンを手に取る。
「最近のAIは本当に賢いからな」
「うん……うん?」
彼はカタカタと文字を打つと、持っていたスマホをボールの方に掲げた。
『コロリンボール 蛇竜呼び出しの呪文 ですね。 了解しました』
まさかこれは……。
……AIに調べさせて呪文を唱えてもらうのか。
夢もロマンもない。というか、最近のAI便利すぎる。
『コッコロロン ロリロリンロリロリ』
何やらAI音声がロリロリ言い始めたかと思うと、突然目の前のボールが神々しく光輝きだした。眩しすぎて目を開けていられないぐらいだ。
少しすると光が落ち着いたようなので、自分の目元を隠していた腕を下ろし、ゆっくりと目を開ける。
「うわぁっ」
恐る恐る目を開くと、目の前には固そうで一枚一枚がとても大きな鱗。
その迫力に驚きおののきつつ一歩引いて全体を見渡す。そこには、目のフレームでギリギリ捉えられるぐらいの巨大な生物がいた。
長い胴体にとぐろを巻いたその姿は、竜というよりほとんど蛇だ。
「お、おっきい……」
私はこの現実を受け入れるまで時間がかかってしまった。何せ、本当に何もなかった所に巨大な蛇竜が出現したのだ。蛇竜を見上げながら、若干腰も引けている。
「おぉ!意外と柔らかくて暖かいんだな!」
隣にいた真田君はというと……なんということだ、いつの間にか蛇竜の方に近づき、興奮気味な様子でその鱗をスリスリと触っている。怖いもの知らずすぎる。
「しかもこの鱗……ひとつひとつが美しい……」
『ふえぇ~……』
「ん、横井さん。何か言ったか?」
私は無言でプルプルと首を振る。
真田君は「そうか」と呟くと、また嬉しそうに鱗をスリスリと触り始めた。
『ふえぇ~……』
その声に反応して、真田君は再びこちらに視線を向ける。
もちろん私はそんな可愛い声を出していないので、またプルプルと首を振った。そして、おそらくその声の主であろう斜め上の方を指差す。
「私じゃないよ。……たぶん、こっち……」
『ふ、ふえぇ~……』
そこには、顔を赤らめて恥ずかしそうに目を瞑っている蛇竜の頭があった。
それを見上げる真田君がまた鱗をお触りすると、蛇竜はそのお触りに反応するように高く可愛らしい声を出している。
『ちょ、ちょっとっ。いきなり私を呼び出しておいて、触りすぎよ』
驚くことに、蛇竜は流暢に人間の言葉を話した。
口は動いていないからテレパシー的なものかもしれないが、明らかに私たちの目を見て意志疎通を図ってきている。
真田君はその事実を疑い無く受け入れているのか、この大きな生物に向かって普通に返事をした。
「あ、あぁ、すまない。レディに失礼な真似をしてしまった。あまりに綺麗な鱗だったからつい、な」
真田君、この蛇竜と初対面なはずだよね……。
この大きさに驚かないのも驚きだけど、既にレディ扱いしてるのが紳士超えてもはや変態なんだけど……。
『そんなに私の鱗に見惚れてたの?……人間にしては分かってるじゃないの。……それに、ちょっとだけ気持ち良かったし……少しぐらい触ってもいいけど……』
「そうか。じゃあもう少しだけ」
『ふ、ふぇぇ~……』
……私は何を見せられているのだろうか。
主人の膝の上で寛ぐ猫のような蛇竜の表情。
場違い感から、第三者の自分がこの場にいるのがいたたまれなくなる。
「お、おっと、つい触りすぎてしまったな」
『えぇ~、もう終わりなの? じゃあ、お仕事に戻るけど……。コホンッ。……私を呼び出したのはあなた?』
蛇竜は今までの甘えた声がウソだったかのように、蛇らしく目をキリッとさせて威厳のある声で話し始めた。
「あぁ、俺だ」
『そう。コロリンボールを3つ集めるとは大した人間ね。それに、撫で方も上手だし……あなたのこと気に入ったわ。1つだけ、何でも願いを叶えてあげる』
「そうか、ありがたい。じゃあもう少し鱗を触ってもいいか?」
『えっ、構わないけど……』
この人どんだけ鱗を気に入ったんだ……。
「あ、それと写真も撮っていいか?データで残しておきたいんだ」
『それも構わないけど……。あなた、願い事を無駄遣いするタイプね』
全くもって蛇竜の言う通りだ。
撫でられて満更でもなさそうな蛇竜は気にしていないようだが、彼、既に2つお願い事してるし。
スマホを取り出してカシャカシャと音を立てている真田君に黙っていられず、さすがに私も助言を入れる。
「真田君。小森君の件はいいの?」
「……そうだった。蛇竜よ、すまないがもう1つだけ願いを叶えてくれないか?」
『……もう1つ?……まぁ、あなたの事は気に入ったから、特別に叶えてあげるけど……』
……この蛇竜もなかなかチョロい。
佇まいに威厳こそあれど、既に真田君の手の平で転がされている。
「クラスメイトに小森君という男の子がいるんだ。どうやら風邪が長引いているらしくてな。治してやってほしいんだ」
……あ。
『そのぐらい造作でもないわ。その願い、今すぐ叶えてあげる』
そう言って蛇竜は目を赤く光らせた。
自分達の周りには特に変化はないようだが、小森君には影響が出ているということだろうか……。
『……願いは叶ったわよ。……よし、これでお仕事は終わりっと』
「あぁ、恩に着る」
『ところで真田君って言ったっけ? 私を専属にする気はない? いつでも願いを叶えてあげられるわよ』
蛇竜の専属制度とかあるの……?
ていうか、いつでも願いを叶えてもらえるって、もう反則すぎでしょ。そんなの断る理由なんて……
「すまんな。うちのアパートはペット禁止なんだ」
……真田君はルールに忠実だった。
『……あなた、私をペット扱いするとはなかなかの度胸ね……。まぁいいわ、またコロリンボールを集めてくれればいいから』
「そうだな。また必要な時は探し出して見せる」
『じゃあ、次の探し場所は特別にヒントをあげるわ。1つ目は2年A組の教卓の中、2つ目は2年A組の掃除用具入れの上、3つ目は2年A組の真田君の引き出しの中よ』
真田君の事を気に入りすぎて、場所の忖度がすごい。ヒントどころか答えだし。
『また会えるのを楽しみにしているわ』
蛇竜はお別れを言うと、光り輝いて3つの小さなボールに変化した。
そしてそれはひとりでに浮き上がり、学校のある方角に向かって高速で飛び散っていった。
「蛇竜の伝説、本当だったんだね」
「あぁ。俺も初めて見たから正直驚いた。しかしまぁ、これで小森君の件も解決するだろう。来週、彼が登校してきてくれるのを楽しみにしているよ」
「そ、そうだね」
こうしてこの日の不思議な体験は終わった。
……そして週末を終えて迎えた月曜日。
不登校だった小森君は、1ヶ月ぶりに学校に顔を見せてくれた。
彼が登校してくれ、久しぶりにクラスメイト全員が教室に揃い……学級委員である私たちは、無事に任務をやり遂げたのだ。
そして小森君と話している真田君は、久しぶりに友人と話せることに嬉しそうで、それでもってどこか誇らしげな様子だった。
……しかし真田君は知らない。
私が土曜日のうちにまたコロリンボールを集め、「小森君が学校に来てくれるように」と願っていた事を……。
最後まで読んでいただきありがとうございました!
熱で寝込んでしまい、よく分からなくなった頭で書いてしまいました。変な作品を出してしまってすみません。
でも、読んでくださった方。ありがとうございます。嬉しいですっ。
現代恋愛になりますが、「ヒロインが勝負をしかけてきた!」連載中ですので、覗きにきてもらえると嬉しいです!よろしくお願いします!




