【●▲■side】
† origin †ゲンテン†
今日は、大好きな彼の生ライブがあったの。
勿論、私は最前列でたっぷり彼の歌を堪能したわ。
そして、ライブが終わると同時に私は彼の元へと駆け出した。
――その時まで気付かなかったの
まさか……
同じ局の別スタジオに、彼から全てを奪い去ったネメシスまで生ライブをしてるなんて……
きっと、彼を完膚無きまでに徹底的にこのセカイから消し去る為のワナ。
相手の所属するライバル事務所のやりそうな卑怯な手口。
そして、簡単な策に嵌まったのが、マスメディアと馬鹿で薄情な名ばかりのファン。
でも私は知ってる。
私だけは判ってるの。
だから傍に居てあげたい。
強い衝動に駆られるまま、私は彼の控室へと急ぐ。
でも、そこに彼の姿はなくて……
息付く間もなく、私はまた走り出した。
――きっと、あそこだわ
そう、彼の好きな場所。
彼が一人になりたい時、必ず行く所。
屋上だ。
私は迷わず階段を駆け上がる。
そして耳を劈くような悲痛な叫びに思わず身を潜めて。
こっそり伺い見た。
あぁああぁああぁぁあぁぁぁあああぁ!!!!!
彼の叫びは、まるで奈落の底の様に昏く果てない階下へと反響する。
踊り場の壁に打ち付ける拳には血が滲んでいて……
「もうっ……もう止めて……」
そう言って駆け寄ろうとした私の腕を、誰かが掴んだ。いきなりのことに驚きながらも、私は平静を保って振り返る。
そこに立っていたのは、見ず知らずの少年。
「あんたに何が出来るのさ?」
その小馬鹿にしたような言い様に、私はカッとなって言い返した。
「あの人の苦しみを判っている私だからこそ出来るの」
そう、私にしか彼は救えない。
こんな子供に何が判るっていうのよ。
私はそんな思いを込めて、少年を睨み付けた。
――沈黙……
少年は薄く嗤う。
「出来るなら、やってみなよ。猶予は余りないけど」
そんな挑発と黒い羽根を一枚残して少年は去って行った。
私は、もう居ない少年へ挑むように呟く。
「私が必ず守ってみせる」
※※※※※※
同時刻。
某局本社ビル付近――……
スーツ姿の怪しい男が二人、中の様子を伺い見ていた。
「クソだりいな」
男は面倒臭そうに、そんな愚痴と溜息を乗せて紫煙を吐き出した。
「そんな事言わない」
そう諌める相棒を軽く睨み付ける。
「ヤツが絡んでると見て、間違いねえんだろ?」
そして確認するように言ってから、煙草を噛む様に咥えた。その言葉を肯定するように一つ頷いてから、彼はビルへと視線を移す。
「しっぽ……中々出さないね」
そんな相棒の視線に促されるように、男もビルへと目を向けた。
更に上を見上げれば、暗雲が立ち込めていて。
それはまるで、悲劇を呵責しているように見えた。