【レージside】
†light†きぼう†
判ってる。
言われなくても自分が一番判ってるさ、そんな事。
俺の中の時計が0時になって、壇上から降ろされた。
それだけのことだ。
嫌になる。
自分も
マスコミも
ファンも
事務所も
何もかもが、嫌で嫌で堪らない。
「レージ」
ああ、カスミが呼んでる。
面倒臭い。
視線を動かすのも億劫だ。
「レージ」
でも、何故か俺はカスミの声に逆らえなくて、結局視線を声に導かれるように落とした。
昏い部屋の中、カスミの透き徹る白磁のような肢体が、仄かに浮かび上がる。
目線が絡み合えば、カスミはやはり変わらず柔らかく微笑んでいて。
静かに口を開いた。
「シンデレラは、0時で終わりじゃない。王子様々が、ガラスの靴を持って迎えに来るのよ」
心の澱が、澄んでいく。
カスミの言葉、一つ一つが俺の中に染みるように、ジワリジワリと響き渡る。
“明日なんて来なければ良い”と。
歩く先には闇しか見えていなかったのに。
今、心の中に淡い光が灯る。
その、なんと快い事か。
もしもカスミに会えた事が“奇跡”じゃなくて“軌跡”が生んだものなのだとしたら。
俺の人生もまだ捨てたものじゃないのかもしれない。
そう考えたら、ただひたすら愛おしくて。
カスミの首筋に顔を埋めた。
「カスミ……」
熱を帯びた吐息と共にそっと囁けば、カスミの身体がビクリと一度跳ねた。
「ありがとう」
ずっと伝えたかったんだ。
「愛してる」
ずっと言いたかったんだ。
でも素直に言うには、余りにも隠すことに慣れてしまっていて。
ココロノドカデ
トメルコエガキコエル
口に出すことが、とても恥ずかしくて。
ヤメロトシズカニ
トメルコエ
ココロノドカデ
トメルコエガキコエル
口に出すことが、とても恥ずかしくて。
ヤメロトシズカニ
トメルコエ
やんわりとカスミが俺の腕の中から離れた。
そして、薄く白いシーツを身に纏って窓際に寄る。
「きれい……」
声に誘われるように外へ目を向ければ、桜の花が風に舞っていた。
赤い月が、何となく不気味だ。
「ねえ、知ってる?」
逆光で、カスミの表情が判らない。
「桜がキレイなワケ」
今思えば、この時俺は気付くべきだったんだ。
隠された真実に。
覆われた記憶に。