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魔王を倒して、家に帰るまでが遠足【完結】  作者: ATARA
4章 魔王を倒して、家に帰るまでが遠足
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4-2 魔王を倒して、家に帰るまでが遠足

港街マーフォグ マーフォグ城地点

 担当 魔王




城へ着いてみると、火はほとんど鎮火されていた。


慌ただしく人々がホースを持って、放水している。


衛兵の話によると、火も大したことはなかったらしい。




王の間の扉を勢いよく開けると



「王よ!無事か!!」



「助けてくださいー!!勇者!!」




港町マーフォグ王ガレリオ。


年齢は、かなり若い。


17歳ぐらいだったっけか。


その若さながら頭脳明晰で、いわゆる天才というやつだ。


幼いながら、マーフォグを技術大国へ発展させた人物である。




血の匂いがする…


王の間に幾人かの衛兵の死体が転がっていた…。




「これはこれは勇者様、はじめましてですかな」



玉座の後ろにいた男が挨拶をしてきた。



「犯人はこいつです!」


「技術庁長官エンジン!」


「早くそいつを始末してください!」



ほぼ半泣きのガリレオ王が訴えてきた。



「おまえの狙いは分かっている…この俺だろう」



「ハハハッ さすが勇者」


「いや魔王 察しがよいw」



「王を殺せるタイミングはいくらでもあった」


「そしてこの俺が街に入ったタイミングでのこの騒動…」


「あまりにもタイミングが良すぎる」


「まんまとおまえに釣られてしまったってわけか」



「釣るまではうまくいきました」


「だが釣りも獲物を釣って絞めるまでが、釣りですよ」




王の元まで足を進めると、横から大柄な男が出てきた。




「おっと そこで止まれ」


「獲物を狩るのは俺の役目だ」


「狩ってしっかり報酬を貰わないとなw」




衛兵はこいつの仕業か…


衛兵も鍛えられた兵士達だ。


この人数をたった1人でやったというのか…


怪我や傷を負っている様子もひとつもない…


見た感じは…大柄な人間のようだが


両腕が、サイクロプスの腕にすげ替えられているようだ。


魔改造された人間か…




剣を抜いて構えた。




来るッ!! 右だ!


そして 横払い!



とっさに左の攻撃をかわす。


巨大なハンマーが地面にめり込み、轟音が鳴り響く。


すぐさま、ハンマーのようなものが横に薙ぎ払われる。



ジャンプしてそれをかわす。



「ハハ すばしっこいウサギだな」


「そろそろ 仕留めてやらないとかわいそうだな」



来るッ!! 正面!


次に右! そして横払い



攻撃をかわし続け、大男の股の間をすり抜け


くるぶしのあたりを一太刀!



「グハッ…!」



大男が地面に両膝をついた。






『予知の力』


先のビジョンが見え、身体能力が一時的に強化される。



それが俺の能力。


勇者選抜試験も、この能力が発現したおかげで、なんとかくぐり抜けた。






『勇者選抜試験』


母国で数年に一回だけ開催される、優秀な勇者を選別するための試験。



開催期間内に指定されたモノを


スタート地点まで持ち帰ってくれば合格となる。


もちろん道中には、試験側が用意した魔物たちが配置されている。


魔物を倒しても、倒さなくてもどちらでもよい。


ひとまず指定されたモノを持ち帰ればOKなのだ。



試験に合格すれば、勇者として認められ


軍の中でもエリートとして扱われる。


名誉だけでなく、待遇も一般職とは比べ物にならないぐらい良い。



だがしかし、ここ近年は


回を重ねるごとに、参加者は減っていったそうだ。


毎回、死者が多数出る選抜試験は


巷では、死者選抜試験なんて揶揄されていた。



俺には、育ての両親はいるが、産んでくれた両親は知らない。


育ての両親の爺さんと婆さんは、俺を川から拾って育ててくれた。


戦時中の日常では、育ての親すらもいない境遇もあるなかで、


本当に俺はラッキーだったし、育ての親に感謝をしている。



育ての親の爺さんが元自称勇者と言っていて


小さい頃から、少しばかりの剣術と魔法を習っていた。


オマエはセンスがいい!だの言われたので、少し調子に乗っていた。


だから、選抜試験なんてものは余裕で受かるだろうと、その頃は思っていた。






選抜試験の前日



「じっちゃん!明日行われる勇者選抜試験を受けようと思う!」



(父さんとは呼ばせてくれなかった)


(産んだ両親が別でいることは、早い段階で教えてもらっていた)



「なんじゃと!! おまえでは無理じゃ」


「やめておけ ただ無駄死にするだけじゃわい」



「爺さんのいう通りだよ」


「おまえはこの農家を継いで生きていけばええ」


「この家も土地もあるんじゃし」


「そんな危ないところに行ってはダメだよ」



「自信があるんだ!じっちゃんにも鍛えてもらったしな!」



「それは護身レベルのスキル」


「勇者と呼べるものとは、ほど遠い…」


「野心を抱くのは分かるが…おまえを無駄死にさせとうない…」



「勇者で武功を上げて、この家に帰ってくるのが夢なんだ!」


「じっちゃん、ばっちゃんにもっと楽な生活を送ってほしい!」



「そんなものはいらいないよ」


「おまえが健康で幸せであればいいんだよー」



「いや!俺は絶対試験に行くんだ!」



「もう言ってもきかないなら!好きにしろ!!」


「バカタレが!」


「ゴホッゴホッ…ゴホッ」



「爺さん、興奮すると病気が再発しますよ…」


「冷静になって、ひと晩ゆっくり考えなさい」






選抜試験の当日



俺は両親を起こさないように、早朝に起きて準備した。


ひと晩考えてみたが、試験に行く覚悟は、前の晩から決めていた。



(じっちゃん、ばっちゃん ありがとう)


(必ずもどってくるよ)



家の扉を開け、出ていこうとした。



「待て…」



家の奥の寝床から、じっちゃんとばっちゃんが起きてきた。



「俺は絶対に試験に行くからな!」


「止めても無駄だぞ」



「黙って出ていくバカがいるか」


「これを持っていけ!」


「わしが昔使っていた剣とお守りじゃ」


「剣は国王より頂いたもの、わしの宝じゃ」



「いいのか…」



「そして、このお守りは、本当にやばくなったら呪文とともに破壊しろ」


「おまえを安全なところまで避難させてくれるだろう」


「昔仲の良かった賢者に作ってもらったものだ」



「じっちゃ… あ ありがとう…」



「これはお弁当と少しばかりだけど路銀だよ」


「少ないけど持っておいきなさい」



「ばっちゃんもありがとう…」



俺は号泣していた。


じっちゃんとばっちゃんは、涙を浮かべていたが、少しばかり笑っていた。



「それじゃ!行ってくる!」



「気を付けてな!」


「気を付けてー」






勇者選抜試験会場



会場にはいかにもな強者だらけ…


じっちゃんが昨晩言ってた意味が、この時初めて分かった気がした…


あきらかにちょっと場違い…


周りと自分はあきらかに雰囲気が違う…


正直怖気づいていた…


今すぐにでも家に帰りたかったが


あー言ってきた手前…


やるしかないと腹をくくっていた。






勇者選抜 第一次試験



第一次試験として、簡単な面接と書類チェックが行われる。


あやしい出処のものはいないか


あきらかに能力が足りてなさそうなやつはいないか


いわゆる足切りがされる。



選抜試験について、ほぼなにも知らなかった俺は


実技試験のみだと思い込んでいた。



勇者経験や冒険経験がない俺は


ここで落とされるんだと、半ば諦めていた…




「次! 番号666番! 部屋に入りたまえ!」



「よろしくお願いします」


「どうぞ、そこに座って質問に答えてください」



身分の高そうな、いかにもエリートの雰囲気がする青年が面接官と


ヨボヨボの爺さんが面接官だった。



エリート面接官が、事前に書いた書類を見ながら、早口で質問してきた。


「◯◯村出身ですか」


「今までやったことのある魔族討伐やギルドクエストを教えてください」



「そういった経験はありません…」



「なんと…経験がないと…」


「それだと…今回は残念ながら…」



「しかし!幼い頃からじっちゃんと修行してきました!」


「自信はあります!」


「ちなみにじっちゃんは、自称元勇者だと言ってます!」



「修行ですか…」


「ちなみに元勇者のお爺さんのお名前は分かりますか?」


「はい!ドンララゴン」


「周りの人達は、『ドラゴ爺』と呼んでました」



「聞いたことない名前ですね~」


「今回は残念ながら…」



「ドンララゴン…まさか…」


「ちょっと待て!その爺さんの特徴はあるか?」



ヨボヨボの爺さんが質問してきた。



「じっちゃんは、左目に傷があります」


「あと左足が麻痺して動かないです」


「あとは頭はツルッパゲなとこぐらいかなw」



「間違いない!」


「わしの知ってる勇者ドンララゴンさんに違いない!」


「ハハハハハッ!まだ生きておったか!」



「私は聞いたことがない勇者名ですが、お知り合いですか?」



「おまえさんも、もう少し歴史を勉強したほうがいいぞw」


「わしらの世代で知らぬ者はいない」


「知らないやつはもぐりだ」


「その当時、最も魔王討伐に近かった男」


「また魔王から一番危険視されていた男」


「だが魔族討伐時に仲間を庇って負傷」


「その後、エルガド国にて勇者を育成していたが、歳とともに引退したと聞いた」


「わしも現役で勇者をやっていた頃、一度だけ一緒に魔族討伐で共にしたことがある」


「ドラゴさんの背中を追って戦っているだけで、魔物がバタバタと倒れていったわい」


「ハハハハハッ!引退したと思ったが、まだ勇者を育てていたとはなw」



「しかし…未経験では勇者選抜試験は、危険すぎるかと」



「う~む、それはそうじゃな」


「条件付きでどうだろうか」


「わしがこの勇者候補に付き添おう」


「もちろん手助けはなしじゃ」


「わしが危ないと思って助けた段階で、失格じゃ」


「それでどうじゃ?」



「まぁそれであれば、危険は避けられるかと…」



「ありがとうございます!」



「前代未聞ですが、特別に許可しましょう…」



ボンッ!


書類に「合格」のハンコが押された。



ヨボヨボの面接官


(あのドンララゴンが育てた若者が、どうしても気になる)


(その実力はいかに…)

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