3-1 魔王を倒して、家に帰るまでが遠足
魔界の港ヘルポートから、魔界から一番近い人間の国
『辺境の国エルガド』へ船で向かった。
辺境の国エルガドは、魔界向かうための前線基地として利用されていた。
辺境の国と言えど、国には活気があって、人の往来も多い国だ。
大海 ワールドボーダ海 船上
エルガドへ出航してすぐにフィーデ達に呼び出された。
「ヘルポートでの失態…」
「誠に申し訳ございません」
フィーデが早々に謝罪してきた。
「同族で油断していたとはいえ…」
「魔王様を危険にさらしてしまいました」
「護衛の責任者として…」
「死んでお詫びを…」
「おいおい 魔族は死んで詫びるタイプか」
「人間界でも、昔はそういう古いしきたりがあったぞ」
「死んでも、これまでのことは変わらないし、これからのことのほうが大事だろ」
「これからも全力で護衛してもらわないと困るぞ、フィーデ」
「承知しました…」
「昔の魔王なら、すぐに首を切られたのラ」
「首を切るっていうのは、物理的に斬るってことなのラ」
「おそろしい時代だな…俺が魔王で良かったな…」
「ところで気になることがあるんだが…みんな聞いてくれないか?」
「ヘルポートで襲われたことだが…」
「どうもタイミングが良すぎる気がするんだ…」
「襲われたタイミングで、村人は避難していたよな」
「おそらく村人を巻き込まれないようにした、ザルファーの配慮だろ」
「だが、事前に通達なしで、すぐ避難できるだろうか」
「あらかじめ、襲撃する日が分かっていた、あるいは決めていたとしか思えない」
「何者かがヘルポートに到着する日を、事前に伝えていたとか…」
「ハンゾウ、もしかして誰かに尾行されてなかったか?」
「ヘルポートまでの往路では、尾行されていなかったかと」
「開けた地帯ゆえに、尾行されていれば、すぐに気付くかと」
「そうだよな、俺もとくに尾行されてる気配は感じなかったんだよな」
「旅の行程は、他にバラしてないよな?」
「もちろんでございます」
「仲間にも伝えてありますが、我が軍団で情報を漏らす者はいないかと」
他を見渡したが、全員首を横に降っていた。
「気のせいなら大丈夫だが…なんだか引っかかるな……」
「より警戒を強めましょう」
「ハンゾウさん、情報網の強化お願いします」
「承知いたした」
「マーニャも魔王様を守る、いい案を思いついたのラ」
「マーニャは、これから毎晩魔王様と一緒に寝るのラ!」
「マーニャ、それは許しませんよ」
「ただ魔王様と一緒に寝たいだけでしょ」
マーニャは、フィーデに咎められた。
「この前、爆睡してしまって…魔王様を守れなかった罰なのラ!」
「フィーデ様、それならワタシが魔王様と寝ることにしましょう!」
「それなら問題ないかと!」
「エオスさん、あなたはメンバーに加わったばかり、一番怪しいですよ」
「ワタシは魔王様に助けられた命、なにかあればいつでも魔王様の盾に…」
「エオスちゃん、こういったことは、先輩が先なのラ!」
「先輩とか後輩とか、そういったことは関係ないですよ…」
「もうこうなったら、私が魔王様と寝るしかないようですね」
フィーデが、OKを出してくれと、ジッと見つめてくる。
「なんでのラ!おかしいのラ!!」
「フィーデ様が抜け駆けを…」
「なんで、魔王様と一緒に寝る流れになっておるんじゃw」
ゴブ爺が呆れている。
結局、船旅中はロプスと寝ることになった。
狭い船室で、身体がでかいロプスと寝るくらいなら
いっそ殺されたほうがマシだと思ったりもした…
辺境の国エルガド 城下町
「勇者様のご帰還である!!」
長い航海を経て、ようやく辺境の国エルガドへ着いた。
城門を開けると、すごい歓声と管楽器や太鼓の音色が聞こえてきた!
夢にまで見た、これが凱旋パレードというやつか!
「勇者様がご帰還だ!」
「勇者様がこっちを見たわ!」
「勇者様 バンザイ! 勇者様 バンザイ!」
勇者を一目見ようと、街道にはたくさんの人が押し寄せていた。
中には、お祭り気分でほろ酔いの人や
なにを思ってか、感動して泣いているもの。
エルガド国には、明るい雰囲気が充満していた。
「いや~ あらためてこうやって出迎えられると、照れるな~」
「魔王様の功績ですから、もっと堂々してください」
「観客に周りに怪しいモノはおりませぬ」
「だが油断なされぬよう」
手には一杯の花束
首にはいくつかの花の首飾り
頭には金の冠
俺は恥ずかしくなってきて、すこし早歩きで、王のいる城まで歩いた。
辺境の国エルガド 城門
王の間の手前まで来ると、衛兵にセキュリティチェックをされた。
「勇者様、念のため 勇者チェックをさせていただきます」
そういうと指紋のチェック、写真の照合、身長や体重まで。
「チェック完了しました!」
「勇者様でお間違えありません!」
「最近、ニセモノ勇者も多く出回っておりますので」
「だいたい顔見たら分かるだろ!」
辺境の国エルガド エルガド城 王の間
衛兵によって、王の間の扉が開かれた。
「勇者様の~」
衛兵の言葉に被せるように、エルガド王が話し始めた。
「おぉ!!勇者待っておったぞ!我が友よ!」
「何年振りだ!勇者よ!」
「まずは無事でいてくれて良かった!」
王が玉座から降りて、勇者を抱きしめていた。
「おいおい ちょっと泣いてるじゃないかw」
「俺はおまえの彼女かよw」
「ただいま エルガドよ」
『辺境の国王エルガド』
先王が魔族との戦いにより、早くに亡くなり、今のエルガドが王位を継いだ。
ちなみに王となるものは、エルガドの名も引き継ぐ。
エルガド王と俺は、同い年。
まだ王子であったときに、血気盛んであった王子とともに、よく魔族討伐に行っていた仲だ。
まさに戦友であり、年齢も同じであったことから、すぐに仲良くなった。
俺のミスで、あやうく王子を殺しかけてしまったこともあったが…
それも今となっては、共通の笑い話となっている。
「勇者よ!ゆっくりしていくよな!」
「これまでの冒険の話もたくさん聞きたいし!」
「もっと気品ある話し方をしてくれよなw」
「オホォン! 勇者よ! エルガドにてゆっくり傷を癒やしていくがいい!w」
「ご配慮いただきありがとうございますw エルガド王」
「だが まだ他の国を周らなくてはいけなくってな」
「もちろん母国にも帰らないといけない」
「そうか…母国に戻ったら、またエルガドに遊びにくるがいい」
「とにかくゆっくりしていくがいい」
「付き添いの魔族達の話しも聞いておる」
「付き添いの者も勇者同様にもてなすゆえ、ゆっくりするがいい」
「感謝いたします」
「では!宴の準備もあるので、また後でな 勇者」
「おぅ また後でな!」
そうして、久しぶりに旧友との再会を果たした。
「ずいぶんとエルガド王と仲がよろしいのですね?」
フィーデが聞いてきた。
「タメ口が許されているのも、俺ぐらいかもしれないw」
「ここエルガド国は、魔族との最前拠点だ」
「その国を支えるのは半端なものではない」
「物資や資金、軍備など考えることは山のようにあるはずだ」
「現王エルガドは、知性にも長け、武力も申し分ない」
「まさに賢王であることは間違いないだろ」
「エルガド国は、魔族との交易地点でもありますじゃ」
さすがゴブ爺、よく知っている。
「魔族との交易を許したのも、現王の判断だ」
「ゆえに街にも魔族のモノが多い」
「なにげに人間と魔族の共存が、もうすでに、この国では実現できているのかもなw」
「言われてみれば確かに」
「街の人も私達を見ても怖がらず、恐れもしていませんでした」
「わたしもさっきまで、王様の子と遊んできたのラ」
「どういうこと分からないけど…小さい子供だと間違われてるのラ」
「ワハハ、アーニャにはぴったりの役目じゃないのかw」
「アーニャぐらいになると、人間の子供の遊び方も知ってるのラ」
辺境の国エルガド 城下町 宿屋
エルガドの街にある宿屋で待機していると
外から馬車の音が聞こえてきた。
しばらくすると、王の使いの者が、宿屋の扉を開けて言った。
「そろそろ宴の準備が整いますゆえ、宴の間までお越しくださいませ」
「イヤッホー!!宴だ♫ 宴だ♫」
「あれ?ロプスの姿が見えないが、どこか行ったのか?」
「あぁ さきほど、街を探索してくると行って出かけていきました」
「呼び戻してきましょうか?」
「いや 俺が呼んでくるよ」
「先に行っていてくれ」
辺境の国エルガド 市街地
「さぁて あいつはどこに行ったのかな?」
「デカイからすぐ見つかるだろw」
街の人からの目撃情報をたどっていったら、ある場所で見つかった。
「ロプス こんなところにいたのか」
「魔王様 ここすごく楽しい!」
「あたらしいモノや技術がいっぱい!」
「勇者様 こんな小汚い鍛冶屋にようこそ」
「さきほどから、この方が鍛冶を手伝ってくれております」
「ロプス様から質問も多いですがw 私達にも魔界の技術を教えてくれております」
「魔界にはない技術や物質がココある」
「新しい発見!目からウロコ」
「ロプス そろそろ宴が始まるようだから迎えに来たんだが…」
「スマン! ロプスもう少しここにいる」
「はいはい 分かったよー」
「食べ物は残しておくようにするよ」
サイクロプスは魔界では、鉱業と武具製作担当。
ロプスは優秀な鍛冶師でもある。
魔族の装備は、だいたいがロプスの一族が、設計したものであろう。
魔族の武器や防具は、人間界でも高値で取引されている。
「こりゃー 新たな知識を得て、すごい装備品ができるのかもなw」
そうしてロプスを鍛冶屋に置いて、俺は宴に向かった。
辺境の国エルガド エルガド城 宴の間
「勇者ー!遅いぞー!!」
「宴はもう始まっている!お前も祝杯を飲めぃ!」
「おいおい、もうちょっと出来上がっちゃってるじゃないか…w」
「エルガド王はあまりお酒が強い方ではないのですね」
フィーデが微笑みながら言ってきた。
「そうだ 昔から酒は飲まないほうだった」
「たまに飲むといつもあーだ」
「だいたい、この後のパターンは読めている…」
エルガド王が魔王を隣の席に呼んだ。
「勇者よ!このたびはよくやった!乾杯だ!」
「お、お、おぅよ!」
「人間と魔族共存の契約草案も読ませてもらった」
「素晴らしい思想!」
「我がエルガドは賛成いたす!」
「この国の王としても!友としても!」
その言葉を聞いて、フィーデもアーニャ、ハンゾウも安堵したようだった。
なによりも俺が一番嬉しかった。
一番同意して欲しい人に同意してもらった気持ち。
正直…人間界では初めての契約だったので不安もあったが
うまくいって俺もホッと安堵した。
「まだまだ これからだ」
「他国を周って説得していかないといけない」
「反対してくる国もあるだろう」
「とりあえず エルガドよ」
「ありがとう」
再度、俺達は勢いよく乾杯した!
エルガド国は
魔族との交易や討伐の武器需要によって
正直儲かっている。
豪華絢爛な宴の間。
そして目の前に広がる色とりどりの料理や飲み物。
もちろん魔族寄りの料理なども、食べきれないほど用意されている。
踊り子や大道芸人の余興の数々。
羽振りの良さは、この宴の様子を見れば一目瞭然だ。
ある程度、宴が落ち着いてきたところで、エルガド王が話しかけてきた。
「おいおい勇者よ!」
「あの話はどうなっている?」
「また その話かよ」
「だいたい酔ってくるとその話をするよな」
「その話は、確か断ったはずだが!」
「それは魔王討伐があるゆえ、帰れるかどうか分からぬからという、あいまいな理由だったはず」
「こうして無事帰ってきたからには、約束を果たしてもらおうぞ!」
「おい!おい!そんな約束はしてないって!」
「魔王様、それはどういった約束でしょうか?」
フィーデがすかさず質問してきた。