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魔王を倒して、家に帰るまでが遠足【完結】  作者: ATARA
2章 魔王を倒して、家に帰るまでが遠足
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2-2 魔王を倒して、家に帰るまでが遠足

魔界 ハンゾウの隠れ里



「ハンゾウ様、おかえりなさいませ」



「皆に変わりはないか」



「ハッ 特になにも変わりはありませんが…」


「皆、新魔王様の噂で持ちきりでして…」



「そのことで帰ってきたのだ」


「すぐ幹部をオレの屋敷へ呼んでくれ」



「ハッ すぐに」






魔界 ハンゾウ家屋敷 大広間



ハンゾウの屋敷は、いたって普通の屋敷である。


どちらかというと質素で簡素な家である。


ハンゾウは役職的に、あまり家にいない、いやほとんどいないので、


なるだけ簡素な屋敷にしているのかもしれない。


その質素で簡素なハンゾウの客室に、ハンゾウの幹部達が集まった。



「皆 急に集めてすまない」


「皆も知っていると思うが、新魔王様が就任された」


「そして、魔界の新しい方針も発表された」



幹部達は、皆黙って、ハンゾウの言葉を聞いている。



「人間と魔族の共存」


「無論、わしも賛成しておる」


「これより、人間国との交渉のため、護衛として新魔王様に付いていくことになった」


「おそらく長期間の旅になることが予想されるので、里の緊急時の判断は、フゲンに任せようと思う」



「承知!」



ハンゾウよりも、数回り身体が大きいフゲンが答えた。



「従来通り、世界各地への潜入はこれまで通り」


「なにかあったら、各地の情報は、迅速に伝えよ」



「承知!」



「以上だ」



「ハッ!」




ハンゾウの軍団は統率され、鉄の掟によって縛られている。


この鉄の掟を破ることは死を意味する。


最低限のことだけを伝えて、だいたいすぐに解散となる。


ちょっと残って雑談なんてことはほとんどない。


ましてや宴会などはあり得ない。


各自、すぐにそれぞれの業務に戻る。



だが今回は、よほど新魔王のことが気になるのか、珍しく延長戦になった。


まぁ無理もない。


人間による、初めての魔王であるのだから…




「ハンゾウ様、質問よろしいでしょうか?」



若手幹部のサイゾウが、ハンゾウに質問した。



「新魔王様は、私達の『敵』でしょうか?」


「それとも『味方』でしょうか?」



「正直分からぬが、魔族に対して敵意は、もうないことは確かだ」


「魔王様が、今後どう動くのかは監視する必要がある」


「わしが得た情報も、適宜、皆に共有いたす」



「では、もし『敵』であるとなった場合は、いかがなさるおつもりでしょうか?」



サイゾウの隣に座っていたモモノスケが質問した。



「わしが暗殺しようと思っている」


「里の不利益となると判断した時、わしが確実に仕留めるつもりだ」


「まぁ…実際殺れるかどうかは分からんがな…」



「勇者様、あっいや新魔王様は、お強いのでしょうか?」



サイゾウが再度質問してきた。



「それも分からぬ…実際戦っているところを見たことがない…」


「皆も知っておるだろうが、他の勇者の名前は聞いたことはあるだろうが、新魔王様の名前は聞いたこともなかった」


「すなわち 目立ったような戦果は、これまであげてないということだ」


「だが事実として、前魔王様が倒されたということは、間違いない」



「なんと…まるで我々のような、雲のような方ですな」



「魔王様が倒されたってことは、相当強いはずだ」



「それだと、どうして今まで武勇が上がってこなかったんだ…」



様々な憶測や議論でざわついた。



「ほかによいか?ないな?」


「では よろしく頼む」



「ハッ!」






魔族拠点 ヘルポート 高級宿前



ハンゾウによって一瞬にして、ザルファーの奇襲部隊は制圧され


ザルファーは剣を地面に落とし、両膝をついてうなだれていた。



「あれだけ準備してきたものが、一瞬で台無しだ…」


「自分の運命も…ココまでだったということか…」



ザルファーは両膝をついたまま、魔王を見上げた。



「魔王様、命乞いをするつもりはありませんが」


「ワタシの最後の願いを聞いていただけますか?」



「ん?なんだ?」



「まず、ここにいる手下達は、自分が強制的に巻き込んだ者達です」


「この者達を見逃していただきたい」



「フィーデ他メンバーと相談し、処罰を決める」


「しかしながら、善処はする」



「ウゥゥ…ザルファー様ー」



あちこちで、号泣する声が聞こえてくる。



「最後に妹がいるのですが…」


「もし妹が生きていれば、ワタシが謝罪していたことをお伝えください」


「もし妹が死んでいるならば、妹を弔って、お墓を立てていただきたい」



「ん??」


「妹が生きているとか、死んでいるとか、どういうことなんだ??」


「まぁ でもいいだろう、承知した」



「ありがとうございます…魔王様」


「ワタシも魔王様とともに、新世界を目指してみたかったものです…」


「でも…これがワタシの運命なんでしょう…」




ザルファーは首を差し出し


俺は剣を振り上げた。




「待ってください!!」


「どうか 兄のご無礼をお許しください!」




すこし遠くから、でもハッキリと俺の耳に届いた。


寸止めで剣を止めた。




「エオス!無事だったのか!!」




目の前に現れたのは、一般人ではない気配とオーラを纏った美少女だった。


そして魔王の元へ膝まずいた。




「どうか どうか! 兄のご無礼をお許しください!」


「魔王様に対して反逆など、許されない行為だとは知ってます」


「兄にはこの拠点を治める力があります」


「今、兄がこの拠点から消えると、代わりになる者がございません」


「もし許されるのであれば、兄ではなく…」


「どうか、この私を処刑ください…」



「エオスか…止めなくてよい」


「仕方ないとはいえ、これはワタシが選択したことだ…」



「兄と言ったか ザルファーの妹よ」



「はい ザルファーの妹にして、前魔王の子エオスと申します」


「非力な兄が、こんな無謀なことを行うはずはありません」


「兄がこうしたことを行ったことには、事情があります」


「私を処刑する前に、せめて事情をお聞きください…」


「今後の魔王様の身の危険にも影響があるかもしれません」




エオスが言うところによると、こうだった…



俺たち魔王達一行が港ヘルポートに向かっている頃


何者かがエオス達の屋敷に押し入り、エオスを誘拐。



ザルファーが『謎の男』に言われたことは、


数日後に、この港ヘルポートに魔王一行が来ること。


魔王の身柄と引き換えに、エオスを開放するとのこと。


おかしな動きをすれば、エオスをすぐ殺すとのこと。


それだけでなく、新魔王としてザルファーを据えること。


大義名分のもと、ザルファーが新魔王を倒しても、違和感がでないことを狙ったのだろう。


きっと、ザルファーが新魔王になったとしても


やつらにずっと脅され、操られていたに違いない。




「なるほど、そういうことだったのか…」


「その謎の男は、何者だったか分かるか?」



「魔族語を使っていましたが、かすかに人間訛りが入ってましたので、もしかしたら人間かもしれません」



「ところで、どうやって脱出してきたんだ?捕らえられてんだろ?」



「はい 目隠しをされ、両手両足を縛られていましたが、ハンゾウ様のお仲間が、さきほど助けてくださいました」



「ハンゾウ 間違いないか?」



「申し訳ありません」


「今仲間に確認しました」


「前もって仲間を、港ヘルポートに潜入にさせていたのですが…」


「どうやら潜入中に、さきほどのエオス様が言っていた事件が起きたらしく」


「その事件の真相を追っていたら、港近くの灯台に捕らえられたエオス様がいたと…」


「ただし、そこにはだれも残っていなかったと、その謎の男も…」



「ようやく…いろいろ事情を把握してきた」


「エオスとか言ったな」



「はい…」



「俺が無事に国に帰るまで、旅についてこい!」



「はい…」


「はい!!???」



「ザルファーよ」


「エオスを今度は、俺が人質として預かっておく」


「無事に何事もなく、俺が国に帰ったらエオスを返してやろう」


「それまでに、この拠点を正常に立て直すのだ」


「またその『謎の男』というやつの手がかりを探してくれ」



ザルファーは、地面にうなだれたまま号泣している。


コクリと小さくひとつだけ頷き、小さく返事をした。






魔族拠点 ヘルポート 出港口



翌朝、エオスを加えたパーティーで、ヘルポートの拠点を出発した。


二日酔いで、まだ俺は頭がガンガンする。。。



「マーニャ 二日酔いに効く魔法を知らないか?」



「そんな魔法ないのラ」


「マーニャには、二日酔いというものが理解できないラ」



ハンゾウがなにやら考え込んでいる…



「もしかして、なにかの呪いではないのか??」



「これは人間界でいうところの、二日酔いというやつですじゃ」


「お酒を飲みすぎた翌日によく症状として出る」


「半日もすれば良くなるですじゃろう」


二日酔い気味のゴブ爺が言っているので、説得力がある…



「ちょっと魔王様 失礼します」



エオスがそういうと、爪の先で腕の血を、微量だけ抜き取った。


そして味を確かめるように、ペロリと舐めた。



「おそらく身体に毒が入ったような状態になっているのでしょう」


「解毒薬なら作れます」


「とりあえず常備しているこの解毒薬をよかったら、どうぞ」



「うげー この解毒薬苦い…」


「あれ!?でもなんだか気分が良くなったぞ!」


「エオス どこで覚えたんだ!?」



「はい 私は兄同様、全く破壊の力を授かりませんでしたので…」


「よく魔王城にある書庫に籠もっておりました」



「あそこは特別な魔族しか入れない、秘密の場所なのラ」


「貴重な書物もたくさんあるのラ」


「もちろんマーニャも入れるのラ!」



マーニャが自慢げに言ってきた。



「エオスにそんな才能があるとは!」


「ヒーラーとして期待が持てるな!!」



「私でお役に立てることがあれば…」


「もともと、もうなかったような命…」


「魔王様のためであれば…」


「いつでも魔王様の身代わりになる覚悟はできてます!」



エオスが、ジッと俺を見つめてきた!


分かる!これは本気のやつだ…



「エオスよ…身代わりになんてならなくていいぞ…」



「魔王様のためであれば、いつでも…」



この後、このやり取りが、何往復か繰り返された……。






不穏なモノ


「ザルファーめ!絶好の機会を逃すとは、使えぬやつよ!」


「しかし…そう簡単ではないか…」


「なんとしてでも、魔王を捕らえなければ…」



「次の作戦は、どういたしましょうか?」


「魔王の居場所は、常に掴めてますので、あそこで罠を張るのがよろしいかと」



「うむ!任せた!」


「それにしても…、やはり魔族のエリート達…」


「能力がバケモノすぎるわ」


「勇者を捕らえるには、勇者を孤立させねばか…」

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