2-1 魔王を倒して、家に帰るまでが遠足
魔族拠点 ヘルポート
魔王城を出て
3ヶ月ぐらい旅をしたところで、ようやく魔界の港ヘルポートに着いた。
魔族の拠点に着くと、だいたい流れは決まっている。
1.フィーデがその拠点のトップへ話を通す。
2.トップへ話が通れば、遅れて自分達も拠点へ入る。
3.そこで一晩過ごして、次の目的地に向けて出発する。
今回もまた同じ手順を取る。
「フィーデです」
「拠点の長を呼んでください。」
「ハッ 速やかに!」
遠くから魔王の容姿によく似た人物が近づいてきた。
俺はとっさに、剣に手を添えた。
「この拠点は、前王の子息が治めております」
「ですが、魔王様に危害を加えることはないかと…」
フィーデが耳打ちしてきた。
「これはこれは、フィーデ様珍しい」
「こんな辺境の拠点まで来られるとは。何十年ぶりでしょうか」
「話は聞いております」
「そこの勇者様が新しい魔王様であること」
「準備はできております」
「さっ どうぞどうぞ」
見た目は魔王ソックリだが、性格は真反対というか、覇気が全く感じられない。
「魔王様、お初にお目にかかります」
「ザルファーと申します」
「以後お見知りを」
ザルファーが魔王に対して深々とお辞儀をした。
「あぁ ああ、よろしく頼む」
フィーデも目で安心してくれと言ってるようで、俺を見ながら軽く頷いた。
後からハンゾウから聞いた情報によると
ザルファーは、武力のほうは全然だが、人柄は良く、政治に長けた人物だと言っていた。
力こそ正義の父親、前魔王からの寵愛は少なく
通常であれば、魔界の中枢に息子を置いておくものだが
僻地の港ヘルポートに配属されていたとのことだった。
「それにしても、この拠点は雰囲気が異様に暗いな」
「この間泊まった拠点は、なんというかもっと活気があったよな」
「フィーデ、なにかこの拠点はあったのか?」
「はい」
「この拠点は、さきほど申しましたとおり、亡くなられた前王の子 ザルファー が治めております」
「魔王の子とて、父親を亡くした傷はまだ癒えてないのでしょう…」
「そうか…なんか悪いことをしてしまったみたいだな……」
「いえ、弱肉強食は世の常」
「前魔王様も力によって、その魔王の座を手にした方」
「魔王様はなにも気にする必要はありません」
「そうか、そう言ってくれるとちょっとだけ救われるよ。」
そうして安心したのも束の間。
最初の事件が起こった。。。
魔族拠点 ヘルポート 宴会場
拠点ヘルポートについた俺達に、盛大な宴が開かれた。
港街だけあって、魔族界のごちそうから人間界のごちそうまで、ありとあらゆるものが揃っていた。
久しぶりのごちそうに、さっきからよだれが垂れっぱなしだ。
「あー 人間界の食べ物なんて、いつ以来だろうか」
「もう食べてもいいよな な?な?な?」
「どうぞどうぞ 召し上がりくださいませ 新魔王様」
「大したものはご用意できませんでしたが、ごゆるりと」
「このお酒は、魔界で一番貴重な素材にて生成された貴重なものでございます!」
「ぜひ!お召し上がりを!」
「確かにこれは貴重なお酒ですぞ」
「このひと瓶で、ちょっとした宝石なら買えますわい」
「どれ 味見を!」
「プハッー 少し変わった味がしますが、これはこれでよい!」
「さぁさ 魔王様も」
ご機嫌になったゴブ爺が、俺の盃に酒をなみなみと注いできた。
「プハッー!! 酒の味なんてほとんど分からないが、なんだかオイシイ気がする!」
「みんなもどうだ!」
「私達は大丈夫です。魔王様をお守りするお役目もありますので」
「一杯ぐらい付き合えよ!ほらほら!!」
「では お言葉に甘えて」
というと、フィーデは酒瓶ごと一気に飲み干してしまった。。。
「あいかわらず、フィーデ様はお強い…」
「新魔王様 まだまだお酒はありますので、どうぞ どうぞ」
魔族拠点 ヘルポート 高級宿
正直言うと…それからの記憶は、あまり覚えてない。。。
気付いたら宿のベッドで寝ていた。
どれくらい寝ていたのだろうか…。
ハンゾウの声で、目を覚ました。
「魔王様 魔王様 起きてください。緊急でお伝えすることが…」
「なんだ、朝まで寝かせてくれてもいいだろぉ。。。」
「重要なご報告が…」
「重要なことは、もう大体済ませただろ。あとは国へ帰るだけ ふぁああぁ」
「あといつも言ってるが、そんなにかしこまらなくていいぞ」
「はい 承知しました」
「で?なにがあるんだ。これから楽しいところへ出かけるのか??」
「魔王様、どうやら宿の周りを敵に囲まれております」
目が覚めた!
ただお酒の影響か、頭がズキズキするし、思考がうまく働かない。
「どういうことだ??」
「我が手下の情報によりますと、魔王の子ザルファーの軍勢だと」
「おそらく新魔王様を狙っておられるかと」
「なるほど父親の仇ってわけか…」
クイズが苦手な俺でもすぐに見当がついた。
だが…あんな温厚そうなヤツが、こうも簡単に手のひらをひっくり返すとは思わなかった。
油断も油断。
歴史の教科書に載っていた『織田信長』というやつの気持ちが、少しだけ分かった気がした。
「ワタシどもで処理しておきますが、よろしいでしょうか?」
「ん??処理とはどういうことだ??」
「敵を全員皆殺しにしておきます」
「ちょっと ちょっと待て待て!」
「話し合いでなんとかならないか?」
俺は魔物と人間共存を誓ったばかりで、そう簡単に虐殺はできない。
(数も奴らの方が多いだろうし…正直勝てるのだろうか…)
ハンゾウ以外のメンバーは、まだ眠ったままだ。
おそらく酒になにか特別なモノが混ぜられていたと、ハンゾウが言っていた。
(ハンゾウは酒を口にしない)
俺は着の身着のままで、宿屋のドアから勢いよく外に飛び出した!
「おやおや、勇者様お目覚めのようで」
「思ったより早いお目覚めでしたな」
そこにいたのは、昼間に紹介されたばかりのザルファーというやつだった。
「やはりハンゾウ様には勘づかれてしまいましたな」
「これでもそうとう分からないように準備したつもりでしたが」
「あと酒の効果も勇者様にはイマイチだったみたいですね」
「どうやら耐性値が高いみたいですね」
「まぁいいでしょう」
「新魔王様、残念ですがここで死んでもらいます!」
「おい 魔王の子ザルファーとやら」
「俺はおまえと争うつもりはない!」
空に浮かんだザルファーとその軍勢は、20〜30個体といったところだろうか。
俺達は、ハンゾウと俺だけ…
計2人
あきらかに不利であることは明白だ。
なんとか話し合いですませなければ……
「残念ながら、その願いは聞き入れられません」
「新魔王様にはおとなしく死んでいただきます!」
ハンゾウが自分の前に立った。
「魔王の子ザルファーよ」
「今回は新魔王様に免じて、お前の首だけで許してやろう」
「そうすればお前の部下達は死なずに、最小限の被害ですむであろう」
「非力なことは自分自身で分かっておりますが、今回ばかりはそうもいってられません」
「魔王様の首を頂戴します!」
「魔王様、結論が出たかと」
「後はお任せください」
ちょっと待てと言いかけた瞬間には、ハンゾウはいなくなっていた。
その瞬間、目もくらむような閃光が、暗闇を明るく照らした。
かすかに…閃光の中に素早く動く、いくつもの黒い影が見えた気がした。
「ウッ 眩しい! なにが起きているんだ」
目が目潰しの状態から、だんだん目が暗闇に目が慣れてくると
状況が見えてきた。
あれだけいたザルファーの手下達が、地面に転がっていた。
まるで蜘蛛の巣に引っかかった虫のように、地面でもがいていた。
俺は一瞬のことすぎて、なにが起きたのかは分からないが
辺りは火薬のような匂いで充満していた。
「どどど どういうことだ??」
「ザルファー様、お逃げくださいー!」
地面に這いつくばっているザルファーの手下が叫んだ。
「こいつはいかがいたしましょう?魔王様」
ザルファーの背後にいるハンゾウが、俺に質問してきた。
圧倒的な力の差…
俺がザルファーなら、すぐさまこの場から逃げているだろう…
逃げる余地さえあるのかは分からない…
ザルファーは剣を地面に落とし、両膝をついてうなだれていた。