1-3 魔王を倒して、家に帰るまでが遠足
魔王城 大広間
「それでは魔王様、最終ご判断を」
張り詰めた空気…
なにか間違ったことを言おうものなら、即刻処刑されそうな雰囲気…
まさにそういった空気感が漂っていた…
「んんっ ウンッ」
覚悟を決めて、軽く咳払いをした。
「最終決断は、『3.その他』だ」
重臣達はざわめきだした。
「静粛に」
「それでは魔王様、新しい方針の提案をお願いします」
大広間があらためて静まりかえった…
次の発言を聞き逃すまいと、全員がこちらを注目している…
「人間と魔族との共存を目指す!」
「まずは、魔族の同意を得るために、各種族を周り、契約を結んでくる」
「同様に、人間界の同意を得るために、各国を周り、契約を結んでくる」
「直近の目標を、人間と魔族の停戦とし」
「最終的には、『人間と魔族の共存できる世界』を目指す!」
「以上だ」
重臣達が、再度ざわめきだした。
人間と魔族の共存など、できるのかと申す者
ようやく戦乱が落ち着くと安堵する者
魔王の決定なら従うという者
満場一致ではないことは、その場にいる者なら、誰にでも分かった。
「それでは採決をとります」
「賛成の者は、起立を」
生きるか死ぬか
運命の分かれ道だ!!
重臣達は周りの様子を伺って、誰も立とうとしていなかった…
俺の人生…
終わったか…
フィーデが起立した!
すると逆ドミノ倒しのかのごとく、次々と重臣達が起立していった!
「異議なし!」
「異議ありません!」
「魔王様の意のままに!」
「満場一致ですね」
フィーデが列席の者を見渡して確認した。
拍手が沸き起こる。
「今後の具体的な方針は、魔王様と相談の上、追って報告します」
「以上、解散します」
重臣達が、それぞれ魔王に挨拶をして出ていった。
俺は力が抜けて、脱力状態で椅子にもたれかかっていた。
フィーデだけが、大広間に残った。
魔王城 大広間
「魔王様 まずはお疲れ様でした」
「はぁ~ 殺されるかと思ったよ…」
「魔王様の命令は絶対ですから、基本的に反対はないかと」
「フィーデの最初の賛成が後押ししたのかもな」
「どうでしょう?w」
「魔王様、あたらめて、次のご命令をお考えください」
「あぁ、それならもう考えてある、さっき言ったとおりだ」
「魔界の各種族を周って、契約を結びにいこうと思う」
「それでしたら、さきほどの会議で、各種族の同意を得ているので不要かと」
「さきほど出席していた者達は、各種族のトップ達です」
「後日、契約書だけ交わしておきましょう」
「その手配は別の者に指示しておきます」
「えっ!?」
「あれで終わりでいいのか??」
「形式的に採決は取りますが、今まで反対が出たことは一度たりともありません」
「魔族は一枚岩ゆえの強さがあります」
「反面、判断が間違ったときの脆さもありますが…」
「な な…なるほど…」
「ちなみに、人間界の各国の同意が得られなかった場合は、どうなるんだ?」
「はい 再度大幅な方針の変更が必要になります」
「もしくは、魔王様の解任投票になるかと」
「魔王解任となると…俺の身はいったい…」
「お察しのとおりかと」
鳥肌が立った。
とんでもない約束をしてしまった…
後には戻れない道だ…
もう覚悟を決めて進むしかなかった。
後日あらためて
重臣一人一人と話したのだが…
共通して言えることは
各種族とも、長年の戦い続きで、疲弊しているということだ。
食料問題、徴兵による生産力問題、戦いによる環境問題など
それ以外にも、それぞれ大きな問題を抱えているようだった。
中には好戦的な種族もいて、反対意見のようなことを言った者もいたが
フィーデによって軽く論破され、押し黙ってしまった。
フィーデを敵に回したくないなと、心に刻み込んだ瞬間だった…
魔王城 書斎
「フィーデ、魔族の同意は大丈夫だろうか?」
「はい、各族長とも話しましたし、概ね問題ないでしょう」
「最終調整は、専属の者に行わせます」
「助かるよ」
「次は人間界各国の同意だな…」
「想像するだけで気が滅入ってくるよ…」
「では、さっそく各国を周る準備をいたしましょう」
「護衛の準備と移動手段、その他諸々をすぐ用意させます」
「出発は今週末ぐらいで大丈夫でしょうか?」
「あぁ大丈夫だ」
「なにからなにまで申し訳ないな」
「ちょっと待つのラ!!!」
応接間の扉が、勢いよく開いた。
そこにいたのは、なんとも人形のようにかわいらしい幼女だ。
「話は扉の外で聞かせてもらったのラ!」
(扉越しに盗み聞きしてたのかよ…w)
「フィーデ!吾輩も魔王様に付いていくのラ!」
「マーニャ!どういうことかしら?」
「ん?フィーデの知り合いか??」
フィーデに話しを聞くと…
『マーニャ』はフィーデと幼馴染みの仲。
(見た目は、どう見ても10歳ぐらいの幼女に見えるが…生きてる年数もフィーデと同じぐらいか…)
吸血鬼の名家出身。
前魔王に仕えていた側近。
言葉遣いが少しおかしいのは、人間界のアニメやゲームというやつに影響されたと言っていた。
魔族でありながら、人間贔屓というか、人間のコンテンツが好きらしい。
「フィーデも魔王様に付いていくなら、マーニャも付いていくのは必然!」
「魔王様の独り占めは、良くないのラ!!」
「私は魔王様の側近として、魔王様に付いていくのは当然よ」
「そうやって、またマーニャの王子様を奪っていくのラ!」
「何百年前ことを根に持って…」
「ふたりとも…まだ幼い時の出来事でしょ…」
「うぐぐぐぐ…」
「マーニャの初恋の人を奪ったことを、マーニャは一生忘れることはないのラ」
「それとこれとは関係ないことでしょ!」
珍しくフィーデが感情的になっていた。
「まぁまぁ 別に構わないんじゃないか」
「それに前魔王の側近とあれば心強いじゃないか」
「魔王様がおっしゃるなら…」
「やったー! 魔王様 大好きー!」
マーニャが、俺にダイブして抱きついてきた。
こうして、同行するパーティーメンバーが、強制的に1人増えたのだった。。。
フィーデやマーニャには直接言えないが…
3人で周るのは、喧嘩が起きる気しかしなくて、他のメンバーも加えてもらうようにした。
メンバーに
※名前が魔族語で読めないので、俺が勝手に命名した
サイクロプスの『ロプス』
ロプスはなんといっても巨大で、威圧感がある。
(目の前に立つと、壁のようで前が見えない)
ボディガードとして入ってもらった。
性格は見た目と違って温厚で、計算や科学に強い。
ただし、ちょっと人間語が苦手である。
あと動物好きで、よくロプスの肩に鳥などの動物が留まっている。
ガーゴイルの『ハンゾウ』
厳密にいうと、ハンゾウを筆頭としたハンゾウ軍団になる。
索敵や情報伝達要員として入ってもらった。
毎日、違った衣装を着てくる。
本人は変装と言っているが…、コスプレが趣味らしい。
(本人にコスプレというと怒られる…)
コスプレ(変装)のせいで、どこに行っても変に目立ってしまうのが難点である…。
ゴブリンの『ゴブ爺』
魔族語と人間語の翻訳担当。
商人をしているので、魔界と人間界の知識が豊富である。
また商人のネットワークをいかした人脈を持っている。
魔界の中でも五本の指に入るぐらいの大富豪。
お酒が大好物で、世界各国の銘酒のコレクションをしている。
「さて、母国の家に帰るとするか」
「参りましょう」
「行くのラ!」
「帰る…カエル…」
「仰せのままに」
「行きましょうぞ!」
こうして魔王を討伐した俺は、母国へ帰ることとなった。
魔族からは、護衛と称して5名の精鋭達が、母国まで付き添うこととなった。
おそらく魔族側としては、その後の勇者の動向や各国の動向の確認など、
人間界の監視の意味もあったのだろう。
「まずは、辺境の国エルガドへ向かわれるのですね」
「そうだな、一番近いエルガドへ向かう!」
「承知しました」
「ではいくつかの拠点を経て、魔界の港ヘルポートまで向かいましょう」
「港ヘルポートからエルガドに向かうルートが、一番安全かと」
「よし 分かった」
魔界と人間界は、巨大な海で隔離されている。
古の時代では、魔界の存在は誰も知ることがなかった。
魔族側も人間界の存在を知ることがなかった。
海を航海する技術が発達し、新大陸についたら魔族種がいたと、学校の歴史で習った。
そこで争いや侵略が起こり、現在にいたるまで争いが続いていたということだ。
旅は順調そのものだった。
いくつかの拠点を経由したが、どこの拠点も復興作業で忙しそうだった。
道の補修や建物の補修、市場の復活などもあって、
荷台や魔物の往来が活発で、どこの拠点も活気があった。
意外だったのは
人間である俺が魔王になっても、差別するような者は、ほとんどいなかったということだ。
それと当たり前だが
魔族にも人間同様に生活があり、家族がいるという当たり前の事実を体感した。
魔王城を出て
1ヶ月ぐらい旅をしたところで、ようやく魔界の港ヘルポートに着いた。