1-1 魔王を倒して、家に帰るまでが遠足
魔王を倒した
しかし…
魔界から母国に帰るまでのほうが
それ以上に大変になるとは…
その時の自分は、知る由もなかった…
魔界 魔王城 王の間
俺は、魔王の玉座へ座っていた。
魔王の返り血を浴びて、真っ赤に染まった俺とその玉座。
まるで部屋の中に、真っ赤なオブジェが置かれているかのようだった。
ここに勇者が現れたなら、だれもが俺を『魔王』と呼ぶだろう。。。
(どうやら…)
(魔王を倒せたみたいだな…)
(これで…仲間は許してくれるだろうか…)
(これで…世界は救われるのだろうか…)
そんなことを、回らない頭で考えていたら
いっきに緊張がほぐれたせいか
いつの間にか、玉座で気を失ってしまった……
魔界 魔王城
「……王様」
「……王様、……王様」
「……魔王様 魔王様!」
ガバッ!
俺は目を開けて、上半身を起こした!
(俺はもう死んでるのか!?)
(ここは天国か!? 地獄か!? いや異世界転生したのか!?)
洗いたてのシーツのいい匂いがした。
どうやら地獄ではなさそうなので、とりあえず安心した。
「魔王様 お目覚めでしょうか」
ベッドの横に立っている天使に声をかけられた。
天使だと思ったのは、あまりにも見た目が美しかったからだ…
「ここは天国なのか…」
「ちょっと待て…… 今魔王って呼ばなかったか??」
「勇者の俺が、なんで魔王なんだ??」
「分かったぞ!よくある異世界転生モノだな」
「別次元の世界に来てしまったってわけか…」
「違います」
「別次元などではございません」
「ここは現実です」
「魔王様は、元勇者であり、現魔王ということになります」
「状況と理解がさっぱり追いつかない…」
「昨日まで魔王討伐のために勇者をやっていたのに…」
「今は魔王??」
「混乱するのも理解できます」
「後ほど詳しくご説明を…」
「それと身体が汚れておりましたので、お身体を洗わせてもらいました」
「ですので、まずはお着替えなどして、ご準備を」
「そちらにお洋服と食べ物を、ご用意してあります」
「もし足りないものがあれば、そこにいる者に言ってください」
「それでは 後ほど魔王様」
敵意のない笑みを浮かべながら
天使のように美しい人は、部屋を去っていった。
魔界 魔王城 大広間
急いで身支度をした俺は
建物の中にある、見たことあるような巨大な扉の前に案内された。
巨大な扉に重厚な装飾。
人間界ではあまり見ないデザインだ。
「さっ どうぞお入りください」
そう言うと、巨大な扉が開かれた。
巨大な長机に沿って、幾人ものが、自分に向かってお辞儀をしている。
見るからに『人間』ではないことは分かった。
ひと目で分かった。
『魔族』である。
巨大な巨人や
羽根の生えたガーゴイル
八重歯が見える吸血鬼など…
これまで魔界で見てきた、魔族の種族が勢ぞろいしている。
(ここは天国なんかではない…)
(どこか見慣れた景色…)
(そうか…)
(まだ魔王城にいるってことか…)
ようやく状況が理解できてきたような気がするが…
まだ夢の中のような感覚だ…
というか…どうか夢であってくれと思っていた。
一番奥の席に案内され、そこに座った。
「それでは新魔王様、まずは自己紹介を」
「わたくしは 『フィーデ』 とお呼びください」
「本名は魔族語ですので、聞き取れないかと」
「魔王様が望む、お好きな名前でお呼びいただいても構いません」
「また、この列席にいる者達は、元魔王の重臣達でございます」
「重臣達の紹介は長くなるので、また別の機会に」
席に座った俺は、あらためて席を見渡し
頭を抱えた…
「それでは本題へと」
「今回、勇者様が魔王を倒されたので、新魔王となりました」
「魔族の掟のひとつとして、魔王を倒しものが、新魔王として認められます」
「力の一番強いモノが王となる」
「シンプルなルールでございます」
「何千年も続く掟、この掟が今回も適用されます」
「ただし、人間に適用したのは、今回が初となります」
「魔族同士であれば、すんなりと魔王継承されるのですが…」
「勇者様は人間種…」
「そこで、魔王としてふさわしいかどうか判断するために」
「魔王様に『3つの選択肢』から、今後の魔界の方針を選んでいただきます」
1.新魔王として人間界を滅ぼす
2.魔王を辞退する
3.その他
ここで選択を誤るのはまずい…
冷静に考えろ 俺…
まず『2.魔王を辞退する』という選択肢はないだろう…
俺が、魔王を辞退すると言った瞬間に
この場で瞬殺されるに決まっている…
そして 『1.新魔王として人間界を滅ぼす』という選択肢もないだろう…
勇者として戦ってきた俺が
人間界に反旗を翻す!?なんのために!?
「質問していいかな?」
「どうぞ」
「『1.新魔王として人間界を滅ぼす』を選択した場合はどうなるんだ?」
「新魔王として、魔族を引っ張り、これまでと同じように人間と戦争を続けます」
「いちおう聞いておくが…」
「『2.魔王を辞退する』を選択した場合は?」
「この場で勇者様を開放しますが、魔界から出られる保証はいたしません」
「『3.その他』っていうのはなんだ?」
「1でも2でもない」
「新王様が考える新しい方針になります」
「ただし、列席している者の同意が得られなかった場合には、否決されます」
「その場合には、1と2から選択していただくことになります」
「なるほど… 新しい方針か…」
(現状を考えると『3.その他』以外にないよな…)
(しかし 新しい方針か…)
またしても、俺は頭を抱えた。
「魔王様 ご決断を」
「ちょ ちょ ちょ ちょっと待ってくれ!」
「猶予はないのか?」
「承知しました」
「それでは、ご決断を1週間以内に」
「1週間内に判断できない場合には」
「『1.新魔王として人間界を滅ぼす』か『2.魔王を辞退する』」
「どちらかをお選びください」
「ウゥゥ 分かった…」