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河原の石はいつか宙を舞う

作者: vurebis

 西の空がオレンジ色に染まり反対の空が暗くなりだす。川沿いに走る遊歩道は帰り道に歩くには丁度いい。良いことがあれば噛みしめることが出来るし、悲しいことがあれば感傷に浸れる。


 午後六時。今日のバイトが終わってコンビニで買った晩御飯を持って帰る。遊んでいた子供はもう帰って、犬の散歩をするオバサンがちらほら見える。人が鎮まるにはまだ早い時間だが、近くに走る県道のおかげでここは静かだ。


「疲れたバイト終わりにはありがたいねぇ。すごい静かだ」


 頭上のカラスの声をBGMにアパートへ向かう。河原の沿いの道は石が多い。舗装された道ではあるが道路端に寄せられて転がっている。小学校からこの道を歩いて生きてきた。今でも鮮明に覚えている。石を投げて水切りしたなぁ。


「お、ベストストーン」


 昔、よく跳ねる平べったくて握りやすい石を走り回って探してベストストーンなんて呼んだりしてた。見つけた奴はそのまま投げて、五回跳ねればその日はヒーロー。いつからかやらなくなったけど俺は結構ヒーローだったな。

 そんなことを考えながら川の側に着いた。久々に水切りでもしようか。ふぅ。っと息を吐き、水面へ平行に投げる。


「いよっと」


 勢いよく回転しながら飛んでいく石は六回跳ねて水の中へ消えていった。


「お、六回」


  あの頃なら飛び上がって喜んでいただろう。今は、そうでもない。

 心の中で聞こえる過去の友達の声と、風が凪ぐ音が、俺に周りに誰もいないことを叩きつけるようだ。


「みんないなくなっちまったな。あいつら今何やってるんだろ」


 無性に寂しくなった。


 夢を追いかけて東京に行った奴もいれば、早々に結婚して幸せそうな家庭を築いた奴もいた。海外で留学に行った奴もいたっけ。一緒に水切りをして遊んだ友達はみんな故郷を離れた。行った先々で跳ねているのだろう。残ったのは俺だけで、したいこともなければ、これといった夢もない。ただ何もなく過ごして、気づけばバイト生活。水の中だ。


「はぁ…俺何がしたかったんだろ」


 みんなはそれぞれベストストーンであったに違いない。たくさん跳ねて、ヒーローになる。

 それと比べて俺は丸っこい石。とても水切りには向かない。息苦しくて流れに揉まれる水中生活だ。


「丸い石ねぇ…」


 近くに落ちていた丸い石を拾い、大きく振りかぶり、思いっきり投げる。さっき投げた水切りよりもっと向こうの水面に飛沫を上げて落ちる。


「投げやすいな丸い石」


平べったい石より丸い石の方が遠くへ投げやすい。倍以上の距離飛んだ。


「丸い石も、遠投ならベストストーンですよーっと」


 何となく心のモヤモヤが軽くなった気がした。


「なんてな。ははは」


 バカバカしくて面白い。なんだかどうでもよくなってきた。

 自分は石一つで何を落ち込んで、更には励まされているのだろうか。

 少し暗くなってきた。カラスも見えなくなって、振り返るとオバサンも歩いていない。腹がグーっと鳴る。

 ふと、あることに気が付く。そういえば今日は好きな番組の三時間スペシャルの日だ。予告のCMだけでも面白かった。これは見逃せない。帰ってすぐ見れるように晩御飯も買ったんだった。


「やべ。始まっちゃうよ」


 すぐに振り向き、歩き出す。ビニールの音が歩調と合わせてなり、少し歩いたところでその音は止まる。


「お、完璧なベストストーンじゃん」


 しゃがんで手にしたのは、丸い石。誰かが削ったのではないかと思う程に綺麗だ。

 それをポケットに入れて、また歩き出した。

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