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第5話 精霊ユグド

 翌日、準備を済ませ悠里達に別れを告げて歩き出す。

 無理なく順調に南東に進んで行った。普通に進んでも数日はかかる距離だ。戦闘はできるだけ避けたかったけど、それでも1、2度は出くわしてしまう。でも1回に遭遇する数が少ない。


「グルルルッ」

「で、出た。1体だけなら……紡ちゃんは平気?」

「う、ん。頑張る」


 獣っぽい見た目の魔物だ。逃げることはできそう。

 だけど、この先逃げられない敵が現れるかもしれない。なら少しずつでも、この世界の現実に慣れるための挑戦として戦おうと思ったんだ。

 ターヴィスが落ち着いて的確なアドバイスをしてくれる。支援も上手い。


 でも今回の支援の主軸は紡ちゃんだった。

 教えられた通りに祈りを捧げている。日頃から熱心に練習してて、覚えもいいから簡単な魔法なら使えるようになってきていた。本当に凄いと思う。

 かくいうオレは、正直戦いながらとか無理だった。


「カオル、危ない。前!」

「わっ」


 魔法を使おうと集中するとつい瞼をつぶってしまう。

 その所為で魔物に狙う隙を与えてしまった。大体こんな感じで、教えてくれるから大事に至っていない感じだ。だから方法がなくて物理的に武器を振り回すしかない。

 まあ、前衛としては間違ってないと思うけど……。でも、やってみたいじゃん?


「異世界人の精神力スゲー。勇者ってマジやべーよ」


 戦いの後、本気で痛感する。魔法剣士とかとんでもなさ過ぎるだろ。

 だたカッコいいだけじゃなかった。難易度がハード過ぎて、とても真似できそうにない。


「本当の戦いって怖いね」

「うん、大変だよ。初めてゲームの主人公を尊敬する」


 意外と客観的に見てるだけじゃわからないんだな。

 サクサク進むって結構凄いことだったんだと感じる。ゲームをやっている時は、もっと別のことに感動したり尊敬したりしてたけど……。


「なんか、今更だけど……気持ち悪くなってきた」

「わたしも……」

「大丈夫、じゃないね。よし、無理せず休もう」

「ありがとう」


 オレ達は気遣ってくれるターヴィスにお礼を言って休憩した。

 結局、その日はろくに進めなかったのだ。順調とはいいつつ決して楽ではない道のり。おそらくターヴィスだけだったら、もっと早く目的に到着できていたと思う。

 戦闘訓練を重ねながらの道中はどうしても時間がかかる。異世界人の感覚で見れば特に。でも彼は全然文句を言わなかったし、急がせもしなかった。歩調を合わせてくれることに感謝しかない。



 それから数日、オレ達はようやくユグドの泉までたどり着く。

 目的の泉はすぐに見つかった。別に奥まった場所にあるとか、絶妙に隠されているとかは全然ない。本当に、旅先でちょろっと足を休めるのに最適な雰囲気の場所だ。


「じゃあ、早速読んでみるね」

「お願いします」

「頼むよ」


 ターヴィスが頷いてオカリナを取り出す。

 精霊を確実に呼び出す方法は幾つかあるみたい。今回は音楽を使うようだ。

 期待を籠め、静かに待つ中で、またあの心地よい音色が響き渡る。気持ちが晴れ晴れするような澄んだ音色だ。浄化されるってこんな感じなんだろうか。


 ――パァーンッ。


 なにやら神聖な音色が響き、一瞬眩く水面が光を放つ。

 目が眩んで思わず閉じてしまった。再び瞼を開けた時、目の前に見知らぬ女性が立っている。けどなんとなく下を見て、水の上に浮いているのがわかった。


 うん、人じゃないなコレは。きっと精霊・ユグドに違いない。

 外見はとても綺麗なヒトだった。全体的に緑色の印象が強い。例えるなら、ドライアドが多分一番近い。でも女神と言われればそっちかもと思う。


「は、初めまして。オレ馨って言います。精霊のユグドさんですか?」


 相手を怒らせないように慎重に、丁寧に声をかけた。

 めっちゃ緊張するよ。オレの言葉に女性が静かに頷いて応える。


(さて、こっからが問題だ。言葉は通じるみたいだけど……)


 はっきり言って相手の言葉がわかるのか不安だ。

 召喚特典と勝手に思っている翻訳機能が精霊相手に適用されるのか否か。それ以前に、言葉じゃない言葉を使って来たらどうしよう。

 たまにあるよな。精霊とかで、笛の音みたいな声で会話する種族。あっち系だったら……。


「ターヴィス、なんか音楽みたいな言葉だったら通訳よろしく」

「んん? 大丈夫だよ。彼女は形ある力強き精霊だから」

「それ、何か違うの?」

「ぜーんぜん。大違いさ」


 耳打ちするように会話していたオレ達をユグドがクスクスと笑う。

 口元に手を添えて笑う仕草がお嬢様っぽい。なーんて考えている内に、ちょっと恥ずかしくなった。ボケを言って滑った感じに近い。


「こほんっ、えーっと……聞いてもいいかな?」


 ユグドがまた静かに頷く。


「紋章の石について知ってることがあったら教えて欲しいです」

「馨君、それじゃ石自体の説明になっちゃう」

「あっ、違う! 場所、石の在処について聞きたいです!」


 精霊の彼女にまた笑われてしまった。相当にテンパっていたからだと思う。

 さっきよりも恥ずかしい思いでつい俯く。ああ、やっちゃったよ。内心はそんな気持ちでいっぱいだ。


『残念だけど、石の正確な位置を私は知らない』

「正確な位置は? ならざっくりはわかるんですか?」

『存在は感じます。どこかに必ずある筈』


 精霊の声というのはテレパシーに近い聞こえ方だった。

 確かに口から発せられている風なのに、頭の中に直接響いてくるみたいに感じる。


「じゃあ、賢者様は?」

『賢者……彼もまた、無事です。存在は常に移動している』

「あ、ごめんなさい。その賢者様は石の守護者の賢者様ですよね」

『ん? 賢者はこの世に一人だけです』


 オレも紡ちゃんも聞き方に注意を払う。下手な聞き方をすると誤解しそうだ。

 でも安心する。ちゃんと理解できる言葉で話してくれたことに。意味不明な意思疎通をしてきたらという不安は見事払拭される。

 そして大事なことが一つ判明した。彼女は確かに賢者を「彼」と呼んだのだ。


(賢者は男か)


 性別がわかり、どんな人かと想像する。けどまだ情報が足りない。


「賢者様ってどんな人だろう」

「気になるよね」

「僕も会ったことないからなぁ」

『古き種族、伝承ならば時の精霊か、彼の者に属する妖精に聞くと良いでしょう』


 ここで時間切れ。いや、この表現は正しいのだろうか。

 ただ、もう答えられることはないみたい。言い終えるとユグドは光の余韻を残して姿を消した。何事もなかったかのように静まり返る。



 精霊ユグドとの邂逅を終え、泉から少し離れた場所で野営の準備をした。

 食事を済ませてお茶を飲みながら寛ぐ。そうして焚火を囲いながら今日得た情報について話し合う。


「石の在処はわからなかったけど、賢者様については知れたね」

「うん。生きてるみたいでよかった」


 ほっと安堵の息を吐く紡ちゃん。優しいな。


「男の人みたいだね。でも……」

「最後の言葉、時の精霊に聞けばいいってこと?」

「だろうな」

「ねえターヴィス君はどこにいるか知ってる?」


 オレ達は頼みの綱であるターヴィスに視線を向ける。

 彼は「ん、ああ」とコップから口を離して話し始めた。何か知ってそうだ。


「僕もすべての精霊の居場所を知っている訳じゃない。でもね、時の精霊なら知ってるよ」

「有名なの?」

「それなりにかな。場所が場所だからね」

「どんな場所? 行けそう?」


 オレがそう聞くと彼の表情は暗くなった。もの凄く悪い予感がしてしまう。

 これはまさか。その予感はあっけなく当たった。時の精霊、名をクロノス。そいつがいる場所は妖精族の聖地、天霊島(てんれいじま)。でも、天霊島はもうない。


「残念だけど島に行くのは無理だよ」

「そんな、じゃあ……」


 紡ちゃんとターヴィス、二人の顔が曇る。

 想像通り、崩壊に呑まれてしまったのだ。ならば当然精霊も……。

 そう思った時、ふと気づく。まだ諦めるのは早い。オレは精霊の言葉を思い出して顔を上げた。


「待ってくれ。ユグドさんは聞けって言ったんだよ?」

「え、でもそれは……」

「ううん、ちょっと待って。もしかして――」


 ターヴィスも気づいた様子で考え始める。

 そうなんだ。ユグドは話を聞けと言った。更に彼女は先に賢者と石の存在を確定させている。ならば精霊クロノスが、今も存在しているのを知ってて言った可能性は十分高い。

 仲間達に自分の考えを伝えると納得したように頷いてくれた。


「よく考えたらおかしい。クロノスはこの世界の時に深い関りがある精霊。

あくまで推測だけど、もしクロノスに何かがあれば世界は時の停止、もしくは異常を起こしてた。時の精霊には同族の微精霊(びせいれい)がいないから」

「難しい話だね。つまり……」


 紡ちゃんが相槌を打つように問う。

 ターヴィスが諭すように指を立ててこう続ける。


「つまり、今時間がちゃんと流れてるのはクロノスが今も存在しているから」

「なるほど。筋が通ってる」

「うん。ならクロノスがどこにいるか探せばいいのね」

「そこが問題なんだよねぇ。僕は縁もゆかりもないから……あ、そうか!」

「今度は何!?」


 頭を抱えたかと思えば急に何かを閃いた彼に驚く。


「黒き妖精。確か天霊島の妖精族は黒と白が多いのが特徴的で……ああ、この前会った時に聞いておけばっ」


 説明しながら悔し気に声を上げる。

 黒い妖精。そういえば前に会ったと言ってたな。


「まあまあ、仕方ないよ。その時は知らなかったんだから」

「でも詳しいね。遠くの妖精の特徴まで知ってるんだ」

「天霊島のは特徴的だから。他じゃこうはいかないよ」


 いくら妖精族でもはっきり色で特徴づけるのは難しいようだ。

 どの村や里でも、特定の色で統一されることはない。行き来があり同じ所にいろいろな姿形の妖精族が入り乱れている。でも天霊島の所だけは綺麗に白と黒で殆どが占められていた。殆どというのは他所から来た者を含めた言い方だ。

 こうなると、以前会ったという黒い妖精のお兄さんを探す必要があるのか。


「探すもの増えちゃった」

「うん。見つかるか不安」


 はぁ、と深いため息を吐くようにオレは言った。

 旅をして早々、手がかりと一緒に探すべき物事が増えていく。これぞRPGって感じだけど世界にどれだけ時間が残っているかわからない。急がないと自分達も危ないんだ。

 冒険は楽しいけど、いつ終わりが来るかという不安がずっとある。オレは地面を見つめながら考えをめぐらせた。


「こういう時、情報屋や使い魔がいればなぁ」

「使い魔?」


 紡ちゃんが不思議そうに聞いてくる。


「うん。ほら、たくさんいれば人海戦術みたいなことできるかなって」


 よく転生作品とかで主人公がやっている感じヤツ。

 まあ、もっとズルい情報収集ができてしまうのもあるけど……。

 オレの返しに紡ちゃんは理解したようだけど、ターヴィスは少し困惑気味だった。でも眉根を寄せたのは一瞬で、すぐに自分なりの解釈を得て提案してくる。


「情報のお店は無理でも情報通な人達ならいるよ」

「ホント!?」

「うん。この国は人間族が多いけど少しくらいなら」

「てことは人とは別の種族なのね」


 ターヴィスは力強く頷いた。自信ありげだ。


神鳥(しんちょう)族と皮翼(ひよく)族と言ってね。天空の城と呼ばれる浮島に都がある種族なんだけど」


 うわぁ、まーたどこかで聞いたような名詞出たよ。

 そのうち天翔ける冒険者とか船団とか出てくるんじゃない?

 遠い目になるオレをターヴィスが心配そうに見つめる。はっ、しまった。つい脳内にいろいろな設定とか想像が過っては消え、話に全然集中できてなかったよ。


「ごめん。続けて」

「えっとね。彼らは性格は正反対なんだけど話好きと噂好きなんだ。だから精霊とは違った感心を持ってて、新しい情報を得られるかもしれない」


 どんな見た目かと聞けば、彼は丁寧に外見の説明をしてくれる。

 翼があって人の形してて、でも鳥の姿にもなれるらしい。どちらの姿も目立つくらいには綺麗という。聞いた感じだと、変身能力もちの天使と悪魔ってところかな。


(ますますファンタジー味が強くなったな)


 紡ちゃんが小声でぼそりと「天使」って言った。ちょっと嬉しそう。

 確かに天使って会ってみたいと思うよな。オレとしては悪魔のほうにも会ってみたいけど。なんかカッコよさそうだし。強そうとも思うけど、現実となった今では……戦闘にならないことを祈る!

 最悪の創造をしてぶんぶんと首を振ったのを見てターヴィスが――。


「また変な想像してるね」


 と、苦笑いしながら言った。バレたか。オレってわかりやすい?


「さあ、夜も更けて来たし休もうか。居場所については村で聞けばいい」

「そうだね。紡ちゃんも疲れただろ」

「うん」


 今日はお疲れさまと挨拶を交わして就寝準備に入る。

 いよいよ冒険も本腰を入れてきた感じだ。もっと情報を集めて人も石も探して行こう!



      ♦  ♦  ♦  ♦  ♦  ♦



 翌朝、泉を出発。また数日がかりで村まで戻った。

 今度は黒い妖精の男性と、神鳥族、皮翼族について目撃情報を聞いて歩く。

 問いかけの内容が変われば当然会話も変わる。今まで聞かなけなかった情報が開示されるこの感覚は尚更ゲームっぽい。フラグを着実に回収しているみたいだ。


「黒と白の鳥なら最近見たな。南のほうに飛んでったよ」

「おじさん、ホント?」

「ああ。2、3日前だから運が良ければまだ近くを飛んでるかもな」

「ありがとう。探してみるね」


 ターヴィスが丁寧に頭を下げるのでオレ達も倣った。


「鳥の話が当てになるのか?」

「うん。白と黒なら可能性大だよ」

「鳥に変身できる種族なんだっけ」

「そうそう」


 オレと紡ちゃんが交互に聞く。彼は両方にちゃんと応える。

 その後も少し話を聞いて回ったが、妖精族のほうは収穫がなかった。鳥については何人か同じように証言した人がいたけど。方角は皆一致している。なので南に出発だ。


 村から南に少し行くとまた別の山々がそびえ立つ。

 山脈は精霊使いの森の南側を西に長く横切り、広い谷間には薄暗い森が生い茂っていた。

 東から森に入って左手側も同様に長い山脈が連なる。更に森の途中から川が、左の山側から流れているみたいだった。川沿いに進めば、途中で山が途切れる場所があって別の村があるんだって。


「精霊使いの森より暗い」

「今は特にそうだね。闇の溜まり場になってたりしてて」

「なんか、怖いね」


 本当にこんな鬱蒼とした暗い森に天使がいるのか?


「カァ、カァ」

「うわ~この世界にもカラスはいるんだな」


 不気味な雰囲気が増して紡ちゃんが息を飲むのを感じる。

 お、オレは怖くないぞ。自分まで怖がってたら先に進めない。アレはただのカラスだ。

 しばらく無言で歩く。時々落ち着かなくて話をしたけど、次第に話す内容に困って自然と口が閉じてしまう。魔物は出ないが不気味さから怖いのは変わらない。気を紛らわすにも限界があった。


「そっちの生血はあ~まいぞ~。こっちの生血もあ~まいぞ♪」


 唐突に若くやや高い男の声が響く。


「いついつ出会う。箱の中に贄(きた)る。隣の老人、だ~れだ♪」

「キャッ」


 紡ちゃんが不気味に響き渡る声に震え上がる。

 オレは強く握り拳を作って虚空を見上げ睨みつけた。


「どっかで聞いたような歌を物騒にすんな!」

「ギャハハハハハッ」


 思いっきり叫んでやると嘲笑うような声が響く。

 完全に相手は悪ふざけをしている。全然懲りてねー。反省の色さえ感じらない。いったい、どこから聞こえているんだ。何度も辺りを見回す。

 でも暗すぎてよく見つからない。めっちゃ悔しいぞ。


「隠れてないで出てこいっ」

「出てこいだって。お前こそ、子供(ガキ)のくせにウロウロしてっと闇に引き込まれっぞ」


 また盛大に笑う男の声。むちゃくちゃイラつく。


「困った奴だなぁ。んーっと」


 ターヴィスが困ったように頭を掻き、ヒソヒソ話をするみたく口を動かす。

 何を言っているかはわからなかった。呪文かな。声らしいものは聞こえない。すると森の木々がざわめき、何かがチカチカと弾けたと思ったら一ヶ所から悲鳴が上がる。

 声がした方角に目を凝らすと、枝の上にしがみつく影が現れた。見辛いけどアレは――。


「蝙蝠だ! なんかアニメっぽい奴」


 マスコット風にデフォルメされた外見の蝙蝠が一羽いた。


「カオル、あれは皮翼族だよ。逆さ鳥の姿をしてるけどね」

「蝙蝠じゃないんだ……」


 そっと枝の上を確認しながら紡ちゃんが呟く。

 この世界じゃ蝙蝠って呼ばないんだな。逆さ鳥ってなんか間抜けそうで笑える。ぷっとオレが噴き出すと枝の上で体勢を立て直した蝙蝠が声を上げた。


「うるせっ。お前今マヌケとか思っただろ!」

「あ、バレた?」

「キーッ、むかつく。頭キタ。今に見てろよ」


 捨て台詞の如く言い放ち、奴は真っ暗な闇の中に飛び去っていく。

 その瞬間を見た時しまったと思う。ついやり返したが、アイツを見逃すと情報源がなくなる。でも同時にちょっぴり安心した。まだ親しみやすい感じの奴で嬉しい。


「怖いこと言ったのは許せないけど悪い奴じゃなさそう。紡ちゃんは平気?」

「うん。ビックリしたけど……」

「じゃ、二人とも追いかけるよ」

『うん』


 揃って同意し、飛び去った蝙蝠を追って駆け出す。

 奴は意外と素早く、体色も相まって見つけ辛かった。小さいから余計に面倒だ。


「それにしても厄介だな。皮翼族だけかぁ」

「何かマズいの?」

「悪戯好きで噂好きだからね。嘘で惑わしてもくるからさ」

「確かに厄介だな。もしかして神鳥族がいれば嘘を見破れる?」

「正解、だから一緒に見つけたいけど。白い鳥を」


 走りながら周囲に目を向けるが白い鳥なんていない。白なんて目立ちそうなのに。

 すべてを塗りつぶすほど暗い訳でもなく、ぼんやりと浮かび上がって幽霊に間違えそうだけど。残念ながらそれすらなかった。登場の仕方は考えて欲しいけど見つからないのは困る。


「白い鳥なんていないよ」

「やっぱり天使と悪魔だし仲悪いんじゃ」

「ううん。意外と仲がいいって聞くかな。……テンシとアクマって?」


 だいぶ走って息が上がってきた。体力も限界が近づき足が止まる。

 殆ど見失ったも同然で、暗闇の中から蝙蝠一羽を見つける目は持ち合わせていなかった。


「振り出しか。最悪」


 呼吸を整えながらぼやく。追いかけっこに負けるのは悔しい。

 しかし諦める訳にもいかず、少しずつ慎重に森の中を探して歩き回った。

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