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第4話 女騎士と謎の男

 そうしてオレ達は村を出発して北東の山を目指した。

 山の麓に来た時、ふと目に入る馬車。草を優雅に食べる白馬がいた。麓までの戦闘は全然ない。運というのもあるかもしれないけど、ターヴィスの勘というか索敵が鋭かったのだ。

 オレ達がいるからいつもより警戒心が上がっているのかも。おかげで魔物が増える山までは問題なかった。だけど一歩山道に踏み入るとそうもいかない。


「ウウゥッ」

「で、で出た!」

「ごめん。さすがに無理だった」

「ううん。大丈夫、怖くない。怖くない」

「紡ちゃんが自己暗示状態に。お、オレだってやれる、んだ、ぞ」

「完全に声が裏返ってるね。落ち着いて、僕がフォローする」


 ターヴィスがオカリナを取り出す。

 彼が音色を奏でると魔物動きが目に見えて鈍くなった。ゲームで言うところの弱体化だろうか。音色を介しているから本来は味方も受けそうだが今回は魔法石がある。これのおかげでなんともなかった。

 石を挟んでいる輪っか状の金具に描かれた模様。それが効力を上げているみたい。


「さ、今だよ」

「うん!」


 オレはナイフに力を込めて駆け出した。

 敵を眠らせたり、混乱させたりと多彩な援護をしてくれる。水と地の魔法もそれ単体でちゃんと使えるみたいで、植物と合わせ状況に応じて攻撃までしてくれた。

 こっちが1匹倒すの頃には数匹倒していて……。ナイフと魔法じゃ攻撃範囲が違い過ぎるけどさ。


「う……やっぱ気持ち悪い」

「わたしも……」


 思わず口を押えて座り込む。吐きはしなかったけど慣れるのは無理。

 少しの間塞ぎこむオレ達をターヴィスは根気よく励ましてくれた。介抱されて、どうにか回復したから歩みを進める。少しずつ山道を登り、怪しい所を見つけては覗き込んだ。

 真ん中辺りまで上った時だった。少し上のほうから人の声が聞こえてきたのは――。


「ようやく見つけましたよ。観念なさい!」

「待ってください。ラーニアさんっ」

「お姉さーん。カムバーック!」

「馨君、今の声って……」

「こんな偶然ってあるのか」

「なになに。知ってる声?」


 オレは無言で頷く。間違いなくあの2人だ。

 悠里なら宝の噂を聞きやってくるのは容易に想像できる。どうやら無事仲間を迎えられたようだけど、聞こえた言葉の感じから不穏な気配がした。

 友として心配になり、2人に頼んで探しに行こうと思う。


 足を滑らせないように注意を払いつつ急いで登る。

 近辺の魔物は誰かが倒したのか、飛び出してくることはなかった。願ったり叶ったりだ。

 憶測だが声の下辺りまで到達して周囲を見回す。さて、ここからどこに向かったのか。上に向かう道とは別に洞窟っぽい横穴が見える。


「どっちに行ったんだろう」

「誰かを追っている風だったからね。仮に女性の声が示す相手が盗賊として、目的と追っ手から逃げる時に行くとしたら……洞窟かな」

「ターヴィス冴えてる! 名推理だよ」

「別に大した推理じゃないって」


 そうは言うけど一番可能性のある道だ。

 なので迷わず洞窟へと進路をとった。少しだけ使えるようになった魔法でランタンに火をつけ、足元や周囲を照らしながら奥に進んで行く。点火も練習の内だ。

 ひんやりと空気は冷たく、静かで音が反響するので尚更に怖い。


「うぅ、ひっく……」

「なんか聞こえる」


 紡ちゃんが呟いた。確かに聞こえる。すすり泣く声が……。


(ここでホラーは勘弁してくれよ)


 ゴクリと生唾を飲み込んだ。幽霊とかいませんように!

 あれ、でも待てよ。この声ってもしかして――。

 恐る恐る声のする方向に足を向けて進むと人の姿が見えた。背丈からして子供で、よく照らして見ると1人で心細そうに泣いている誠人を見つけた。


「やっぱり誠人だ。どうした、悠里は? 一緒じゃないのか」

「あ……馨~助けて。悠里が、悠里がっ」


 こちらの姿を確認した誠人が勢いよく飛びついてくる。

 小さく振るえる身体を抱き留め、背中をさすって宥めながら話を聞く。かなり動揺していた彼だったが、落ち着いてくると順に説明し始めた。


「ラーニアさんが盗賊を追いかけて行って後を追ったんです。でも途中で悠里が声を上げて駆け出して行っちゃって……」

「うん。それで」

「それでぼくも追いかけようとしたんですが転んでしまって。気がついたら一人に」

「はぐれちゃったんだね。まったく置いてっちゃうなんて酷いなぁ」

「あ、あの。彼は?」


 困惑ぎみにターヴィスを見る誠人。初対面なので当然の反応だ。

 オレは精霊使いの森で知り合って仲間になった旨とともに紹介する。紹介され挨拶を交わす2人。手を軽く振って笑顔で接するターヴィスに、誠人は少し緊張した風にコクコクと頷いていた。

 そういえば、前から少し人見知りするほうだったな。でもきっと大丈夫だろう。


「ぎゃあぁぁぁぁっ!」

「今のっ」

「悠里です。きっと悠里ですよ」


 少年の声が奥から響き急いで向かう。もちろん誠人や紡ちゃんがちゃんとついて来ているのを確認しながらだ。その辺はターヴィスも気を遣ってくれている。

 一番前をオレ、最後尾をターヴィスが走った。こうすればはぐれる心配は少ない。


「来んならこい! ゆ、勇者が軽く蹴散らして――ひゃっ!?」

「あの奥だ。悠里っ」


 ヘタレ気味の売り文句を目安に駆けつける。

 うっすらと灯りが零れる奥に飛び込むと想像通りの展開が待っていた。

 足を震わせて短剣を構える悠里の姿と、根城に入り込んだ獲物を睨む主っぽい大蛇。

 おいおい、なんつーもんに喧嘩売ってんだよ。逃げろって。そんな文句が脳裏に浮かび全身を冷や汗が滴り落ちる。蛇に睨まれた蛙の気持ちがわかった。わかりたくもなかったけど。


「シャアァァァーッ」

「あ、ああぁぁぁっ」

「悠里!」


 しまった。一瞬怯んでいる間に先手を打たれてしまう。

 大きな口が悠里を飲み込もうと迫る。当然ながら獲物にされた彼は動けない。オレ自身も。

 今からじゃ間に合わない。友の絶体絶命に何もできなかった絶望感が、後悔が心中を満たす。そんな刹那だったか。意表を突くかの如く振り下ろされた雷の大剣。

 いや、大剣に見えたのはおそらく魔法だ。一撃で大蛇の脳天を貫く。


「――ッ」


 力を失って土煙と共に倒れ伏す大蛇。痙攣するように震えている。

 悠里は腰を抜かして尻餅をついていた。オレはどうにか足を前に進め、次の瞬間には弾けるように駆け寄る。傍まで行き顔を覗き込めば大口を開けていた。


「無事かい。少年」

「だ、誰!?」


 よっとと声を上げて上の穴から若い男が1人飛び下りる。

 軽やかに着地する男は無事を確認して「よしよし」と頷いた。一瞬カッコいいと思ったけど、気が抜けたようにだらけた顔になり怪訝に思う。見間違い、いや勘違いだったのかな。

 そして男が現れたことでようやく気づく。今いる場所は天井がかなり高い。蛇の通り道だったのか。穴がたくさん開いていた。


「さっきのはお兄さんが放ったんだよね。ありがとう」


 オレが率先して礼を告げると触発されたように他の皆も言う。

 助けてくれた男はゲームにいそうな盗賊風の恰好をしている。暗い色合いの服は暗殺者(アサシン)に見えなくもないが、鮮やかなオレンジのスカーフを頭に巻いていた。

 髪は青紫色でよく映える赤い瞳をしている。割と印象に残りやすい容姿だ。


「今の轟音はなんだったのでしょう。あーっ」

「はぁ、面倒な……」


 続いて穴の1つから鎧姿の人が顔を出す。それを見て男が溜息を零した。

 躊躇いなく鎧の人が飛び下りる。結構高さがあるのに怖くないのか?

 鎧の人は女性だった。ヘルムの下から三つ編みにした長い金髪が垂れている。体格の綺麗な美人だとなんとなく思えた。でも、なんだろう。凄く有りがちなビジュアルをしているな。

 次々と既視感のありまくる人達ばかりで頭が……。落ち着け、意図はない筈だと自分を宥める。


「むっ、子供が増えているだと。貴様どこから攫ってきた!」

「なんでそーなるかなぁ」


 悩まし気に額へ指をあてる男。呆れているような気も。


「見て明らかだ。我が剣をもって性根を叩き直しくれる」

「話を聞く気はないと。実に厄介なことで」

「何をごちゃごちゃと言っている。御託は抜きにして武器をとれ」

「ラーニアさん、落ち着いてください」

「何がどうなってるんだ」


 激しく熱意と闘志に燃える女騎士と、対照的に凄く冷めた反応をする盗賊。

 誠人は必死に止めようと声を張るがオレ達には意味がわからない。この2人に何か因縁でもあるのだろうか。とてもそんな風に見ないけど……。


「少年達、君達のお仲間が堅物過ぎて困るんだけど」

「すみません。真面目な人なんです」

「くっ、子供に文句まで言うとは――許さん」

「あのさ。さっきから随分乱暴な言葉吐いてるけど、騎士たる者言葉の乱れは心の乱れとか思わない訳?」

「貴方がそれを言いますか。望み通り騎士らしく貴方を改心させてみせます!」

「おぉ戻った、戻った。ついでに剣を収めてくれると有難いねぇ」


 男の声はずっと気が抜けた風で、態度にもやる気を感じられない。

 女騎士は見るからに憤慨していた。潔癖とか、正義の言葉がよく似合いそうな雰囲気だ。しかし彼女の言い分は少し強引過ぎるように感じる。

 どうにか逃げる隙を探しているっぽい男に、女騎士は我慢ならず斬りかかった。でも軽く躱されてしまう。盗賊なだけあって身軽みたいだ。


「逃げるとは卑怯ですよ!」

「いやいや逃げるでしょ、普通。頭に血昇り過ぎて思考止まってない?」


 支離滅裂になってきた女騎士の言動を、盗賊が注意するというおかしな状況になっていた。

 なにこれ、何が起きているの。大捕物っぽいシチュエーションなのに逆な感じがするぞ。この場合ってオチはどうなるんだろう。着地点はあるのか。


(――って、オレまで何考えてんだ)


 今はリアル、リアルだと自分に念押しして再び両者を見る。

 まだ問答は続いていた。時々振りかかる刃を盗賊が軽やかに避けている。どうにか逃げようとするのだが、妙なところで勘が鋭い女騎士に先回りされてしまう。

 しかし男の言う通り女騎士は頭に血が上っていた。その証拠に何度目かの剣戟が反れて誠人に向かう。誠人も止めようと前に出ていたのかもしれない。


「――ッ!?」


 女騎士と誠人が同時に目を見開く。

 寸止めできる段階じゃなかったんだろう。振り下ろされる刃は止まらない。


 ――キンッ、と次の瞬間金属のぶつかる音が響く。

 ひらりと舞うマント。両者の間に割って入った者がいた。

 例の盗賊だ。さっきまでとは打って変わり、僅かに振り返った顔は真剣そのものだった。


「……騎士さんや。さすがにこれはマズいでしょ」

「あ……すみません。自制が効かなかった」


 すっと誠人やオレ達に頭を下げる。

 男は刃を受け止めた短剣を腰の鞘に納めた。


「若い内は勢いに乗るのもいい。けどこの子達は世界救済のために呼ばれ、うち二人は正式な護衛対象な訳でしょ」

「くっ、確かにそうですけど」

「なのにこんな危険な場所に連れてきて。俺を追いかけ一人先行するわ、目の前で人相手に斬りかかるわで落ち着きがないにもほどがある」


 人の話は聞かないしと追加で小言を貰う。


「うぐっ……言い返せない」

「少年達も好奇心は結構だが限度を考えて。噂に踊らされて死にたくないだろ?」

「ご、ごめんなさい」


 ついでとばかりに叱られ口を揃えて謝罪する。

 盗賊にまともな注意を受けるなんて奇妙な体験をした。

 ん、いや、そもそも彼は本当に盗賊なんだろうか。つい思い込んでいたけど確認してない。


「あのぅ、お兄さんって何をしに来たんですか?」


 思い切って聞いてみる。怒られたばかりで凄く緊張した。


「あーそれね。まあ、ちょいと宝を……」

「やはり盗賊ではないですか!」

「はい、話は最後まで聞く。頼まれたんだよ。知り合いの魔法使いに」


 俺から見ても男の眼は泳いでいた。顔まで反れている。

 カッコいいと思えた直後にだらしない感じになるのは癖なのか?

 この要領を得ない、はっきりしない態度が疑われる原因なんじゃと思う。けど男が態度を改める様子はなく、バツが悪そうな雰囲気で話を続けた。


「少し前に曰くつきの品がこの辺りに隠されてしまってね。探しに来たんだよ」

「曰くつきですって? その魔法使いとは誰のことです」

「それは教えられない。こっちも依頼だからさ」

「その曰くつきの品は手に入ったんですか?」


 今度は紡ちゃんが恐る恐る問いかける。


「まあね。騎士さんを撒いてる間にちょちょいっと」

「気がつきませんでした。いつの間にそんな……」

「騎士さんは猪突猛進だったからな」

「――ッ! そんなことありません!!」

「あらそう。まあ、そういうことにしとくか。じゃあ俺はこれで」


 必要なことは話したという風に男は歩き出す。

 その後ろ姿に女騎士が「本当に盗みは働いてないでしょうね」と叫ぶ。

 すると彼は歩いながら軽く手を振り「さぁね」と適当な答えを返す。肯定も否定もしていない返答をされ、更に問いただそうとするが既に男は姿を消してしまっていた。


「むむ、正義を貫くというのはなんと難しいのでしょう」

「というか騎士さんは二人の護衛を依頼されたの?」

「ん? ええ。彼らの熱意に折れた形ではありましたが確かに……」


 そこまで話して女騎士はふと首を傾げる。


「先程の男はなぜ自分の護衛任務のことを知って?」

「謎が多い感じの人だったねぇ」


 ターヴィスと女騎士の会話を聞きながら同じことを思う。

 言われてみれば、何者なのか謎に感じる人物だ。いろいろ知ってそうなのも気になった。


「さて、任務の話はさておき自己紹介がまだでしたね。自分は王国騎士第二師団所属、ラーニア・シンホルと申します」


 凛々しく敬礼する彼女にこっちも自己紹介をする。

 幸い顔はヘルム顔が隠れない造りで表情がよく見えた。瞳は青い。


「君は妖精族ですね。よろしければこの子達を占って貰えますか」

「もちろんいいよ。じゃあ、ここより安全な所まで移動して……」

「でしたら麓の馬車に戻ってからどうです?」

「うーん。まあ、騎士さんが一緒なら大丈夫かな」


 思案したターヴィスがこっちにも確認してくる。

 返答はもちろんオッケーだ。反対する理由が全然ないからな。

 話がまとまったのでオレ達は一緒に山を下った。麓で見覚えのある白馬と馬車の所まで戻り、この日はここで野宿をすることする。ターニアさんにご馳走して貰った。


「とっても美味しいです。お母さんの料理みたいで……」


 紡ちゃんが俯いてしまう。オレも寂しくなってきた。

 でも、ここは我慢だ。今はやることがある。


「大丈夫だよ。絶対に帰れるって」

「そうです。元気を出しましょう」

「おう。この俺がさくっと勇者になって解決してやるからよ!」

「……うん。皆ありがとう」


 潤んだ目に溢れそうになっていた涙を拭って彼女は顔を上げた。


「にしても、よく王国の騎士を仲間にできたね」

「本当に悠里の行動力には感心します。綺麗なお姉さーんって口説きに行って」

「へーん、凄いだろ。どうよ俺の勧誘テクは」


 なにせ勇者になる男だからな、と悠里は恥ずかしげもなく言う。

 年上相手に物怖じしないで行けるって凄いなと思った。彼らしいけど。というより相手が美人のお姉さんだったからの可能性もあったりするのか?


 食後、一息をついてから悠里と誠人の元素相性を占う。

 準備を済ませ順に占った。その結果、悠里は水と太陽。石の色は模様のように青と黄金色が複雑に入り混じっている。誠人は風で石は緑色だ。


「おっしゃ! 俺、複数属性持ちじゃん」

「へぇ、別に妖精だからとか関係ないんだな」

「風……どんなことができるんでしょう」


 ちなみにラーニアさんは地の元素を操れるらしい。

 もちろん占いしたんじゃなくて聞いてみただけだ。共闘する時のために知っておきたくて。


「せっかくだし情報交換しない?」

「いいですね。……といっても大したことはわかってないんですけど」

「まだ序盤も序盤だからなぁ。でもリアルでこういうやりとり、マジで冒険って感じしてきたぜ」


 意気揚々とオレ達は互いに得た情報を話し合う。

 現状の行動範囲から仕方ないが、やっぱり知っている内容は殆ど変わらなかった。

 でも向こうには騎士のラーニアさんがいるし、こっちにもターヴィスがいる。二人から改めて気になったを聞いてみることにした。村で得た情報をもとに。


「ラーニアさん、賢者ってどんな人か知ってますか?」

「ふむ、賢者様ですか。有名な方ですよ。しかし我々が知る限りでも謎の多い方ですね」

「そうなの?」


 ラーニアさんはしっかりと頷く。


「はい。とても長命な種の生まれで、数多の魔法を操る才をお持ちだとか」

「やっぱ賢者といえば魔法の天才だよな」

「ターヴィス君はどう?」


 誠人がターヴィスにも賢者について意見を求める。

 問われた本人は少し考える素振りを見せて口を開いた。


「概ね聞く限りだよ。虹色の瞳をしているって噂も確かにあるね」

「賢者って男? それとも女? 俺としては爺さんより綺麗なお姉さんがいいんだけど」

「希望を言ってなぁ。でも性別は知られてないの?」

「うーん、なんとも言えません。様々な姿をお持ちだという話までありますから」

「うわっ、難儀しそうな雰囲気ビンビンだね」


 オレは率直な感想を言いながら想像してみる。

 いろいろな姿を持っている虹色の瞳を持つ人。いや、長命な種族ってことだから人じゃない可能性もあるのかな。その辺を聞いてみるけど2人は知らないようだ。


「なら住んでいる場所は? ここから近い?」

「残念ながら正確な位置は……山々が連なる地にいるとだけ」

「僕が旅先で聞いた話だとウィンダム山卿のどこかにあるって。けどあの辺りは国境の向こう側だから」

「崩壊しちゃってるってこと?」

「うん。多分ね」


 ガックリと肩を落とすオレ達を見てターヴィスは明るく言った。

 住処は無くなってても生きている可能性はある、と。確かにその通りだ。

 今もどこかを放浪しているか。すぐには崩壊しない場所に住処を移していれば嬉しい。

 なので、ひとまず賢者の話は保留にして紋章の石に話を移す。まだ情報を得られそうな場所はないだろうか。このことも含めて意見を交わした。


「他に残ってる村や町はないかな」

「できれば近場だといいですね」

「近場か。ならば、ここから北西に行ったところに集落があります。山越えになりますが……」

「近くて山越えか。冒険って感じはすっけど疲れそう」

「悠里はすぐ集中力を切らすんだから」

「でもちょっと待って。確か南東にユグドの泉があった筈」

「ユグドの泉に人がいるの?」

「泉に人はいないよ。いるのはユグドっていう精霊」


 自信たっぷりに言うが情報を得られる場所なんだろうか?

 この世界の常識を知らないオレ達は怪訝な顔を浮かべた。想定していた反応だったらしい。すぐにラーニアさんが補足情報を入れてくれる。


「ユグドは恵みを与えると言われる精霊。ですが長く世界を見守ってきた存在ですから、何か知っていても不思議ではありません」

「じゃあ紋章の石について有力な情報を持ってるかも」

「それに賢者様のことも……」

「うん。行ってみる価値はあるよね」

「なら方向も違いますし二手に分かれましょう」

「また別行動か。いいじゃん」


 誠人の意見に悠里を始め皆が賛同した。急ぐならそのほうがいい。

 どちらに行くかの相談もして、オレ達はユグドの泉に行くことになる。精霊相手なら妖精の手助けがあったほうがいいというのが理由だ。

 方針が決まり、とりあえず今日は休むことにするのだった。



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