第10話 希望をもって・前編
紡ちゃんを先に休ませ、ターヴィスと二人待っているとノーチェさんが戻ってきた。
強いし特別心配はしていなかったけど安堵はしている。ちょうどこの時、どこからか「ギャヒヒァーン」と馬の嘶きにも似て恐竜のようでもある鳴き声が空から轟く。
声は遠かったけど、せっかく眠っていた紡ちゃんまで目を覚まして顔を出す。
「なんの声!?」
「獣が出たのっ」
「違う。アレ」
ターヴィスが示す先、上空に存在感を放つ影が飛んでいた。
辛うじてだけど輪郭が見える。龍、のような馬のような、変なシルエットの動物だ。周囲を雲のようなものが漂っているようにも見えた。なんていう生き物なんだろう、アレ。
「……天翔ける蹄で雲海を渡りし紫幻の龍」
「なんですか、それ」
詩のような言葉を告げたノーチェさんに紡ちゃんが問う。
同じく空を見上げていた瞳がすっとこちらを向き、彼は静かにこう続ける。
「神獣の、賢者様にまつわる伝承だ。精霊クロノスの神殿に残された一節で……」
「つまり賢者様の本性ってことだね」
「おそらくは」
「じゃあ、さっきのは賢者様? 追いかけなくてよかったの?」
「あの距離だと私の羽根でも間に合わない。それに……」
そこで彼は口を閉ざした。どうしたのだろう。
次の瞬間には「なんでもない」と告げ、飛び去った影も消えたので休もうと促す。もちろん家を見張る係は必要だし交代制にして。まだ何かを考えている様子だったけど、オレ達は年長者の言葉に従うことにして就寝した。
翌日、目が覚めて準備を整えている最中のことだ。
結局あれから家には誰も帰って来なかった。交代で見張っていたから間違いない。それに昨晩空を飛んでいた龍らしき生物。アレが賢者だとすれば、状況的に考えてここにはいないだろう。
飛んで行った方角を正確に覚えてはいない。だけど遠くへ行ったのは確かだ。
そして目的の人物がいないと知れば長居は無用。てなわけで、オレ達は出発を決断する。
「急な話で申し訳ないが、もう少し君達と共に行ってもいいだろうか」
「えっ、一緒に来てくれるんですか」
「ああ」
「やった。オレは賛成だけど二人はどう?」
同行の延長を求められつい嬉しくなってしまった。
問答無用で顔が緩み、我ながらわかりやすい反応をしていたと思う。振り返ってみる二人の顔もまた似たような感じだった。
遠慮がちに笑みを浮かべる紡ちゃん。嬉しそうな雰囲気を出すターヴィス。
「わたしはいいよ。心強いし」
「僕も異論はないかな」
「うん。ノーチェさん、これからもよろしく」
「こちらこそ、よろしくな」
どのくらいの期間かは教えてくれない。
もしかしたらまだ決めかねているのかも。何か思うところがあったとか?
何はともあれ、頼もしい助っ人が仲間に加わったことを喜ばしく思った。弾む心と興奮が収まらぬままにオレ達は出発する。
バオブーの森自体が広いとはいえ、道中は少し足を緩めて移動した。
なぜって? いろいろあるけど一番の理由は修行だ。強敵戦では足手まといだったからな。
今まではなかなか難しかったけど、新たな仲間の加入で一気に修行の幅が広がった。というのもノーチェさんが剣術と月の元素を扱えるからだ。オレと紡ちゃん、どちらにも対応可能な先生になる。
「脇が甘い。もっと視野を広く」
「はい!」
「力任せに来るな。頭を使え」
「はいっ」
適切な指摘を受けながら鍛錬に励む。無茶は言わないが結構厳しい。
さすが実戦で鍛えてきたっぽい剣士は違う。基礎鍛錬をしつつ応用編も少しずつ習った。特に魔法を併用しての戦い方は覚える必要があると感じている。
一方で紡ちゃんも、月の元素を扱う魔法を指導して貰っているようだった。
ターヴィスでは扱う元素が違うし限界がある。違う先生からも教わる点がいいのかもしれない。実際に扱う人の意見は大事だ。
オレは作業の片手間にちょっと聞き耳を立ててみた。なんか聖域結界とか聞こえるぞ。凄そう。ターヴィスとも何かやってたな。まあ、出来事はざっとこんな感じだ。
仲間内で相談した結果、進路を北に向ける。
なぜならバオブーの森から更に西はもう存在しないからだ。
ノーチェさんの話では、闇の浸食が激しく危険だから迂回するべきだと提案された。今ではもう人が通わない土地なのだと。でも逆に考えると宝の在処としてはうってつけだと思う。
あらゆる作品では、危険な場所にほど貴重な宝があるものだ。オレは意見を伝えて同意を得る。
「確かに伝説の宝とかそんな感じだよね」
「だろ?」
「しかし危険なことに変わりない。どうしてもと言うなら止めないが注意は怠るな」
「そ、そんなに危険なんだ。でも……」
ターヴィスは見るからにワクワクしていた。
渋々受け入れる姿勢を見せるノーチェさん。なんか剣へ手をやって握り具合に力が入っているような……。紡ちゃんは震えている。
「紡ちゃん、ごめん。でも危険だからって避けてたら見つからないと思うんだ」
「わかってる。怖い、けど帰るためだもん」
「ありがとう」
「ううん。馨君が一緒なら平気。大丈夫」
「ヒュ~王子様だね。やるじゃない」
「バカ。からかうなよ、照れるだろ!」
実際、オレは照れてしまった。カァー熱いぜ。
子供通しのやり取りをノーチェさんは静かに見ている。どう思っているんだろ?
なにはともあれ、オレ達は歩き出した。
再び森の中を進み、途中の橋を渡って、異なる木々が生い茂る森に突入。
橋を渡った瞬間から異様な雰囲気が肌から伝わってくる。奥に踏み込むごとに恐ろしさが増した。皮を隔てただけなのにこうも変わるなんて……。
「すご……魔の森って感じ」
「魔? 僕的には暗黒の森って感じかな」
「どっちでも怖い。この黒い靄みたいなのって……」
「迂闊に近づかないほうがいい。吞み込まれるぞ」
至る所から溢れ漂う黒い霧のような、靄のような煙。
忠告されて紡ちゃんが後退るのを尻目に見ながら周囲を観察した。あまりいい感じはしないな。
木々は黒っぽく見えるし、いかにも毒がありそうな沼や水溜まり。もとからこうなのか、変貌してコレなのか。とにかく平和な時の景色が想像もつかないよ。
「なんか霧が濃くなってきたね」
「言われてみれば」
ターヴィスの指摘にオレは周囲を見回す。
確かに霧が濃くなってきた。どんどん視界が白くなっていく。
「何も見えなくなっちゃう」
「皆、気をつけろ。ただの霧ではない」
「ノーチェさん、氷使いなら風の魔法使えるよね?」
「生憎使えない。氷は月の元素を応用し――」
「あれ、あれれ……」
霧で互いの姿すら見えない状況で声だけが聞こえる。
でも途中で不自然に途切れ、気配まで消えたように感じた。まさか本当に消えたの?
「皆どこ? ちゃんといる?」
ふっと背後に何かを感じる。これも気配と言えるのか。
もしかしら知らぬ間に追い抜いていたのかも。そんな予想を立てて声をかけるが返答はない。誰の名前を呼んでも反応しなかった。
身体の奥底から言葉にならない激情が沸き上がる。そして次の瞬間、オレの意識は暗闇に呑まれた。
♦ ♦ ♦ ♦ ♦ ♦
怖くて動けないまま霧が晴れ、わたしはいつの間にか一人になっていました。
途中で声が途切れたのは間違いじゃなかったのです。周囲を見回しても見つけられず、自分がはぐれたのだとすぐに気づきました。
(皆、先に言っちゃったの?)
ううん、そんな筈ない。姿が見えないくらい離れるなんてことは……。
独りぼっちになった不安に抗いながら慎重に足を進めます。怖い。でも皆のことも心配。大丈夫なのかな。絶対に何かがあった筈だもの。あれこれと考えながら歩き続けました。
「馨君、ターヴィス君、ノーチェさん。皆どこですか」
いつもだったら大声を出すなんて恥ずかしい。
でも非常事態だと意外に声は出せるもので、時々呼びかけながら周囲を探します。心の中で怖くない、大丈夫だと自分に言い聞かせながら。
数分、数時間、どのくらい時間が経ったんだろう?
結構歩いた気がするけど誰にも出くわさない。もちろん魔物だったら絶対に嫌。万が一、このまま誰にも会えずに遭遇したら――。
わたしは最悪の想像をしてしまうのを全力で否定して先に進みました。
「こっ……来……で。……だってやる時…………だから、戦える…………ね!」
「なに、人の声?」
突如響いた声。聞き取り辛いけど人の、たぶん子供だと思う。
(でも、もし人じゃなかったら……。ううん、馨君達かもしれないし)
行かなきゃ、と思ったの。もし襲われて居たら――。
わたしは意を決して、深呼吸してから張り出しました。気持ちと一緒に前へ!
数十秒くらい走ると前方に何かが見えてきました。
あの後ろ姿、子供かな。うん、あれは――。間違いないと確信して足を速めます。
「真佑ちゃん、瑠海那ちゃん!」
それはよく一緒に遊んでいる友達でした。謁見の間で別れたきりの。
また会えたことを嬉しく思いつつ、危機的状況なのを感じて焦る気持ちでいっぱい。ゾンビっぽい狼と竹林にいたスケルトンに襲われているみたい。
急がないと二人がやられちゃう。ダメ、そんなの絶対ダメ!
「こ、怖くなんかないんだからね。本気でぶつわよ!」
「――っ、紡ちゃん来ちゃダメ」
虚勢を張っているのは瑠海那ちゃん。ハーフで栗色の髪と深い青の瞳が可愛い子です。
一方でわたしに気づいて注意してくれたのは真佑ちゃん。読書家で大人っぽいしっかり者。こんな怖い状況なのに冷静に対処しているのが凄い。なにより、わたしを心配してくれてて……。
絶対助けなきゃ。駆けつけて杖を構えながら考えました。どうしよう。
(考えてみたら攻撃の手段が殆どない……)
月の魔法は支援専門。武器に纏わせて殴れば効果ありかもって聞いたけど、子供のわたしじゃ大した威力にはならなそう。
「グルルッ」
わたしは思わず息を飲んでしまいました。怖い。とっても。
でも負けちゃダメ。そう自分に言い聞かせながら、全身全霊で祈りを捧げます。堅いイメージ、亀の甲羅のような……。透明なイメージも忘れない。例えるならガラス。
「キャンッ」
狼が怯える犬を彷彿させる動きで飛び退く。
どうにか間に合ったと安堵します。聖域結界、バリアって言うのかな。
全方位を守護できるから防衛には最適で、生き残るために覚えておいたほうがいいって教えて貰った魔法。教わったばかりで不安だったけど……。
大切なのは守りたい気持ち。維持するにも気持ちを強く持たないと。
大丈夫、できるって自分自身に言い聞かせながら敵を睨みつけました。負けないぞって。なぜなら後ろに守りたい人、友達がいるから。
シュウシュウと煙を出して呻く狼。さっきぶつかった奴だと思う。
(これってもしかして……)
更に意識を集中させて結界の範囲を広げてみます。
力み過ぎて辛いけど、魔物は嫌がる素振りを見せて触れた個所が焼けているみたいに蒸発しました。やっぱり効果があるんだ。前にターヴィス君が言っていたのを思い出します。
「なるほど、そういうことなのね」
「真佑、何? 何かわかったの」
後ろで二人が話すのが聞こえました。
正直内容を理解する余裕はありません。聞こえていても頭に入ってこない。
「紡ちゃん、無理しなくていいわ。ソレ解いていいの」
「でもっ」
「落ち着いて。耳、貸してくれる?」
真佑ちゃんが隣まで来て言いました。近くに瑠海那ちゃんも来ていて、まだ結界は拡大する前に戻して維持したまま耳を傾けます。
「貴方の魔法の光は月よね。なら付与の要領で瑠海那の魔法に力を籠めて」
「瑠海那ちゃんの魔法に?」
「そう。この子の魔法は水なの。大きい水の玉を作れるから」
わたしは瑠海那ちゃんのほうに視線を向けました。
すると彼女は自信たっぷりに胸を張ってこう言います。
「うん。めっちゃ強いんだから」
「力任せだけどね」
「圧倒的な物量って言って欲しいわ」
「水量と言ったほうが正しいと思うけど……」
それはさておき、お願いと真佑ちゃんが言います。
確かに攻撃力なら他の皆のほうがありそう。でも、今結界を解いたら――。
「大丈夫。バリアの消滅と同時に、アタシが砂の防壁で敵の足を妨害するから」
時間稼ぎにはなると思うの、と彼女はつけ加えました。
「そんなことできるの?」
「ええ。任せて」
「こう見えて真佑の魔法は確実性抜群よ」
とても信頼しているのが見て取れます。やっぱり真佑ちゃんは頼りになるのね。
わたしもまた信じて立ち向かうことに決めました。せーので呼吸を合わせ、結界を解き、即座に砂が嵐の如く巻き起こります。
その間に瑠海那ちゃんが水の魔法で特大の玉を作り出しました。
彼女の魔法に支援する時の要領で月の元素を籠めて――水がみるみると氷に!
「水が……氷に、なった!?」
互いに驚き、これならいけると力いっぱい叫ぶ。
「いっけぇーーっ!!」
「ガッ……」
辺り一帯を埋め尽くすくらいの氷が敵を襲いました。
飛んで行く速度は遅かったけど、進むごとに冷気が周囲へ広がって凍らせて。結局魔物は足をとられたまま、全部まとめて蒸発していきました。これが浄化されたってことなのかな。
「聖なる氷の一撃ね」
「ふっふん♪ ルナ達の大勝利。……でも超怖かったぁ」
元気いっぱいに勝鬨を上げましたが、すぐに震えが全身に回ったみたい。
次の瞬間には泣き出して真佑ちゃんに頭を撫でられてました。わたしの肩もぽんぽんと優しく叩いて労を労ってくれます。でも彼女だって十分過ぎるくらいに頑張ったよ。
「二人とも無事でよかった」
「当然じゃない。ルナと真佑のゴールデンコンビよ」
「正確にはもう一頭いるけど」
「もう一頭?」
思わず首を傾げます。一人、じゃなく一頭って……。
「そう、見た感じ狼。少し大きいけど大人しいわ」
「名前はルシファーよ。ルナが名づけたの!」
「悪役っぽい名前だね」
「どうかとは思ったけど呼び方に困ったし。妥協ってことで」
二人から仲間の狼の話を聞きながら先を急ぎました。
まだ馨君達が見つかっていません。互いの事情を話します。狼の特徴ももちろん聞きました。
全身の毛並みは基本的に白いみたい。そこに青い夜模様が描かれているんだって。足に金の足輪をしているとも言っていました。
わたしも一緒にいるターヴィス君やノーチェさんの容姿を伝えます。
意外にも二人はノーチェさんのことを知っていました。占いをして貰ったみたい。思っていたよりも、彼はいろいろな人と会っていたようです。
「二人もいろんな人に会ったんだね。賢者様には会った?」
そう最後は遠慮がちに尋ねました。
二人は首を傾げ、わたしが集めた情報を伝えると首を振ります。
「ごめんね。それっぽいヒトには会ってないわ」
「ルナも知らなーい」
いつもの調子で会話していると自然に落ち着く。ここが危険な場所だと知りながら……。
周囲に注意を払いながら話して、真佑ちゃんが図鑑を手にいろいろ調べて来たのを聞き驚きます。
瑠海那ちゃんがおかげで食られる物とかがわかった、て。だから文字が読めるのって本人に問うと「違う」と言われました。説明された内容は読書家の彼女にしかできない方法だったの。本当に凄い。
正直にいうと段々楽しくなっていたの。不思議と緊張が緩んで。
でも次第にまた霧が立ち込めてきて、わたしは自分の愚かさに胸が苦しくなりました。
まだ事件が解決しないことを一瞬でも忘れるなんて……。自分がこんなに薄情だったのかと内心でショックを受けていました。
「気をつけて。これで皆消えちゃったの!」
「この霧、普通じゃないわね」
「なにコレ。なーんも見えない」
きゃあっ、と瑠海那ちゃんの短い悲鳴が聞こえて。
どうしたのって声をかけるけど返事がありません。次いで真佑ちゃんのほうも――。
(また、一人になっちゃった)
思わず涙が溢れてきます。急にまた心細くなりました。
でも霧が晴れると今度はまったく知らない別の場所にいたんです。
ここはどこ、どこなのって心の中で呟きました。思わずだったと思う。一人で、頼れるものは何もなくて……。怖くて仕方がなかったです。
(わたし、神隠しにでもあっちゃったのかな?)
頭の中を怖い想像ばかりが過って仕方ありません。
気がつくと知らない場所に立っているなんて怖すぎるよ。誰か助けて。
「お母さん、お父さん……」
つい堪らなくなって蹲り膝を抱えます。涙が止まらない。
どのくらいそうしてたんだろう。とにかく、たくさん泣いて時間が過ぎました。
涙が枯れるくらい泣いたせいか、もう顔を伝う雫は止まってて。けどすぐには立ち上がれませんでした。どうしようってずっと考えて、怖いって身体が震えて。唇を噛んで堪えようと……。
――紡ちゃん、行こう!
ふと頭の中に馨君の声と顔が浮かびます。
ぱっと目の前が開かれるような眩しい感覚を覚えました。
不思議と身体が軽くなって、すっと何事もなく立ち上がって――。
「行かなきゃ」
諦めちゃダメだよね、馨君。
一瞬だけ近くで光が瞬いたような感じがしました。
でも見回しても何もなくて、気のせいだと思いゆっくり歩き出します。
(絶対、見つけるから)
今度は私が馨君を皆を見つけて助けるんだ!
一歩一歩確かめるように進んで、気持ちが折れないよう頭の中に大切な人達を思い浮かべます。
前に、前に、前に。ひたすら前へ歩いて、変化を見逃さないよう周囲を見て行きました。杖を握る手に力が籠ります。大丈夫、絶対に大丈夫と自分に言い聞かせて。
「魔物は……いないよね」
一人じゃ満足に戦えない。絶対に不利だからよく確認して進まないと。
攻撃は得意じゃないの。ノーチェさんも一番に教えてくれたのは防御の魔法でした。わたしの性格をわかっていたのかもしれません。
だから戦いになったら。ううん、まずは戦わずに進む努力をしないとだよね。
(どんなに強い人でも、いっぺんに襲われたり連戦になったら勝てないもん)
わたしはそれよりもずっと弱いのだから注意しないとダメ。
今の目的はあくまで仲間の救出。見つけること。敵と戦うことじゃないから。こうして心構えをしながら足を前に進めていきました。何か考えてないと止まってしまいそうで。
「あれはっ」
ずっと森の中を進んでいたけど、前方に遠く建物みたいなのを見つけました。
人が作ったであろう建造物を見てつい嬉しくなり駆け出します。誰かいるかも。期待を籠めて扉前まで行き、ふと気づいてしまいました。
「待って。この屋敷、本当に人が住んでいるの?」
そもそも味方なのかな。かなり古いけどお化け屋敷なんてことは……。
第一に敵の居城って可能性もあるよねって思い至ります。扉に向けていた手を引っ込めて一歩後退りました。でも逃げたりしません。
(この場合、裏口からだよね)
ごめんなさい。お行儀が悪いけど裏から行かせて貰います。
そんな風に空想の家主に謝罪して外周を回り込みました。うっかり鉢合わせしないよう慎重に。警戒心をもって裏口を探し当てて中にそろーりと突入します。
道中はずっと確認でした。右を見て左を見て、また右を見るように念入りの注意をします。
建物の中は外側と同様に西洋風。だけど何か堅苦しさを感じます。
重厚な造りとと言えばいいのでしょうか。でもそれだけじゃない。違和感みたいなものを感じました。一番に思うのは窓のなさ。外側からはあったように思う。
けれど、いざ中に入ったら迷いそうなくらいに通った通路ばかり。窓がなくて灯りだけでは薄暗い。
(こんな感じの迷宮、どこかで……)
どこでだろう。あ、そうだ。前に見た動画で見たんだと思い出します。
(でも、確かあれってホラーだったような)
まさか、まさかまさか。そんなことないよね?
動画のアレは創作物だから現実にはない物で……。そうは思いつつ、この世界にはゾンビやスケルトンがいたことを考え背筋に悪寒が走ります。
慎重に歩き進める最中、何度も通路が分岐している地点に遭遇しました。部屋も当然あったけど本当に迷いそうな造りで――。




