その日たるや、何もなく
「あなたが、悪いのよ」
リナ・エバンスさまが、いきなり、そう話した。
いきなりの言葉に、小首を、かしげて、キョトンとするしかなかった。
この、ご令嬢様は、一体、何を言っているんだ。
「あなたの、せいで、今朝、バール様に、挨拶されたじゃない」
もう、何が何だか、もう、わけが解らないよ。
「おはようて、とても嬉しそうに、挨拶してくださったのよ。どういうことなの」
意味が、・・・意味が解らないよ。
「どうしてくれるのよ」
リナ様、泣きそうな目でウルウルしないでください。
「あの、何の事を、おしゃって、おられるのですか」
「あなた、私の話を聞いて無かったの」
わっ、わからねーーーーーーーぇ。
「バール様に、おはようて、言われたのよ」
誰か、私が、何をすればいいか、教えてくれ。
「どうしてくれるのよ」
繰り返しで、問い詰めてくる。
もういい。
私、一旦、落ち着け。いっそのこと素数でも数えるか。
そんな暇は、無いのだけど。
そうだ、質問には、質問で、返させてもらおう。
「では、わたくしは、どうすればよいのですか」
そう言われて、一旦ひるんだものの、直ぐに切り返してきた。
「あなたが、悪いのよ」
私が、いじめてるみたいな展開は、辞めてください。
もう、血管きれそうだわ。
この馬鹿野郎と、心の中で、暴言を、吐いてから、冷静に、成ったつもりになった。
「あなたが、・・あなたが、・・・」
その時に、涙が、一つ流れた。
ああ、これ完全に、情緒不安定だ。
私が、何を、したと言うのだ。色々と、やった覚えは、有るが、何でこうなる。
静かな、嗚咽を、しながら、疲れたのか、しばしの沈黙。
私は、俯き加減に成ったリナ様の、瞳を、見て、自分が、少し、落ち着いた事に、気が付く。
そして、私は、屈んで、リナ様と、目線を合わせた。
「リナ様。涙は、簡単には、見せる物ではありませんわよ」
そう言って、涙を、拭って差し上げた。
その仕草に、ハッと成るご令嬢。
「私は、用事が有るので、これで、失礼いたします」
ええ、用事が有りますとも。
この様な、事態から、逃れるためなら、なんだって用意しますよ。