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【短編】現代ドラマ短編シリーズ

真夜中でいいのかな?

作者: 烏川 ハル

   

『3月29日の真夜中に』


 と書いた時点で、ふと私の手は止まった。

 本当に「真夜中」という表現でいいのだろうか。それよりも「夜中」あるいは「深夜」の方が相応しいのではないだろうか。

 そんな疑問が頭に浮かんでしまったのだ。


 仕事で必要な手紙をしたためている最中(さいちゅう)だった。

 一般的な「仕事で必要な手紙」であれば、ネットで検索すれば簡単に書式が見つかるものだが、私の職種は少し特殊なので、おそらく参考例は出てこないだろう。

 同業者の知り合いから教えてもらうのも難しい。この程度の質問をしたら馬鹿にされるのではないか、という心配以前に、彼らの連絡先がわからないからだ。

 しょせん同業者たちは、ネットの噂などで名前を見るせいで「知り合い」の気分なだけ。たまには仕事先で顔を合わせる機会もあるけれど、親しくなるどころか、むしろ逆に、競合相手として険悪な仲になるくらい。残念ながら、同業者の友人は一人もいなかった。


「言葉の使い方……。それこそ、ネットで検索するのが一番だろうな」

 自分に言い聞かせるようにして、独り言を口にする。

 紙の辞書も持っているが、それでは言葉の定義しかわからないので駄目だろう。私にとって重要なのは、実際に人々がどういうニュアンスで使っているか、という方だからだ。

 例えば今回の「真夜中」という言葉の場合、私が書いた文面を読んで、相手が間違った時間帯をイメージしてしまったら、大きな問題が発生してしまう。

 (あと)で「騙したな!」「わざと誤解を与えるような書き方を!」「トリックだ!」などと言われる状況を想像するだけでも、胸がムカムカしてくる。まさに私の沽券に関わる事態ではないか。


 そんなわけで、ネット検索だ。「真夜中」と「夜中」と「深夜」の違いを調べてみるが……。

 正直、よくわからない。サイトによって、言っていることが微妙にバラバラだった。

 とりあえず言葉の定義としては、「夜中」は夜の間、しかもかなり長い時間帯を示すらしい。数年前の全国調査の話が複数のサイトで言及されていたが、それによると、午後11時から午前2時くらいをイメージする者が多いそうだ。

 そこから少しだけ時間が(せば)まって、午前0時から午前2時くらいが「真夜中」。そう書かれているページもあれば、「夜の中間点だから午前0時の前後30分」「その時間帯より少し遅れて、午前0時から午前3時くらい」と主張しているページもあった。

 もう一つの「深夜」は、時間帯云々ではなく、「他の言葉と組みわせて用いられるのが一般的」という説明。なるほど、例えば「深夜営業」「深夜割引」「深夜放送」などはよく聞く言葉だが、「夜中営業」も「真夜中営業」も聞いたことない気がする。


 ならば、真っ先に「深夜」は候補から脱落。

 今のところ、相手には正確な時間を伏せておきたいけれど、私の予定としては午前0時ちょうどのつもりだった。「夜中」では漠然としすぎて、私を待つ方々にも迷惑だろうから、やはり最初に思い浮かべた「真夜中」が相応しいと思う。

 少しスッキリした気分で、改めて。

 明日投函する予告状を、私は書き上げるのだった。


『3月29日の真夜中にお伺いします

 宝石「赤い王女の涙」を頂戴しに

         怪盗スプリング』




(「真夜中でいいのかな?」完)

   

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