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「よかったわ、背中もお腹の傷もたいしたことなくて。傷跡も残らないそうよ」


元エルシャの部屋の天蓋付のベッドで私は横になっていた。

部屋では母がせわしなく動いて、荷物を片付けている。


ずっと両親の安否を心配していたが、すぐにエドワードが居所を突き止めてロスペールに見つからないよう田舎の館で保護していたらしい。

両親がぬくぬくと田舎の館で過ごしていた間、私は彼らを心配して涙を流していたと言うのにいい加減にしてほしいものだ。

エドワードも何も言ってくれなかったのは酷いと思う。


ロスペールが捕らえられた次の日に両親が私が寝ている部屋へと訪れた。

父は仕事があるためすぐに実家へ帰って行ったが、母は私の世話をするために残ってくれている。


「大した傷じゃないってみんな言うけれど、とても痛かったのよ」


ムッとして言う私に母はカラカラと笑う。


「大げさねぇー。ちょっと血が出ただけなのに」


母は手を休めることなく動き回っている。

今朝から大量の荷物が運び込まれてそれを整理するのに忙しい。


「その荷物は何?」

「マリエルの荷物よ。全部持ってこいってエドワード君が言うから」

「えっ?」


驚く私に母も驚いている。


「え?あなたこれからここに住むんでしょ」

「・・・・そうなの?」

「エドワード君がそう言ってたわよ。エドワード君あの糞みたいなロスペールを排除したから王様になるんですってね」

「そうらしいわね。私、危うくジェロード王と結婚させられそうになったのよ」

「もう何回も聞いたわよその話は。でも、結婚していないからいいじゃない」

「そういう問題じゃないわよ。ねぇ、エルシャはどうしているの? 無事なの?」


私の言葉に、母がまた驚いている。


「私たちと一緒に居たわよ。マリエル知らなかったの?」

「知らないわよ!元気なの??」


エドワードからは何も聞かされていない。

昨日私をこの部屋に運んできてからそれっきり顔すら出さない。


「元気よ。マリエルと同じ髪の毛と目の色だけれど顔は似ていないわよね。エルシャちゃんの方がお人形さんみたいで可愛いわ」


「お母さん酷い」


確かにエルシャの方が可愛いが、本人の前で言うことではないだろう。

部屋をノックする音に母が返事をすると、入ってきたのはエドワードだ。

その後ろにはエルシャの姿もある。


「エルシャ!元気だったのね」

驚いてベッドから起き上がり私が名前を呼ぶと彼女は軽く手を振った。

幼い頃と変わらず、人形のように可愛いエルシャはにっこりと微笑んだ。


「災難だったわね。まさかあの叔父さまが私の代わりにあなたをジェロード王に嫁がすとは思わなかったわ」


そう言って、ベッドまで近づいてくると私を抱きしめてくれる。


「大変だったのよ、エルシャがいなくなって」


エルシャを抱きしめて言うと、彼女はクスリと笑った。


「そのようね。しかし本当にマリエルはエドワードと結婚するつもり?」


険しい顔をして聞いてくるエルシャに私は首を傾げた。

後ろに居るエドワードも軽くエルシャを睨みつけている。


「エドワードが結婚してくれるのなら私は嬉しいわ」


私が言うと、エルシャは何とも言えない顔をしている。


「私、エドワードはロリコンだって思っていたのよ。ずっと幼いマリエルを可愛がっていたじゃない。年が離れているのに猫かわいがりして。妹の私より可愛がっていて気持ち悪かったわ」


「エルシャ、気持ち悪いとは実の兄に失礼だろ」


エドワードが顔をしかめて言うがエルシャは横目で彼を見てため息を付いた。


「気持ち悪いわよ。もしかしたら、マリエルと同じ髪の色と瞳の色をしている私もエドワードから変な目で見られているかと思ったぐらい。幼い子が好きなんじゃなかったのね」


「あたりまえだろう。マリエルだけを幼少期から愛しているのだから」


エドワードが断言するが、エルシャは嫌な顔をしている。


「そう認識したのは多分大人になったマリエルに会ったからでしょ。それまでエドワードってば自分が幼い子しか愛せない変人だと思って凄い悩んで城を出て放浪の旅に出たのよね。良かったわ実の兄が変態じゃなくて」


エルシャに言われたエドワードは黙ってしまった。

それほどまでに悩んでいたということだろうか。

少しおかしくて思わず笑ってしまう。

ひとしきり笑って、私はエルシャを見上げた。


「エルシャの部屋を借りててごめんね」

「いいのよ、私も近々結婚予定だからこの部屋使っててよ」

「えっ?エルシャ結婚するの?」


驚いて聞くと彼女はにっこりと微笑む。

「ええ。他国の貴族と、ここにはもう戻ってこないつもり。置いてある荷物も使ってね」

「ありがとう」


他人の部屋にいるとどこか居心地が悪かったが、本人の許可が降りたので安心して使うことができる。

エドワードは咳払いをして私に近づいてきた。

そっと私の髪の毛を撫でる。


「元気そうで良かったよ。忙してくなかなか顔を出せなくてごめんね。ロスペールは監禁中。近々裁判を開いて正式に罪が確定する予定だよ」

「罪?」

首をかしげる私に、エルシャがエドワードの後ろから頷いた。


「罪はいっぱいあるわよ。独裁政治における貴族たちの圧迫とか?ワイロとか?とにかくいっぱいよ裁かれるのは叔父様だけじゃないわよ。それに従っていた貴族たちもよね」

「そうだな。そして僕が正式に王になるわけだ。気が進まないけれど」


エドワードが言うと、エルシャは私を見る。


「まぁ、おかげで大好きなマリエルに思いを伝えて結婚してくれるっていうのだから良かったんじゃない?」

「そうだな。戴冠式と一緒に結婚式も行う予定だ。今度のウエディングドレスはマリエルの好み通りの長いスカートとベールにしよう」


エドワードの言葉にエルシャが呆れたような顔をする。


「マリエル、この男は結婚式で叔父上を捕まえるつもりだったからあえてドレスの裾を短くしたのよ。逃げやすいようにって」

「そこまで計画していたのね・・・でも最後ってどういう意味だったの?」

「そりゃ、叔父上を捕まえるのに失敗したら僕が殺されるからね」


何でもないことのように言うエドワード。


「エドワードが生きていてよかった」


私が言うと、エドワードも頷いた。


「そして、僕が幼い子しか愛せないわけじゃないと知れて良かったよ。妹の疑いも晴れたし」


エルシャも頷いた。


「そうね、実の兄がちゃんとした女性を愛せてよかったわ。密かにマリエルと同じ変態な目で私を見ていると思っていたから」



心底安心したように言うエドワードとエルシャに私は笑ってしまった。



それからしばらく城の中はごたごたしていたが、直ぐにエドワードが実力を発揮して各勢力を抑えた。

1年の婚約期間を経て私たちは結婚式を上げた。


私の理想通りの裾の長いスカートに長いベール。

エルシャからは豪華なブーケをプレゼントされ私はそれを手に持ち父親とバージンロードを歩く。

私の到着を待っているのは、王の衣装を着たエドワードだ。


黒に金で縁取られた洋服に金色の剣を差している。


青いマントは長くとても動きづらそうだ。

エドワードは私をみて微笑んだ。


「やっぱり花嫁にベールは必要だね。とっても似合っているよ」

「ありがとう。エドワードも王様の服似合っているわ」


参列者の一番前の席はジェロード王が王妃と一緒に座っている。

あの後すぐに結婚したとのことだが、綺麗な奥様だ。


エドワードとジェロード王は実はかなり仲がいいと言う話を最近聞いて驚いた。

エドワードは放浪の旅をしつつ各国に太いパイプを繋げていたらしい。

どこまでがエドワードの思惑だったのかは分からないが、私はあえて聞こうとは思わない。


ただ言えることは、エドワードの妹は役でもやりたくないということだ。


エドワードの顔をじっと見上げていると、彼は少し首を傾げた。

「何?僕に見惚れている?」

「そうね、この教会の中に居る人たちの中で一番美しいと思うわ。ただ、私はもう二度と妹役はやりたくないと思ったのよ」


私が言うとエドワードは少し目を見開いて微笑んだ。


「奇遇だね。僕もそう思うよ。もう二度と、マリエルからお兄様とは呼ばれたくないね」


私たちはお互い微笑み合って、誓いのキスを交わした。





お読みいただいありがとうございました。

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