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窓の外を見て私はため息を吐いた。

私の心とは裏腹に雲一つない青空が広がっている。


エドワードと想いを伝えあってから一か月が経った。

彼は一度も私に会いに来てくれはせず、ドレスの進行状況だけが手紙や侍女たちを通して報告されるだけだった。

ロスペール王の目を気にしてか手紙にはドレスの事と体調を気遣う言葉しかなく甘い言葉は一つもなかった。

そして、今日がジェロード王との結婚式だ。

愛してもない男の元にエルシャとして嫁がねばならないのだ。

今日までもしかしたらエドワードが私を連れだしてくれるのではないかと期待していたが彼は一度も姿を見せなかった。

昨日の夜も寝ずに待っていたが、誰も来ずむしろ私が逃げ出すのではないかと見張りの兵が増えていた。

侍女たちも用もないのに私の部屋へと待機している状態が数日続いていた。


今朝も早くから侍女に起こされ、式の用意をさせられる。

兵士に囲まれるように部屋から出て、控室へと通される。


部屋には太陽に当たってキラキラと輝くウエディングドレスが飾られていた。


ドレスに近づいてそっと布を手に取った。

白いレースには銀色の糸で刺繍がしてあり、その刺繍が太陽に当たりキラキラと輝いている。


「ベールは無いのかしら」


部屋を見回している私に、後ろから声がかかる。


「残念ながらベールは作っていないんだ」


振り返ると一か月ぶりに見るエドワードの姿。

文句を言ってやろうと口を開いて、彼の姿を見て息をのんだ。


白い詰襟の騎士の様な服装に青い色のマントを付けているエドワードの姿はとても美しい。

いつも無造作に降ろされている髪の毛は綺麗に纏められて横に流している。

腰には金色の煌びやかな剣を下げていた。


私の視線に気づいたのかエドワードは軽く肩をすくめた。


「この剣はただの飾りだよ。僕も一応この国の王族だし、それに花嫁の兄だからそれなりの恰好をしないとね」


「まるで、エドワードが結婚するみたいね」

私が言うとエドワードはにやりと笑った。

「そうだったら面白いね。今日は僕が、エルのエスコート役だ。だから準備ができるまではここで待っているよ」


そう言って、控室のソファーに座る。

部屋の中に居た侍女たちは知っていたのか大して驚いた様子もなく、エドワードに軽く頭を下げて私の準備に取り掛かった。


今までにないぐらい念入りに化粧をされ髪の毛を整えられる。

ベールが無い代わりに大きな白い花で髪の毛は飾られた。

華やかな雰囲気になったがやはり花嫁といえば白いベールに憧れを持ってしまう。

侍女たちに手伝ってもらいながらドレスに袖を通し、鏡で自分の姿を眺めた。

襟首まであるレースに、スカートの長さは足首が隠れる程度。

想像していた花嫁衣裳とは少し違うと私は鏡の前で何度も自分の姿を見る。

幼い頃想像していた花嫁衣装は、引きずるほど長いケープとスカートだったが今私が着ているのはダンスを踊るときと同じぐらいのスカートの長さのウエディングドレス。


気が進まない結婚式ではあるが、せめてドレスは花嫁らしくありたかった。

少しガッカリした気分になりながら、衣装室から出るとエドワードは座ったまま私を見つめた。


「良く似合っているよ。銀色の糸を使ったのはエルと同じ髪の毛だから。きっと綺麗だろうなと思ったけれど、やっぱり綺麗だね」


「ありがとう。でも、私が想像していたドレスとは少し違ったわ」

苦笑して言う私にエドワードは頷いた。


「そうだろうね。幼い頃の君は絵本に出てくるお姫様の結婚式のドレスに憧れてたから。長いケープとドレスのスカートでしょ。でも、あえて僕はそのデザインがいいと思ったんだ」


「そうなの」

エドワードと結婚できないのならどうでもいいと私は頷いた。


「それでは、行こうか妹殿。そろそろ時間だ」


エドワードがおどけた様に私に腕を差し出した。


休憩する暇もなく、私はエドワードの腕に自らの腕を絡ませた。

これで彼と話せるのも最後なのかもしれない。

私は、ジェロード王と結婚するのだ。

涙が出そうになるが、何度か深呼吸をして気持ちを切り替える。


美しいエドワードの姿を見れただけでいいではないか。

私が落ち着いたのを見てエドワードは頷いて歩き出した。


私が逃げださないようにドアを守っていた兵士が敬礼しつつドアを開いた。


城の長い廊下が、私の気持ちが落ち込んでいるからか暗く見える。

教会まで続く長い通路には、兵士が立って敬礼をしていた。

私が逃げ出さないように見張りなのだろうか。


ゆっくりと私とエドワードは並んで歩く。


息をひそめ誰もが私たちを見つめているのが解る。


私はエルシャとして他国へ嫁ぐのだ。


せめて姫様に見えるようにしようと背を伸ばして前を向いて歩いた。


しばらく歩くと、教会の入口へとたどり着いた。

甲冑に身を包んだ兵士がドアを開く。


「エルシャ様の入場です」


大きな聖堂の中には席に座っていた招待客が私たちを振り返った。

一人も見覚えのない客たちは、ジェロード王の関係者とロスペール王の手の内の者だろう。

私の結婚式なのに、私の親戚は一人もいない。

吹き抜けの天井は高く、周りを囲んでいるステンドクラスは光が当たってとても綺麗だ。

こんな時でもなければゆっくりと見てみたいと思いながら招待客の間を私たちは歩いた。

人々は一言も発せず、黙って私たちを眺めている。

拍手一つなく、静かな大聖堂のを歩き主祭壇へと向かう。

主祭壇には神父とジェロード王がすでに私たちの到着を待っていた。


「よく来たな、エルシャ殿」

ジェロード王は私とエドワードを見るとニヤリと笑った。

彼の恰好は、前回会った時と同じ上半身に甲冑を着ており右手には甲冑の頭の部分も手に持っている。

よく見ると膝あても手にも甲冑を身に着けており、完璧に戦いに行く人のようだ。

ジェロード王が付けている赤いマントが甲冑を際立たせている。


よっぽどエドワードの方が花婿のようだ。

私は二人を交互に見た。

驚いている私に、ジェロード王はまたニヤリと笑う。


「俺は結婚式にただ来ただけだからな」

「はぁ」


私も結婚式に出席しに来ただけだからお互い様だと思っていると、ロスペール王がニコニコと笑いながら一番前に座っている。


「式が終われば、エルシャ殿はすぐに俺の国に来ることになっているが準備は済んでいるか?」


ジェロード王の言葉に私は驚いた。

そんな話は全く聞いていないが、私の意志など無いに等しいのだから当たり前だ。

きっとすべて準備は終わっているのだろう。


ジェロード王と結婚をして添い遂げることができるのだろうか。

隣に居るエドワードを見上げると、彼の青い瞳と目が合った。

やはり、幼い頃から彼が好きだ。

エドワードも私の事が好きだと言ってくれたのは間違いだったのだろうか。

あの日から彼は私に一言も何も言ってくれない。


あの日の出来事は夢だったのだろうか。

悲しくて涙が出そうになり慌てて下を向いた。


答えない私の代わりに、ロスペール王が満面の笑みで答えた。


「準備は万端ですよ。エルシャが嫁ぐのですから素晴らしい侍女と護衛をお付けする予定です」


「ロスペール王の息がかかったものが俺の国に来るなど許すはずがないだろう」


ジェロード王は大きな声で言うと、ロスペール王の顔がひきつった。


「な、なぜですか。エルシャに護衛を付けることは当たり前でしょう。可愛い姪ですよ。それならば、この結婚は少し考えさせていただきたいと思うが・・・・」


ロスペール王が言い終わる前にジェロード王が剣を抜いて大声を出した。


「初めて意見があったな。この結婚は中止だ!俺にも愛する者が居るのでな!」


目を見開いて驚いているロスペール王は剣を抜いているジェロード王の姿を見て慌てて後ろに駆けだした。

エドワードが捕まえようと手を伸ばすが傍にいた兵士に阻まれる。


「同志ども剣を抜け!ロスペールを捕らえろ!」


ジェロード王が大声で宣言すると、招待客の一部が剣を抜いて立ち上がった。


一瞬で悲鳴と、怒声が聖堂に響く。

訳が分からず立ちつすく私の背中をエドワードが押した。


「隠れてて、叔父上を捕らえてくるから」


いつもと変わらず、気だるい雰囲気を出しながらエドワードは剣を抜いてあたりを見回している。


「その剣、飾りだって・・・」


呆然としている私が言うと、エドワードは微かに微笑んだ。


「飾りに見せて実は本物だよ。彼女を頼む」


剣を持った女性が数人来て私を取り囲んだ。

招待客の女性達だ。

ドレス姿だがいつの間にか腕に青い布を巻いている。


「女性の兵士たちがマリエルを守ってくれるから絶対に離れちゃだめだよ」


エドワードは私に念を押して言うと、ジェロード王と向き合った。


「叔父上を逃がしてしまったね」


「逃げ足は早いようだ。この混乱に乗じて逃げられたら厄介だ。捕まえるぞ」


二人仲良く剣をもって走って行くのを見送った。



「命を懸けてお守りしますので、絶対に離れないでください。マリエル様」


私を守るように立っている女性兵士が剣を構えながら言った。


「マリエルって・・・」


私はエルシャと呼ばれないといけないのではと思って戸惑う私に女性は少し微笑む。


「存じておりますので大丈夫ですよ。マリエル様」


もう、エルシャとして演じなくてもいいのだと少しホッとする。


大聖堂の中は気づけば剣をぶつけ合っている音があちらこちらで上がっていた。


「かなり混乱していますので気を付けてください」


女性兵士の言葉に私は頷いた。



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