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数日後さっそくエドワードは上機嫌で私の部屋へとやってきた。
「マリエル、ウェデングドレスのデザインを持ってきたよ。どれがいいか選んでほしいんだ」
「用意がいいのね」
絶望的な気分になっている私とは対照的にエドワードは珍しくニコニコと笑って私の前に座っている。
机の上にウエディングドレスのデザイン画を広げて私に見せた。
好きでもない男との結婚式に着るものなど、どんなドレスでも構わない。
やる気のない私にエドワードは不思議そうに顔をかしげている。
「ウエディングドレスって女性なら嬉しいものじゃないの?気分が乗らなそうだけど」
「両親が生きているのかも分からな無い状態で、しかも好きでもない男との結婚に乗り気だと思う?」
それも好きな人が傍にいて他の男と結婚しないといけないなんて酷すぎる。
また涙が出そうになり必死にこらえる。
それなのにエドワードは嬉しそうだ。
「ジェロード王は好みじゃなかった?」
「全く・・・好きになれる気がしないわ」
私の言葉にエドワードはますます笑顔になる。
エドワードの笑顔に腹が立つ。
「どうして笑っているのよ!私はこんなに悲しいのに!」
涙が溢れ乱暴に涙をぬぐってエドワードを怒鳴りつけた。
エドワードは何も悪くない。
私が勝手に彼を好きになって、勝手に怒っているのだ。
それなのに私の怒りは収まらない。
「両親の無事もわからないし!私はエルシャとして好きでもない人と結婚式をしないといけないのよ!どうして笑っているのよ!」
涙を流しながら怒っている私にエドワードは笑ったまま立ちあがって私を抱きしめた。
「笑ってないよ。喜んだだけ」
「同じじゃない」
溢れる涙をエドワードの胸に押し付けて水分を洋服に染み込ませる。
ギュッと抱き着くと、エドワードが力強く抱きしめてくれた。
「ねぇ、マリエルは僕の事好き?」
抱きしめられたままエドワードに聞かれ私は思わず頷いてしまった。
気持ちを隠していても、私がエドワードと結婚できることは無い。
このままエルシャとして嫁いだとしても思いを伝えられればそれだけで満足だ。
「好きよ。初めて会った時から優しいエドワードが大好き」
たとえ妹と同じようにしか見ていなくても、エドワードが好き。
ギュッと抱き着くと、エドワードも力強く抱きしめ返してきた。
「僕も、マリエルの事を愛しているよ」
そんな薄っぺらい嘘はいらないとエドワードを見上げる。
彼は口元に笑みを浮かべて、私に口付けて来た。
一瞬重なった唇が離れたかと思うと、後頭部に手を回され腰を固定され身動きが取れなくなる。
青い瞳が私を見つめると、再び唇が重なり深い口づけをされる。
息が苦しくなりエドワードから離れようとするが、体を固定されていて離れることができずエドワードに翻弄される。
どれぐらいの時間が過ぎたのだろうか、エドワードから解放され肩で息をしている私を抱きしめてエドワードは呟いた。
「最後だから、ウェデングドレスは僕が選ぼうかな」
「最後ってどういう事・・・」
エドワードと会えるのが最後なのか、最後に兄としてやってあげることが最後なのか。
どちらにしても寂しい。
せっかくエドワードと心が通じたと思ったが、喜びより悲しみが増しまた涙が出てきた。
「どうして泣くの?僕はとっても嬉しいのに」
エドワードに顔を覗き込まれ私は涙を流しながら睨みつけた。
「だって、私はエドワードが好きなのにジェロード王と結婚しないといけないのよ」
「ん?うーん。そうだね・・・・」
エドワードは困ったような表情をして言葉を濁した。
「本当に最後になるかもしれないから、綺麗なドレス姿を見せてよ」
「酷い・・・」
最後とは言わないでほしい。
私はエドワードに抱き着いてしばらく泣いた。
「泣かないでよ。きっと未来は明るいかもしれないじゃないか」
エドワードは私を抱きしめながら言うが、明るい未来など想像ができず私は首を振った。
「だって、エドワードは最後だからって言ったわ。私と会える日の最後が結婚式なんでしょ」
「うーん。そうなるかもしれないね。でも、せっかくドレスを作れるんだから僕がマリエルに似合うものを作るから当日は着てほしいと思うんだ。ダメかな」
私の目を見て言うエドワードの言葉を断れるはずもなく私は頷いた。
「着るわ・・・」
「ありがとう。忘れないで、僕はいつでも君の味方だ。マリエルだけを愛しているって」
「私もよ。エドワード。お兄様なんて思えないわ」
「僕も、マリエルを妹だなんて思えないよ」
お互い抱き合って、そっと離れた。
涙は既に止まっていたが、私の目元にエドワードの長い指が触れそっと撫でられた。
「それじゃ、僕がドレスを選ぶから覚悟していてね」
「そうね。私はとてもドレスを選べる精神状態ではないからお願いするわ」
とてもではないが、両親が生きているかどうかもわからず、エドワードと想いを伝えあったのに好きでもない男と結婚しないといけない状況でウエディングドレスを選ぶことなどでそうな気分ではない。
喜びと絶望が交差し、自分でも感情が分からなくなり息を大きく吐いた。
「大丈夫?」
エドワードは不安が無いのか、嬉しそうに私の顔を見つめる。
「大丈夫ではないわ。エドワードはいつもと変わり無さそうでいいわね」
「そう?これでも僕はとても喜んでいるよ。長年の想いが叶ったからね」
私が聞く前に、エドワードは軽く私にキスをして手を振って部屋から出て行ってしまった。
私は、呆然とエドワードが出て行った扉を見つめる。
「なんなの・・・」