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「今日からお前はエルシャだ。髪の色も瞳も同じでちょうどいい」


私の前で凶悪な顔をして笑っている男を私は睨みつけた。

私から家族を取り上げ、挙句の果てに名前まで取り上げるのか。


私の前にふんぞり返って座っている男、ロスペールは、この国の王だ。

正確には、王の弟。

3年前突然死んでしまった王の次に王位を持っていたこの男が王になった。


「叔父上、あまりに横暴です。彼女は私の遠い親戚の、マリエルです。私の妹エルシャではありません。無理があります!」


男の横にいた、エドワードが私の代わりに抗議をしてくれる。

エドワードを見るのも20年ぶりぐらいだが、幼い頃と変わらず整った顔をしていて儚げな雰囲気は変わらない。

金色の髪の毛は長く、青い瞳は私を見て眉をひそめている。

エドワードは私の遠い親戚で、亡くなった王の長男だ。

私はエドワードの妹エルシャの代わりとして連れてこられたらしい。



今朝突然、兵士が我が家に来て父と母を紐で縛りどこかに連れて行ってしまった。

私も無理やりこの城に連れてこられた。

抵抗をすると、兵士に顔を殴られ訳もわからず王の部屋へと入れられた。

兵士に殴られた頬は痛かったが、手当をすることも出来ずこの部屋に投げ入れられるように放り込まれた。

赤い絨毯が敷かれている王の間の床にすわっている私を見てエドワードはとても驚き、腫れている頬を冷やすため濡れたハンカチを渡してくれた。

昔と変わらず優しいエドワードで安心した。

私より近い親戚同士なのに、エドワードとは似ても似つかない凶悪な顔をしているロスペール王。

似ているのは金色の髪と青い瞳ぐらいだろうか。小太りに太り口髭を生やしているロスペール王はエドワードを睨みつけた。


「何度も言わせるな。この女は今日からエルシャだ。髪の色も目の色も同じやつなど早々居ないから助かったな。お前はエルシャとしてルドル王国の王へ嫁ぐのだ」


「それはあんまりです叔父上」


私が抗議する前にエドワードがロスペールを睨みつけた。

ロスペールはニヤリと笑って口ひげを撫でると床の上に座ったままの私を上から下まで舐めるように見る。


「顔は似てはいないが、白い銀色の髪の毛、紫色の瞳などどこを探しても居ないだろう。ルドル王とはまだ一度も顔を合わせていない。人が入れ替わっていることなどわかるまい。せいぜい、嫁ぐ日までこの国の姫としての教養と礼儀作法を身につけておくんだな。逆らえばお前の両親は殺す」


縄で縛られて何処かへ連れていかれる両親の姿を思い出して私は目を瞑った。


「両親は無事なのですか?」


ここへ来て初めて言葉を発した私にロスペールは口ひげを触りながら肩をすくめる。


「お前がルドル王に嫁げば両親は解放しよう。もし抵抗をすればすぐに殺す。今はとあるところに閉じ込めている」


何が面白いのかロスペールは声を上げて笑うと、玉座から立ち上がった。


「教育はエドワードに任せる。お前の妹になるのだから仲良く過ごせ」

「叔父上!」


ロスペールの背中にエドワードは呼び止めるが、振り返ることなく部屋から出て行った。

ロスペールが去って行った扉には二人の兵士が守っており、エドワードを行かせないとでもいうように手を上げて制している。


「エドワード様。これ以上は王以外立ち入り禁止です」

「・・・・」


舌打ちをしてエドワードは忌々しく扉を睨んでいたが、ため息を付いて私を振り返った。


「マリエル・・・傷は大丈夫か?」


冷やしたハンカチで頬を押さえている私の手を取り傷を確認した。

ズキズキとした痛みと腫れぼったい感じはしたが、鏡を見ていないので自分がどういう姿なのかは分からずじっと耐えているとエドワードの細く長い指が私の唇の横を撫でた。

ピリッとした痛みに顔をしかめる。


「すまない、痛むか・・・。かなり腫れている、とりあえず部屋へ案内しよう」


エドワードに抱えられるように立ち上がると、そのまま私の脇に腕を入れて歩き出した。

廊下に出ると、心配そうな顔をした侍女が数人駆け寄ってきたが、エドワードはそれを制した。


「マリエルを部屋に連れていく。怪我の手当をしたい」

「はい」


侍女は頭を下げると、駆け足で去って行った。


「ここは、エルシャの部屋だったところだ。今日からマリエルの部屋になる」


しばらく城の中を歩き、一室の前でエドワードが言った。

ドアを開けて入ると、私の部屋の倍はある広さの豪華な部屋だった。


ソファーに私を座らせるとエドワードは侍女が持ってきた消毒液をガーゼに湿らせ私の横に座った。


「痛むかもしれないが、傷の消毒だけでもしよう」

「ありがとうございます」


整った顔が近づいてきて私の唇の横にガーゼを当ててくれる。

消毒液が染み痛み顔をしかめると、なぜかエドワードも顔をしかめた。


「しばらく冷やしていた方がいいだろう」


冷たいタオルを受け取って頬に当てる。

火照った頬の痛みが少し引いた気がしてほっと息を付いた。


「なぜ、わたしがこんな目に合わないといけないのですか?今朝突然、兵士が来てここに無理やり連れてこられました」


私が言うと、エドワードはため息を付いた。

20年前、私が4歳の時に彼とはよく遊んでいた仲だ。

6歳年上のエドワードはまだ10歳というのにかなりの美形でいつも気だるそうにしていたのを思い出す。

私が、エドワードの妹エルシャと一緒に遊んでいるといろいろと教えてくれたやさしいお兄さんだった記憶が蘇る。

幼心ながら、年上の美形のお兄さんに憧れ、初恋だった甘酸っぱい思い出も蘇りエドワードの顔を観察するべく隣に座る彼を見上げた。


昔よりも、大人になった彼は金色の髪の毛は輝きを増し、女性を魅了するオーラが体からあふれ出ている。

こんな状況でなければ胸をときめかせていたであろうが、生憎傷の痛みと様々な衝撃でときめいている余裕がない。

それでも整った顔だなと、見つめている私に彼の青い目と目が合った。


「まず、僕の父が亡くなったのは知っているよね?」

「そりゃ、王様ですから。突然でしたね」


遠い親戚の私は両親とともに葬儀にも参加したことを覚えているが、エドワードの姿を見た記憶が無い。

エドワードの妹のエルシャが青い顔をして葬儀に参加していたことは覚えている。

私とエルシャは当時同じ21歳だったが、私よりもかなり大人びいて居て見えた。

細い体に抜けるような白い肌。

長いまつ毛に大きな瞳に美しさと儚げな雰囲気はエドワードそっくりだった。


「僕は15歳ぐらいから国外で留学をしていたんだ。父が亡くなって葬儀に間に合わなくてね」


だから居なかったのかと頷く私にエドワードは説明を続ける。


「僕は王位に興味が無かったんだ。国を治めるなど僕にできるはずもないし。そうしたら、叔父上のロスペールが王位を次ぐと言うから僕たちは賛成した。それが間違いだった」


「間違い?」


「優しいと思っていた叔父上は、独裁者だった。自らに楯突くものは排除し、マリエルのように家族を人質に取り脅迫する。他の貴族たちもいろいろとやられているのを僕は知って慌てて帰国したのがつい3か月前だ。もうこの城には叔父上の息のかかった者しかいない。そんな叔父上の道具になりたくなくて妹は姿を消した」


「どこへ行ったのですか?」


私が聞くと、エドワードは首を振った。


「さぁ?ある日突然居なくなった。生きているのか死んでいるのか・・・」

「えっ?」


驚く私にエドワードは少しだけ微笑んだ。


「城の中は皆が敵だと思った方がいい。不用意な行動はしないように、叔父上の指示には従うようにしてくれ」

「私は、エルシャとして暮らしていけと言っているのですか?」


いくら髪の毛と目の色が似ているからと言って、エルシャになりきって生活するなど不可能だ。

エルシャはこの国の姫様として暮らしていたのだから。

顔はエルシャとは似ても似つかない。

絶望的な気持ちになりながら問うと、エドワードは少し考えて頷いた。


「しばらくは・・・。叔父上は指示に従わないとマリエルの両親を殺すだろうね」


両親を人質に取られている状況にゾッとする。


エドワードの言う通りならロスペール王は私の両親を殺すのだろう。

仕方なく私が頷くとエドワードは納得したのか頷いて立ち上がった。


「今日は疲れただろう。ゆっくり休んでくれ」


「ありがとうございます」


私がお礼を言うと、エドーワードは思い出したように振り返った。


「そうだ、さすがに僕はマリエルの事を妹とは思えないから呼び方を考えたんだ」

「呼び方ですか?」


「そう、叔父上はマリエルって呼ぶとかなり怒るだろうから、これからはエルって呼ぶよ。マリエルとエルシャのエル。いい愛称だと思わない?」


一度も呼ばれたことのない呼び名で全くしっくりこなかったが、エルシャと呼ばれるよりはいいと思い頷いた私にエドワードは満足そうだ。


「あと、僕は兄という事になるらしいから敬語は禁止ね」


そう言い残して部屋から出て行った。




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