sg8
引き続きどうぞ。
プロレスラー、ジャイアント・パパは「苦しい家計を助けたい」、ただこの一念から誕生したと言ってよい。
パパ・シゲヲ・シューへーの子供の頃の夢は、同世代の男の子達が皆そうであったように、お国のために戦う立派な兵隊さんになることだった。だが、彼の夢は、一次試験会場に姿をあらわすやいなや、不合格が決定され、はかなく散ってしまった。合否の判定理由は次のようなものだった。
「あのようなただ一人だけ突出した巨体は、全体の均一性、及び、他との規律と調和を乱す異物以外のなにものでもない。戦場にあっては格好の的となり、勇壮な軍事パレードにおいても、美しいマスゲームにおいても、まるで用を成さないことは明白である。つまり、我が帝国の兵士としては、甚だ不適切極まりなく、まったく必要とは認められない」
シューへー少年は、ただ体が大きいというだけで相手にされず、知力も体力も、なによりも愛国心も、これっぽっちも評価されることなく、憧れの兵隊さんへ道を閉ざされてしまったのである。もちろん、落選理由が、いちいち本人に伝えられることなどなかった。
その巨体ゆえに、兵隊になることを許されず、兵役を免除される職業が、かつてこの国には存在した。唯一のプロスポーツプレイヤーであるオオスモウのリキシがそれであった。
「ボクは体が大きいから向いているかもしれない」
一刻もはやく家計を助けるため、失意のシューへーが次に志した職業であった。
シンデシケンサと呼ばれる入門試験を受けたシューへーであったが、ここでも、ものの数秒で不適当の烙印を押されてしまい、実際の能力が認められることはなかった。
理由は彼の体型にあった。
オオスモウはその起源を護国豊穣を願う神事に求めることが出来る。特異なアンコ体型は特殊なルールと独特のリングにおける最強の肉体であると同時に、富と豊かさを象徴する伝統美でもあるのだ。オオスモウキョーカイには、この古来からの伝統を重んじて、「アンコ型の巨体こそがリキシの正統である」という信念のもとに昇進、微妙な取り組みの判定、採用を行う傾向が顕著であった。
パパ・シューへーの肉体は申し分なく巨大ではあったが、アンコ型の様式美から程遠かった。それでいて、彼の身長は、類稀な巨人であるはずのスモウレスラー達よりも、頭一つどころか二つも三つも高いのである。人々にある種の畏敬を抱かさないではいられないはずのリキシが、シューへ―と同じドヒョーに立ってしまった日には、相対的に「コンパクトな小太り」とみなされかねなかったのである。「アンコ型でない者に見下ろされなければならない」、王道を行くリキシにとって、これほどの屈辱はあり得なかった。故に、ただ一瞥されただけで、シューへーは見限られてしまったのである。
そんな失意のシューへ―に手を差し伸べたのが、目利きとしての資質には乏しいが、商才には恵まれていたゼニニッポンプロレスの某スカウトだった。この面長で眼鏡の男が目をつけたのは、誰が見ても明らかなシューへーの巨大さだけであり、格闘センスや運動能力などを見抜いたわけではなかった、というよりも、頭から求めてはいなかった。彼がシューへーをスカウトした理由はこうだった。
「あれだけの巨体なら、さぞかし人目を引くことだろう。地方で興行をうって、チケットを売る時の客寄せパンダとして使えるのではないだろうか。とりあえず、練習生で採用して、選手として活躍出来るようなら儲けもの、だめでも、デッカイから噛ませ犬として映えそうだし、本格的に“パンダ”、いや、ピエロかな、とにかくそうすればいい」
ジャイアント・パパとオオスモウとゼニニッポンプロレスの関係は、サッカーの世界において“皇帝”と呼ばれた男と彼の故郷をホームとする二つのチームの関係に似ている。彼の入団の前後で、その立場は、残酷なまでに逆転した。ただ違うのは、“皇帝”がどちらのチームからも熱心な勧誘を受けたのに対して、ジャイアントは、片方からしか、しかも実力が評価されたわけでもなかったことである。しかし、巨人のもたらしたものは、“皇帝”のもたらしたものが霞むほど巨大だった。その結果は、世紀の大誤算として結実し、いまこの時、この場所に至っている。
楽しんでいただけましたでしょうか?
楽しんでいただければなによりです。
御意見・御感想お待ちしております。
何かしら頂ければ、作者は喜びますよ。
それではまた来週。