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熱狂渦巻くレッド・ベストの敷地内に一つの記念碑がある。
それは、ラグビー校の校庭にたつエリス少年の勇気をたたえるものに似ている。それが指し示すものは、この国におけるプロレスの嚆矢であり、レッド・ベスト以前にここになにがあったかであり、ある男の反則行為への賞賛である。
記念碑は石像と石碑から成る。
石像の悪鬼の如き形相はジャイアントの仏の微笑と好対照を成している。左手にはマイク、右手には半分に割れた軍配が握られ、高々と掲げられている。この、ほどけたマゲを振り乱している、マワシ姿の男こそが、この国における最初のプロレスラーにしてジャイアント・パパの師匠、ジキトウサンであり、脇の碑文は「偉大なる純情の破綻」として後世に知られる、彼の英雄的かつ革命的所業を今日に伝えている。
ジキトウサンはスモウレスラー(リキシ)であり、オオスモウキョーカイと称する団体に所属していた。
リキシとは、マゲとマワシを正装とし観客に尻を向ける、いわゆるアンコ型のプロポーションを誇る異形のファイターである。固有のルールとリングで勝利するために、極限まで馬力と重量を追求したそのボディーは、見返りとして、軽快さと持久力を著しく欠いており、日常生活にまで支障をきたす程であった。彼らはヘヤと呼ばれるキョウカイ所属の徒弟制的道場によって育成される、この道一筋の純血種であり、エリート中のエリートであった。
スモウとはこの国の創生期の神事に起源をもつといわれる伝統的格闘技である。いつの時代からかは定かでないが、古くから国技と認定され、総本山ともいえる競技場の名称が“コクギカン”であったことも、この故事に起因している。勝敗は、原則として、直径四・五五メートルを示す綱のライン(タワラ)の向こうに相手を追いやるか、足の裏以外を接地させたか否かによって決定される。つまり、円の外に押し出すか、投げ飛ばした者に対して、レフリーであるギョージは勝利を宣告するのである。故に、バトルフィールドである土のリング(ドヒョー)にはコーナーポストもロープもなかった。階級はなく、勝負は引き分けを禁じ、全試合が無制限一本勝負で行われたが、そのほとんどの取り組みが一分を要せず、いわゆる“秒殺”というかたちで決着した。
リキシの世界は、チャンピオンであるヨコヅナを頂点とする厳とした階級社会である。ジキトウサンはセキトリと呼ばれる上位ランカーであり、その中でも高位に位置するマクノウチであったが、件の伝説の所業によって永久追放処分を受け、オオスモウの世界を追われたのである。
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