sg3
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本名 パパ・シゲヲ・シュウヘイ
リングネーム ザ・ウルトラ・スペシャル・グレート・スーパー・ジャイアント・パパ
通称 ジャイアント・パパ
それは生ける伝説。
史上最強にして不死身の超人。究極のカリスマ。世界の大巨人。七冠統一ヘビー級チャンピオン。王者の中の王者。ミスター・プロレスリング。奇跡のタフガイ。ゼニニッポンプロレス総帥。人民的スーパースターにして人間国宝。全人民の精神的支えにして信仰の対象。もっとも神にちかい存在、或いは神そのもの。
国家主席にして大将軍、そして総書記長という顔も持つ大偉人でもある。
レッド・ベスト最上階、ジャイアント・パパ専用控えフロア。
メイン・イベントを間近に控えたジャイアントは専用トイレで用を足しながら、最高級の葉巻をくゆらせていた。
ぷーっと煙を吐き出して、ぽつりと呟いた。
「ぼく、今、なにしてるんだっけ?」
ジャイアント・パパ 七十七歳。
正式名称 ザ・ウルトラ・スペシャル・グレート・スーパー・ジャイアント・パパ(祝)還暦おめでとうバンザイバンザイバンバンザイ特別記念プロレスリング専用格闘技場
愛称 レッド・ベスト(・コロシアム)
格闘技のメッカ。プロレスの聖地。ゼニニッポンプロレスの総本山。ジャイアント・パパを祝福する一大モニュメント。
この国の熱狂と信仰の中心地でもある。
正面広場中央にはファイティングポーズをとったジャイアント・パパの巨大な銅像。
相変わらずの大入り満員札止め。今日も立錐の余地もない。そして、この日の熱狂はいつものそれを遥かに凌駕するものだった。
メインイベント ジャイアント・パパ対チョンボ・ヅルダ
あの伝説の巨人が、喜寿を迎えるこのめでたき日に、あの試合以来じつに十年ぶりにリングに帰ってくる。しかも、その対戦相手が、あのチョンボ・ヅルダなのである。人民的スーパースターにして人間国宝のスーパーファイトに対する人民の期待は、いやがうえにも高まる。
ジャイアント・パパ対チョンボ・ヅルダ。
宿命の師弟対決。世代交代闘争。ゼニニッポンプロレスの誇る黄金カード。
これ程までに人民の注目を集め、耳目をひく対戦カードは他にない。ありようがない。あるはずがない。
宿命の対決は今回で九回を数える。
前回、十年前の対決は、ジャイアント・パパにとって、かつてないものとなった。生まれて初めて、苦戦を強いられ、全力で闘った試合であった。
チョンボは当時三十九歳。ファイターとしてのピークは過ぎていたものの、体力が衰えた分を、熟練したテクニックとインサイドワークでカバーすることによって、リング上では、全盛期と遜色ないパフォーマンスを見せていた。
一方のジャイアントは齢既に六十七歳。とっくにピークは過ぎ、歳とともに急激に衰えてはいたが、いまだに実力の底を曝したことなどない“別格”の存在であった。これよりさらに七年前の八回目の対戦においては、当時、絶頂期にあったチョンボ相手に余力をもって、しかも、対戦相手の百二十パーセントの力を引き出したうえで、完勝した程であった。
九回目の対戦。
試合開始のゴングから一分後、チョンボはこれまでにないものを感じていたが、足下にそれを否定した。
(いや、そんなことは・・・)
二分後、違和感の正体が明らかになってきたが、どうしても信じられない。
(そんな馬鹿な。でも、もしかしたら・・・)
三分後、挑戦者は確信せざるを得なかった。
(・・・若干だが、俺の方が強い)
実力の差が相当に縮まっていることは期待半分で予想してはいたが、まさか互角になっていたとは思いもよらなかった。なにしろ、相手はあのジャイアント・パパなのだ。全盛期の凄まじさを知っている。還暦になってさえ、心技体とも充実しきっているはずの自分の遥か上をいっていた超人である。
(勝てるかも)
驚きとともにこの事実が単純にこの上なく嬉しかった。
(あのジャイアント様に勝てるかも)
あまりの興奮でその結果が帰着するところまではとても考えが至らなかった。
雄叫びとともに猛攻をしかけるチョンボ。
今現在もてる限りの実力で応戦することになったジャイアント。
一般人民には、目の前でどれだけのことが起きているのかが理解出来なかった。全ては数十年に及ぶ“教化”の賜物だった。布教する側が信者に望むことは、神の一挙手一投足に熱狂することであって、冷静に分析出来ることではない。
試合は、勢いにのるチャレンジャーが、終始チャンピオンを圧倒し続けたが、決着した時、高々と右腕を掲げられたのは、不敗記録を更新した王者の方だった。
ジャイアントは勝った。しかし、その代償は小さくなかった。この試合で負ったあまりにも大きなダメージは、八年もの間、巨人をリングから遠ざけることになったのである。今回の試合はジャイアント・パパの再起戦でもあるのだ。
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ではまた来週の日曜日。