sg13
本来は日曜投稿ですが、一身上の都合で今日投稿させて頂きます。
それではどうぞ。
もう少しで頂上というところで、ジャイアントはチョンボの方を見た。チョンボは固まったままだったが、巨人はコーナーポスト登頂をここで断念した。そして、登りと同じ速度でゆっくりと降りてきた。
向き直ると、軽く肩を揺らしてファイティングポーズをとってみせた。「見切ったぞ」と言わんんばかりに。
間髪入れず、拍手喝采が沸き起こる。
場内が落ち着いたところで、チョンボもようやく白昼夢から目を覚ましたように立ち上がり、臨戦体制を整えた。
両者、再びリング中央で組み合った。
チョンボが「なにかしてしまっていいのだろうか?」と悩んでいるうちに、ジャイアントが、またもたもたとし始めた。
くるりと回り、両手を首にまわすと、「どっこいしょ」と両膝をマットにつき、力んだ。
(首投げをやろうとしているのか)
チョンボはつい投げられてしまった。
ジャイアントは連続技に移行する。
もそもそとヘッドロックにとられてしまったチョンボは泣きたい気分になった。十年前の苦い過去を引きずりながらも、「なんとかしなければならない」と思う。
(こんなんじゃダメだ。ダメなんだよ)
「心を鬼にしなければ」と思った。
ヘッドロックをかけられたた状態で無理やり立ち上がると、チョンボはジャイアントをロープに振った。
ジャンピングニーパットを繰り出した。
チョンボ・ヅルダの得意技であり、師匠であるジャイアント・パパの十六モンキックを参考に開発したオリジナル技である。
チョンボの膝が遠慮がちにジャイアントのあごをとらえた。
ジャイアントは安物のタバコにむせたような顔をして、前後に揺れながら片膝をついた。チョンボが普通にジャンピングニーパットを撃っていたら、この程度のダメージでは済んでいない。
チョンボは苦しむジャイアントを横目で見ながらも、拳を突き上げて「オーッ」と叫んだ。ジャンピングニーパットをきめた後はいつもこれをやることになっている。普段なら、観客も同じように「オーッ」と拳をつき上げてこたえてくれるはずが・・・。
場内から沸き起こったのは、これまでにない激しいブーイングと罵声の嵐だった。ゼニニッポンプロレスのナンバーワンヒール、国籍不明、実はブーチャン出身のアブラカタブラ・ダ・デブッチャ―でさえ、これほどのブーイングは浴びたことがないだろう。
(俺だって、こんなことやりたくないんだ。やりたくてやってるんじゃないのに・・・)
覚悟はしていたが、実際そうなってみると悲しかった。観客のあまりの反応に、チョンボはしばし愕然としてしまった。
ジャイアントはそのスキをついた。火事場泥棒のように抜け目のない、大ベテランならではのインサイドワークだった。「よいしょ」と立ち上がると、精神的にうちのめされているチョンボに「よっこらせ」とカワズガケを施し、「せーのーでー」とカワズオトシを放った。
(俺だってわかっているんだ。俺とジャイアント様とではあまりにも違うってことくらい・・・)
既に冷静さを欠いているチョンボには、直に叩きつけられてもなお、いつもとは違うリングマットの抜群の弾力に気がつかない。
ジャイアントは「どっこいしょ」とチョンボを起き上がらせると、また同じように手足を絡め始めた。
(でも、俺だってがんばっているんだ。精一杯、一生懸命がんばってやってるんだ。それなのに。それなのに・・・)
落ち込み、悩み、苦しんでいる黒パンの脇で、そんなことおかまいなしとばかりに、なんだかまだるっこしいことをやっている赤パンがいる。イライラしてきた。
「うっとおしいな! もう!」
おもいっきり投げ飛ばしてしまった。
バックロップ。別名 岩石落し。チョンボ・ヅルダ最大の必殺技。もともとは、鉄人、ルー・デースのものであった必殺技。チョンボはジャイアント・パパの後継者であるとともに、その才能を見込まれ、直々に鉄人の指導を受けることを許された、ただ一人の彼の後継者でもあった。故に、チョンボがこの技を用いた時のみ、“本物の”、“本格的な”、“ヘソで投げる”バックドロップと実況され、必殺技として―事実、それ相応の恐ろしいまでの破壊力も伴っていた―成立するのだ。
場内が静まりかえってしまった。
引き続き読んでやって下さいなまし。




