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スーパー・ジャイアンツ  作者: 荒馬宗海
10/17

sg10

というか、

すみやかに・・・。


それでは、お楽しみ下さい。



 運命のゴングが鳴った。

 まずは両者、お互いに円を描くように移動しながら、相手の出方を窺っている。ジャイアントは、遥か大昔に絶滅した巨大ペンギンをおもわせる猫背にベタ足で。チョンボは、まだまだ衰えぬ軽やかなステップを披露しながらいなすように。間合いを測りながら、あまり速すぎないように。

(気のせいかな。変に足が軽い。弾んでるみたいだ。地に足が着いてないのかな。緊張で)

 ジャイアントの動きが止まった。威嚇する熊のように両腕を振り上げている。

(組みたいのか?)

 弟子が師匠の意図を汲み取る。

 リングの中央でがっちりと組み合った。組み合うや否や、ジャイアントが仕掛けた。もたもたとなにかをしようとしている。

(なんだ? なにがしたいんだ?)

 あっけにとられているうちに、手首を取られた。背中にまわられ、腕を締め上げられていた。

(・・・遅い・・・)

並みのレスラーならば一秒にも満たないでやってのける一連の動作を、じっくりと、まるで手品のタネを詳らかにするようにやってのけたのである。

それでも、場内には感嘆の声が漏れている。なにしろ、あのミスタープロレスが二年ぶりに披露した、彼ならではの、彼にしかできないインサイドワークなのだから。

チョンボはしばらくそのままあっけにとられていたが、はっと我に返るなり、反射的にこれを振りほどいてしまった。

「しまった」

 ジャイアントに腕をとられたからではない。

(ジャイアント様が苦労してかけた技をこんなにあっさり外してしまってよかったんだろうか?)

 チョンボはつい先ほどしてしまったことを後悔していた。

 そんなことはおかまいなしに、ジャイアントは跳んだ。今度は手刀を大上段に振りかざし、師匠をおもわせる鬼の形相をしていた。

 ジャイアントの中では、この攻撃は奇襲であった。誰にも予測ができない、すばやいリスタートをきったつもりだった。しかも、いきなりの大技で。だが、対戦相手にとってはその限りではなかった。

 ノーテンカラタワケワリ(チョップ)。加えてジャンピングである。

(よけていいのか? よけてしまっていいのか?)

 迷っているうちに、結局はこの必殺チョップも喰らってしまった。喰らってしまったからには、いかに強力な打撃―威力があるのは事実なのだ―であったかを示さなければならない。

 苦しんでいるチョンボにジャイアントは追い討ちをかける。ダブルチョップ、ミミソギチョップ、そして、ギャクスイヘイ。予算の乏しい花火大会のような、有り余るほどにタメにある連打であった。オリジナルの必殺チョップの数々を、まるで禅問答のように、恐ろしい形相で打ち続けた。

 ひと段落ついたところで、ジャイアントはチョンボを捕まえるとロープに振った。左足を必死に持ち上げて相手が当たるのを待つ。

 十六モンキック。

 ジャイアントの得意技であり、代名詞ともいえる技である。

足の大きさを名前にしている打撃はおそらく世界中でたったの二つしかない。どちらも、ジャイアントの必殺技なのだが、靴のサイズと技の威力の間にはどのような因果関係があるのか? 一見、足のサイズはいかにキックの破壊力が強烈であるかを示しているように見えるが、少し考えれば明らかなように、実際はまったく逆である。同じ力を加えるのであれば、接地面積はより小さいほうが効果的である。つまり、足が巨大であるということは単位面積あたりの衝撃をいかに和らげているかを意味していることに他ならない。

この技の名前に込められているのはジャイアント・パパがいがに巨体であるかを示すのと同時に、崇高な理念と慈悲の心の表れであった。もし、ジャイアントの足がもう少し小さかったならば、彼のキックは対戦相手に対する殺傷能力をともなう。それはゼニニッポンプロレスの標榜する「愉快で陽気なプロレス」ではない。

 ジャイアント・パパはこう言いたいのだ。

「プロレスは終わりなき自己修練の場である。今日の敗北は明日の成長を促す。敗戦を今後の糧にするためには、敗者は生きていなければならない。すなわち、勝者は敗者を生かさねばならぬ。プロレスは殺し合いであってはならない。対戦相手を敬い、慈しまねばなければいけない。自らをいとおしむように」

 そういうジャイアント自身は負けたことがなかったのだが。そして、現在、この国で彼の敗北が容認できるのは、負けが許されない立場にいることを知らない当の本人だけなのだが。

 チョンボにこの大技をかわせるはずもなかった。巨大な靴底に魅入られているかのように、きっちりとあご先に喰らってしまった。

 リング上に大の字にならなければならない。

(これでいいのか? 本当にこれでいいのか?)

 チョンボの苦悩は続く。

 観客がどよめいていた。

「なんだ。どうしたんだ」

 上体を起したチョンボも驚かないではいられなかった。おじいちゃんの体を心配する孫の目をして見つめている。

(・・・飛ぶつもりなのですか?)

 ジャイアントは完全に背中をこちらに向けていた。なんと、コーナーポストに上ろうとしているではないか。一歩一歩着実に、踏みしめるがごとく。まるで、それはエスカレーターに乗ろうとしている、慎重な性格のおばあちゃんのようであった。

 チョンボにはなにをしていいのかわからなかった。ただ、そのままの姿勢で無防備な背中を見つめていた。

幼き日の記憶が蘇ってきた。



喜んでいただけていると嬉しいです。

御意見・ご感想等いただけると嬉しいです。


それではまた(多分)来週。

あ、今度はちゃんと日曜日に。

明日はちょっと忙しいもので。

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