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スーパー・ジャイアンツ  作者: 荒馬宗海
1/17

sg1

文字数が中途半端で、もし字数の問題をクリアできても、どんな賞に応募していいのかわからないような話なので、ここに発表させていただくことにしました。


興味を持って頂きありがとうございます。


宜しくお願い致します。


 頼れるものは己の肉体のみ。

リングタイツ一丁にリングシューズ。あとはせいぜいマスクにサポーターのみ。

大観衆の見守る中、いい年したごつい裸男たちが、汗にまみれ、血みどろになりながら、マットの上で絡み合う。

 リング。そこは男達の聖域。

 プロレス。それは常識を超越した異次元世界。


(勝っしまっていいんだろうか?)

第二専用控え室。

 男はパイプ椅子に腰掛け、思い悩んでいた。

黒いジャンパーにリングタイツ。膝には黒いサポーター、リングシューズも黒。右手にはボロボロの古いタオル。

(本当に勝ってしまっていいんだろうか?)

本名 ヅルダ・コウジ・ドモミ

リングネーム チョンボ・ヅルダ

(あまりにも偉大な“あの方”に・・・)

 ゼニニッポンプロレスのナンバーツー。怪物。不世出の天才レスラー。八十パーセントの力で勝つ男。“あの方”の愛弟子にして、タッグパートナー。ポスト“あの方”。若大将、後継者、次世代のエースと呼ばれ続けて、はや四半世紀。

(十数年前までの“あの方”は間違いなく地上最強、いや、史上最強の男だった。だけど・・・、だけど今は・・・、今は必ずしもそうじゃないんだ・・・)

 チョンボは頭を抱えて苦悩する。

(みんなは信じられないかもしれないけど、違うんだ。俺にはわかるんだ。相変わらず強い。まだまだすっごく強いんだろうけど、そんなもんじゃないんだ・・・。本当の“あの方”は・・・。残念だけど、とっくの昔に過ぎているんだ。全盛期は・・・。とっくの昔に・・・。“あの方”に限って、そんなこと、あるはずがないんだけど・・・)

 チョンボは立ち上がって洗面台に歩み寄ると、両手をつき、鏡の中の自分をがっと睨みつけた。その眼光は格闘家としての精悍さを欠き、その肌はプロレスラーとしてのツヤとハリを失っていた。

「これが、これから神聖なリングに立とうという者の姿か・・・」

 チョンボは自らのやつれように、しばし唖然とした。

この日の対戦カードが決定してからというもの、休息は睡眠薬に頼り、失った食欲は点滴と各種ビタミン剤で補ってきたつもりだった。が、やはり、心労による衰弱は、そんなものでは到底補いきれるものではなかったようだ。

(・・・俺は勝てるだろう。いや、まともにやれば、勝つだろう・・・。勝ってしまう・・・。勝ってしまうんだ・・・。間違いなく・・・)

 チョンボは俯いて、自分から眼を逸らせた。

(・・・俺なんかが勝ってしまっていいんだろうか? 偉大過ぎる“あの方”に。引導を渡してしまっていいのだろうか)

 身内であるチョンボでさえ、心のどこかで、“沈まぬ太陽”の存在を信じて疑わないところがあった。

 邪念を追い払うように頭を強く振った後、チョンボは顔をあげた。

「駄目だ。駄目なんだ。俺は勝たなきゃ駄目なんだ」

眼に力を込めて、再び鏡の中の自分を睨みつけた。

「勝たなくちゃいけないんだ。人民はともかく、“あの方”だって、それを願っておられるに違いないんだ」

 チョンボは自らを励ますように声をはった。

「今度こそ、世代交代を成し遂げなきゃいけないんだ」

 一方では、もう一人の自分が耳元で囁く。

(それなら、十年前にどうしてお前は負けたんだ)

 握りしめたタオルをあらためて見つめる。

「十年前の失敗を二度と繰り返してはいけない・・・」

 この日、何度目かの思い切りがついたところで、リングタイツのちっぽけな変色にチョンボは気がついた。それは半乾きになった小便の染みだった。

「・・・俺だってもう若くはないんだし・・・」

チョンボ・ヅルダ 四十九歳

リングシューズの紐を結ぶのにも、実は試合の度に苦労している。

 チョンボもまた、激闘につぐ激闘の日々を、三十年近くにわたって生き延びてきた歴戦の猛者なのだ。常人ならばその場で即死してもおかしくないような重傷を幾度となく負い、幾多の死線を踏み越えてきた男なのだ。これまでに蓄積されてきたダメージは、日常生活にも影響をきたす程、深い爪痕を残している。それでもなお、チョンボは今日もリングに上がる。




今後も毎週日曜日に少しずつ投稿してゆくつもりです。

今後もお付き合いいただけると嬉しいです。

ご意見ご感想等いただけるとありがたいです。

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