俺たちが召喚された理由
俺が目を覚ますとそこには……
ザ・王様みたいな人が玉座みたいな所に座っていた。うわぁ想像通り。めちゃめちゃ王様じゃん。今すぐにでもおっほんとか言いそうじゃん。しかもここ、なんかすげーテンプレ通りの大広間じゃん。
なんか目の前に王様が座ってて、
その近くに小さな女の子が立ってて、
両側に兵士さんみたいな人達がずらーって並んでて、
足元にはレッドカーペット。
なんかこの光景見たことあるわ。具体的な作品は出てこないけど見たことあるわ俺。
「なあ空、界人、俺らなんか凄いところに来ちまったんじゃねーか?」
「そうだね龍二くん、ここ、どこだろう」
「まあ俗に言う、異世界ってところだろうな。もうそろそろあの王様っぽい人が説明してくれるだろ」
だってほら、だんだん王様の手が口元に近づいてってるもん。おっほん準備完了だもん。と言うか本当におっほんって言ってる人見たことないし、本当に言ったらかなりレアじゃね?
「おっほん」
おぉ!本当に言った!生のおっほんは初めてだわ!
「わしはこのアシリア王国国王のハンバム・ゼアータだ。まずはわしの孫であるザシアの呼びかけに応じてくれたこと、本当に感謝する」
「おい空。俺らそんなことしたっけ」
「いや。多分あのときのだろうな」
多分というか絶対ホームルームの時のあの声だよな。みんなも薄々気づき始めたらしく、なんともいえない顔をしてこちらを見てくる。え、あれって俺のせいか?いやあれはタイミングの問題だろ。なら俺のせいじゃなくて、あのタイミングで号令させた紫苑先生のせいだろ。まあその本人はなんかすげーまぬけな顔して辺りを見回してんだけど。
「おっほん」
あ、また言った。
「では、早速だが本題といこうか。まずお前らをここに召喚した理由についてだが……」
いやお前らて。勝手に召喚しといてずいぶん偉そうだな。まあ誰も気にしてなさそうだからいいけどさ。
「それは私から説明させていただきます」
おぉ。こっちの女の子はわかってるじゃないか。
「私はこのアシリア王国の王女、ザシア・ゼアータです」
あ、王女様でしたか。わかってるとか言ってすいません。
「まずはこの国についてですが……」
ここからゼシア様の説明が始まるのだが、これがとてつもなく長い。本当に長い。もう映画一本くらい見れるんじゃないかと思うほど長い(さすがにそれは盛りすぎたかもだけど)。しかもほとんどテンプレ通り。もうびっくりするぐらいテンプレ通り。でも若干違うところもあるので、俺がまとめておこう。
曰く、この世界には魔王という物が存在するらしい。そしてその魔王の率いる軍隊。通称魔王軍と呼ばれる奴らの動きが最近活発化してきている。そこで何か解決策をと考えているとき、なんか伝説級ダンジョンとやらのことを思いついたらしい。いやもうほとんどテンプレじゃん。伝説級ダンジョンを除けばだけど。
「では次にダンジョンについて説明します」
おお。それめっちゃ気になってた。でももうちょい短めの話でお願いします。
「この世界には数々のダンジョンと呼ばれる物があります。ただ、一口にダンジョンといっても様々な種類があって、難易度もそれぞれ違ってきます。難易度は基本的には三つで、初級、中級、上級となります。しかし、一部例外が存在します。それが伝説級です」
うん。なんとなく分かった。でもずいぶんぶっとんだな。上級からの伝説級て。途中もっとなかったのかよ。
「伝説級とは、その難易度故に、かろうじて存在はわかるもののまだ誰もクリアしたことがなく、全貌も把握しきれていないようなダンジョンです。現在八つのダンジョンが確認されていますが、これですべてかどうかもわかりません」
はいはい。よくあるやつね。
「そして皆さんにはこの伝説級を完全攻略していただきたいのです」
いや何言ってんの。今この世界に来たばっかりの俺たちにそんなこと出来るわけないじゃん。
「なんで私たちがそんなことしなきゃいけないんだ?」
よくぞ聞いてくれた、さすが我らの紫苑先生。でもせめて王女様には敬語使お?ほらもう。両側の兵士さんたちにめっちゃにらまれてるから。目が怖いから。
「そうですね。これはこの国に伝わる伝説の話からしなければいけません」
おお、異世界っぽくなってきたじゃん。
「話すと長くなるのですが――」
え、長くなるの?ただでさえ長い王女様の話が?ということでまとめるとこうだ。
これはこのアシリア王国が出来る以前の話。
ある一人の男がいた。その男はある村に住んでいたのだが、ある日その村は魔王軍による侵略を受けた。特別強いわけでもなかったその村は一夜にして闇に葬り去られた。ある一人の男を除いて。その男は魔王軍が次々と村のみんなを殺していく光景を見て憤怒した。そして覚醒した。覚醒後の男の戦力はすさまじく、侵略してきた魔王軍ですら恐怖のあまり逃げ帰ったとのことだ。そこで男は魔王への復讐のための旅を始めた。しかしその旅の途中、己の強さの限界に気がついた。何せ元はただの村人なのだ。いくら覚醒したとは言っても限界は来るだろう。そこで男は自分に残された力を使い、ダンジョンを作った。そしてその最下層に魔王を倒すために必要な物を隠したという。そのダンジョンのクリアに必要な条件は覚醒していること、またはこの世界の住人でないこと。
「今までこの王国には、この伝説だけが代々伝わってきていました。しかしこの伝説にある覚醒は、そう簡単にできることではありません。それに、ここにあるこの世界の住人でないことは長い間意味が分かっていませんでした。」
まあ普通に考えて、他の世界があるなんて考えもしないだろうしな。
「しかし私がこの《召喚》の力に目覚めてからやっと他の世界が存在することが分かりました。そこで、他の世界から誰か呼んでみようということになったのですが、さすがに無許可で勝手に呼ぶのは悪いだろうということになって一応確認をとり、はいと答えていただいた方々のみ召喚することとなったのです」
うんうんなるほどな。一応許可な。じゃあ次はタイミングも気にしような。俺たちに許可とかほとんど意味なかったからな。それと……
「でもその理由なら、別に私らが手伝うかどうかは私らの勝手だろ?正直言ってこの国がどうなろうが私たちには関係ないし。手伝うメリットも特に感じられないし」
うん、先生。言いたいことは分かる。でも敬語!敬語使えよ!兵士さん達の目が!ついでに王女様の目つきも心なしかだんだん悪くなってる気がするし!
「メリットですか。確かにあなたたちにはメリットがないと言えるでしょう」
「じゃあ私やんな―い。早く日本に返して-」
おい先生!ああもう王女様キレたわ。なんかもう顔が凄いことになってるわ。
「無理でーす。私召喚の方法は知ってるけど返す方法は知らないので無理でーす」
ほらもう言葉づかいが凄いことに……って、え?
「返し方知らないんですか?」
「ええ、知りませんよ」
「本当に?」
「本当に」
「先生がウザすぎて意地張ってるとかじゃなく?」
「意地張ってるとかじゃなく」
「じゃあ俺たちはどうやって日本に帰ればいいんですか?」
「そのにほん?って場所かはともかく伝説級ダンジョンのクリア条件にこの世界の住人でないことと書かれてますし、伝説級の最下層にでも行けば分かるのでは?まあ行きたくない人もいるみたいですけど?」
その節は本当にすいませんでした!でも当の本人は何も気にしてない様子……ってそろそろ気にしろよ!この世界来た原因の時もそんなんだったけどさ!
でもまあそんなこと言われたら伝説級攻略するしかないじゃん?だって、俺だって早く日本帰りたいし。風花の顔早く見たいし。
みんなも俺と同じ思考に至ったようで、仕方ねえかみたいな顔をしている……おい先生。そんな露骨にいやそうな顔をするな。
そんなこんなで俺たちは伝説級の完全攻略を目標に進んでいくことを決めたのだった。