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3

 アサギは、ロッタをチラリと見る。


 長い付き合いで彼女が今どんな気持ちなのかは、聞かなくてもだいたいわかる。


 これ以上無いほど落ち込んでいる。いや、追い詰められているといったほうが正解だ。


 王宮メイドは当たり前だが女性だ。そして古今東西、女性が集まれば何かと陰湿な揉め事がある。それは水面下で行われることが殆どで、表沙汰になることはめったに無い。


 ロッタは身分を偽ってこの王宮に入った。

 女ばかりの職場では、そのせいで気苦労も多いだろう。

 ……いやまて、気苦労ならまだ可愛いが、イジメにでもあっているのではないか。


 それとも、考えたくはないが色恋沙汰で悩んでいたりとか。具体的に言えば、身分違いの男を好きになってしまった……とか?


 再びアサギはロッタを見る。

 一房溢れたラベンダー色の横髪が、少しやつれた頬にかかって妙に艶めかしい。


 それを食い入るように眺めた結果、アサギは後者の方に結論付けた。


「ロッタ、なにかあったか?」

「まさか。何も」


 案の定、ロッタは誤魔化しやがった。


 アサギは内心舌打ちする。しかし、今日は絶対に引く気は無い。


「そっか。ところでさ、ロッタのご両親と弟君からの手紙預かってきたんだけど、さ」

「本当!?ありがとう───……って、何すんのよ!」


 差し出された手紙を受け取ろうとした瞬間、ひょいとそれはロッタの視界から消えた。


 アサギが手紙を持ち上げたのだ。しかも長身の彼が腕を高々と上げてしまえば、ロッタは背伸びしても、飛び跳ねても届かない。


「地味な嫌がらせはやめてよね」

「やだね」

「なっ。……アサギ、いつからそんな性格になったのよ。いや……前からか。ああっ、そんなのどぉーだって良いっ。とにかく手紙! 私には今、癒やしが───」


「必要なんだよね。こんな紙切れに縋りたいほど」


 ロッタの言葉を引き継いだアサギは腕を降ろすと、手にした手紙を突き出した。


 でもロッタは受け取らない。


 バツが悪そうにアサギから視線を逸らして下を向く。


「ロッタ、何があったか話して」

「……アサギに話したところで……あっ、別に何でもない」

「どうにもならないかは、こっちが決める。とにかく話して」


 強い口調で言われ、ロッタは観念した。


 それに本当は、誰か……信頼できて自分の話にちゃんと耳を傾けてくれる人に聞いて欲しかったのだ。


「実はね、私……」

「うん」


 優しく続きを促してくれるアサギに勇気付けられ、ロッタは本題を切り出した。


「私、8日後に陛下の夜伽を務めることになったの」


 瞬間、アサギは半目になった。

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