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 くったりと意識を手放そうとするロッタは、誰がどう見ても現実逃避をしようとしている。


 しかし、そうは問屋が卸さない。


「おい、ロッタ。気絶するのは構わないが、そうしたらキスするぞ。っていうか、今すぐするぞ。良いんだな?いや、良いと思うことに───」

「おはようございます! アサギさんっ」


 アサギの言葉を遮るように、勢い良くバチっと目を開けたロッタだったけれど、その表情は行く手を塞がれた子ウサギのようだった。


「……そんなに俺とキスすんのが嫌なのかよ」


 拗ねるというよりは、痛みを堪えるような苦し気な表情を浮かべるアサギを見て、ロッタの眉がへにょっと下がった。


「ごめんなさい。そうじゃなくってですね」

「嫌じゃないなら、するぞ」

「いやいや、待って下さい、アサギさん。物事には順番と言いますか……その……段取りがありまして……ですね」

「今は、結構良いシチュエーションだと思うんだけど?」

「……ははは」  


 確かに、現在ロッタはワタワタと暴れた結果、アサギの膝の上にいる。そしてぎゅっと抱きしめられている状態だ。


 しかもその相手は、嫌い……どころか、家族同様に大切な人で、その人から今しがた好きだとまで言われた。このままチューしない方が、おかしい流れである。


 だが、アサギの事を長年幼馴染という認識でいたロッタは、諸々の事情を知った今、すぐには気持ちが切り替えられない。


「猶予を与えてはいただけませんかね?アサギさん」

「はっ」


 鼻で笑われてしまい、ロッタは涙目になる。


 次いで掠れた声で、「……お願い」と囁かれてしまえば、アサギはロッタの願いを叶えることしかできなかった。


「わかった。だけどなロッタ……お前は、俺にとんでもなくえげつないお願いをしたことだけは自覚を持てよ」

「……うん」


 内心「そうかな?」などと思っているロッタではあるが、頷くことが最善の方法であることは知っている。


 そしてアサギが腕を離してくれたのを見逃すことはせず、ネズミもびっくりするほどの素早さでアサギの隣に着席した。


「で、猶予っていつまでかな?ロッタさん」

「うっ」


 咄嗟に出た言葉を追及するアサギの目は真剣だった。


 一度は呻いてしまったロッタであるが、このままあやふやに流してもらえる気配は皆無だということを悟り、なんとこさ口を開く。


「実は新人が入ってですね……私、結構忙しいんですよ」


 庭でサボっていたくせにと言われたら、返す言葉が見つからなかったが、幸いにもアサギは「そっか、そっか」と素直に同意してくれた。


 妙に理解あるアサギの態度に、ロッタはここで怪しいと思わなければならなかった。

 

 けれど、追及の手を緩めてくれたことに、ただただホッとしてしまい笑顔を浮かべてしまう。


 アサギもつられるように笑う。


 けれどその笑みは、片方の口を持ち上げた意味深なものであった。

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