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ロッタ宛の手紙には、かいつまんで説明するとこのようなことが書かれていた。
一通目は父から。
『娘が生まれた時点で、覚悟はしていた。どうか幸せになっておくれ。ただ万が一、相手が不貞行為をしたなら、父は海を飛び越えて、制裁しに行く。例えアサギ君が異国の王子とて容赦はしない』と。
二通目は弟から。
『寂しいけれど、おめでとう。姉上の仕送りのお陰で、医師になる道を捨てずにすみました。どうかこれからは姉上は自分の幸せだけを考えてください。アサギさんは僕にとって兄のような存在でした。そんな彼が義理とはいえ本当の兄になるなんて嬉しいです。異国の王子とは驚きでしたがwww』
三通目は母から。
『玉の輿やったわね!あんたは昔からやればできる子だと信じていた。でも、仕送りはもう要らない。これからは、アサギ君に甘えて身の程を弁えた贅沢三昧の暮らしをしなさい。王子さまの元に嫁ぐっていうけれど、無駄遣いは駄目ですよ。あと式の後、かなり痛いけれど、耐えなさい。異国の作法はわからないから適切なアドバイスができなくて、ゴメン!でも、あんたはやればできる子だから』
3回読み直してみたけれど、ロッタは、まったくもって意味がわからなかった。
しかもこの手紙すべてに『アサギ』『異国』『王子』という単語が並んでいる。
ロッタは両親と弟が生活が困窮するあまり、都合の良い夢でも見てしまったのか、はたまた、危険なドラッグに手を出してしまったのかと、本気で心配している。
「...... 仕送り、足りなかったのかなぁ」
母も弟も、今後は仕送り不要と手紙に書いていたが、それはやせ我慢なのかもしれない。
国王陛下から賜った褒賞金は全額両親の元に送ったけれど......、それでは足りなかったのだろうか。医師になるには、それ相応の学費がかかる学校に行かなくてはならないし。
それとも、自分には言えない何か重大なトラブルに巻き込まれてしまったのだろうか。
......などということをロッタは、アサギに抱きついたまま語った。
返ってきたのは「こりゃたまらんっ」と言った感じの、笑い声だった。
「アサギ、いつから人の不幸を喜ぶような人間になったのよ」
ジト目で睨むロッタに、アサギは無言でポケットからとある物を出した。
ロッタは訝しそうに目を細める。だが、それが何か気づいた途端、ひぃっと小さく悲鳴を上げてアサギから離れようとする。
けれど、こうなることを予期していたのだろう。アサギは、ロッタの腰に手を回してそれを阻止した。
「はじめまして、シャルロッタさん。わたくしムサシ国第14王子アサギと申します。素敵な悲鳴で歓迎してくれてありがとう。─── 暴れるな。もう逃がさないぞ」
アサギがロッタに見せつけたのは、賓客を表す紋章。
王宮メイドなら知識として誰もが知っている。例に漏れず、ロッタとて。




