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7

 つい先ほどの出来事を思い出して一人ほくそ笑んでいたアサギだったが、ここは王宮の庭の中途半端な場所。


 だから、未だにぎこちない笑みを浮かべるロッタの手を引いて歩き出す。


 これからの時間は、誰にも邪魔されたくなかったから。


 アサギが足を止めた場所は、良く陽が当たる木蓮の木の下だった。まだ開花には早い時期だが、すでに小さな蕾がある。


「ま、とりあえず座ろっか」

「うん」


 花壇と一体化したベンチにロッタが着席したのを見届けてから、アサギも座る。


 次いでコートの内ポケットから3通の手紙を取り出した。


「はい。遅くなって悪かったけど、ご両親と弟さんから手紙預かって来たんだ」

「やったぁー。アサギ、いつも、ありがとうっ!」 

 

 ぱぁっと笑顔になったロッタに”家族の手紙を見せた途端にこれかよ”と、アサギはちょっと拗ねたくなる。


 苛立ちのあまり、思わずそれを前回と同様に取り上げてやろうかとすら思ってしまう。


 だが、理性を総動員してアサギはロッタの小さな手に3通の手紙を乗せた。


 澄み渡った空に、小さな雲が一つ流れていく。

  

 足を投げ出した格好でアサギは、それをぼんやりと見つめている─── という体を貫いている。


 でも内心、バックバクの状態だ。

 手袋に包まれた手のひらは、自分でも笑ってしまうほど汗ばんでいる。


 それもそのはず。


 今回の手紙の内容を、アサギは盗み読みしたわけでは無いが、知っているから。

 そして読み終えたロッタがどんな対応をするか、不安で不安で仕方がないのだ。


 例え、リンフィーザ国の国王陛下の夜伽の最中に乱入して『コロス』と脅しても、例え、同じくリンフィーザ国の王妃に『一生、生き地獄を味わってもらう』と遠回しに伝えたとしても、好きな女の子の前では、ただの弱気な青年になってしまうのだ。


 緊張のあまり胃がキリキリし出したアサギなどお構いなしに、雲はのほほんと流れていく。


 そんな中、ロッタが一通目の手紙を読み終えた。…… 首を傾げて2通目を手に取る。

 次いで、2通目も読み終えると、今度は頭痛を覚えたかのように、こめかみを押さえた。


 最後の三通目を読み終えた途端、ロッタは空を見上げて『……神よ』と呟いた。


「……ねえ、アサギ」

「どうした、ロッタ」


 そしらぬ顔をしてアサギが続きを促せば、突然、わっとロッタが飛びついてきた。


「どうしよう……アサギ。わ、私の家族が……壊れた」

「はぁ?!」


 100通り以上のシミュレーションを重ねたアサギであったが、このロッタのリアクションは想定外であった。

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