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「いたいた! 探したよ、ロッタ」

「...... あー、アサギかぁ」


 振り返ったロッタは声と同じくテンションが低かった。


「ん? どうしたの?」


 不思議そうに首を傾げるアサギに、ロッタは溜め息を吐くことで返事とする。


 そうすれば、ますますアサギは首の角度を深くした。


「陛下からの褒賞金が少なかったのかい? それとも女官長に叱られた? ...... まさか、この前の一件で誰かから嫌がらせでも受けてる?」


 最後の質問は、ぞっとするほど低い声だった。


 けれどロッタは怯えることなく、首を横に振る。


「いや、全部違う」


 陛下からの褒賞金は、思わず頬が緩んでしまうほどの大金だったし、女官長が怒りっぽいのは今に始まったことじゃない。


 それにあれだけ騒いでいたメイド達は、夜伽を終えた後は誰もことの詳細を聞いてこない。何事のなかったかのように、ロッタに接している。夜伽の「よ」の字も出てこないことに不自然さを覚えるほどに。


 しかも王妃が懐妊してからは、妙にメイド仲間達はロッタに優しい。やれ、お菓子をあげるとか。やれ、当番を代わってあげるとか。


 腫れ物に触るような対応に、正直薄気味悪さすら感じてしまう毎日なのだ。


 でもこれが気落ちしている原因では無い。


「じゃあ、何でそんなに元気がないんだ? もしかして体調でも悪いのか? ならこんなところに居たら駄目じゃないか」


 しっかり防寒着を着込んでいるアサギは、慌てて自分のコートを脱いでロッタの肩に掛けようとする。


 それをロッタは片手で制して口を開いた。


「なんかねぇ、元気がないのは認めるけど、それは気持ち的な部分だから安心して」

「うん、そっか。ひとまず安心した。で、なんで元気が無いの?」

「それがわからなくって......」

「そりゃあ、困ったなぁ」


 肩を落として項垂れたロッタを目にして、アサギは困ったように眉を下げた。


 けれどすぐに「ここは寒いからあっちで話そう」と言って、ロッタの手を引いて歩きだす。


 手袋越しにアサギの熱が伝わり、かじかんでいた指先が温まる。大きな手にすっぽりと包まれて、ロッタはアサギが異性なのだと改めて気付いてしまった。


 そして、ここでもう一つ気付いてしまった。


 連日連夜、もやもやとしていたその正体が何かということを。


「私、わかった」

「はぁ? なにが?」


 足を止めて宣言したロッタに、半拍遅れてアサギも足を止める。


 次いで首を捻って背後にいるロッタを見つめた。


「あのね、私がずっともやもやしてたのは、アサギのことを考えていたからだ」

「......っ」


 不意を突かれたアサギは、思わず手の甲で口許を隠した。


 でも赤面する頬までは、隠すことができなかった。

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