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そもそも、ロッタは粉薬を使って国王陛下を不能にしようとしていた。
そして、使い物にならなくなったそれを目にして大袈裟に驚き狼狽え、国王陛下にとある提案をしようとした。
まさにそれこそが”王妃に一泡吹かせる”為のもの。
つまり、だ。
国王陛下が現在進行形で不能であれば問題ないのだ。
「…… まず陛下、わたくし驚きのあまり失礼な態度を取っておりました。お詫び申し上げます」
「いや。それより秘策とは?」
ソファに座り直してくれた国王陛下は、半信半疑といった感じで本題を早く聞きたい様子だった。
ロッタは、わざともったいぶって咳ばらいをする。
そして、ちょっとだけもじもじとする。
この仕草もアサギの計画の一部。さらっと伝えるより、焦らした方が効果が高い……そうだ。
あと計画を続行する為には、少々確認しなければならないことがある。
「その前に陛下、少々確認したいのですが、よろしいでしょうか?」
「構わない。だが手短に頼む」
「かしこまりました。では、陛下が男性としての機能が冬眠しているというのは、側室の皆さまはご存知ないということで?」
「そうだ。マルガリータから差し出された女性達はこれまでは事前に顔合わせがあった。そこで、容姿が好みではないとか、仕草が気に入らないとか、方角が悪いとか、適当な理由を付けて拒み続けてきた」
方角ってなんじゃ?
と、ロッタは思ったが別段どうでも良いことだったので、言葉を続ける。
「さようですか。王妃を想っての行動すばらしいと思います。ですが、陛下……」
「なんだい?」
「このままでは陛下が隠し続けている男性機能の件、気付かれるのは時間の問題です」
「そうだ。だから、私は焦っている。君の秘策を知りたい」
急かす国王陛下は、もう疑いの目をロッタに向けていない。
語るなら、今だ。
ロッタは自分自身にGOサインを出した。
「では、これから話すことは他言無用でお願いできますでしょうか?」
「もちろんだ」
「王妃にも……と、お約束」
「する。誰にも話すことはしない。だから、早く」
苛立ち始めた陛下は、貧乏ゆすりを始めている。巨額の富があるというのに。
対して没落令嬢であるロッタは、姿勢を正し悠然とした笑みを浮かべ口を開いた。
「まず、夜伽とは互いの愛情を確認しあえる大切な時間でございます。ですから、愛情の無い女性を抱くことは男性として苦痛を伴うものでしょう」
「まさにその通りだ」
「そして……王妃に拒まれた場合も……同じく」
「なぜ君は手に取るように私の気持ちがわかるのだ?」
いや、知らん。
ロッタは心の中で即答した。
予期せぬトラブルのため多少はアレンジを加えたが、これはほとんどアサギが決めた台詞だ。ロッタはただ暗記して復唱しているだけ。
でも、それを馬鹿正直に口に出すほど、ロッタは愚かではなかった。




