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7

 アサギから子犬よろしく頭を撫でられ『可愛い』を連呼されること12回。


 さすがにロッタも限界を迎えた。


「そろそろ、手を離して。アサギ」

「すまん。つい……」

 ─── 可愛くて。


 最後の一言は声に出さずに飲み込んだアサギだったが、3回目の『可愛い』からは、ロッタ自身に向けて紡いでいた。


 でも、ロッタは自分の発言に向けてのコメントだと信じて疑わない。


 そして主張はしてみたものの、これという策が思い浮かばず深々と溜息を吐いた。


「実は私、髪の色がグリーンだったっていうのは……」

「採用当初から欺いていたってことで、虚偽申告罪で投獄だな」

「だよね。じゃあ実は私、男ですってことでは……」

「これまで一度も同僚のメイド達に裸を見せたことがないなら、いけるが?」

「見せた。ついでに胸揉まれた。……無理」

「馬鹿野郎。揉ませんなよ」

「仕方がないじゃん。これは女同士のコミュニケーションなんだから……じゃなくって」

「ああ」

「……駄目だ。全然名案が浮かんでこない」

「だろうな」


 頭を抱えるロッタに対して、アサギは大変不満そうであった。


「なぁ、ロッタさん」

「なんですか、改まって。アサギさん」

「君は俺のことを何だと思っているんだ?」

「大事な人ですが……何か?」

「……頼むから、不意打ちはやめろ」


 アサギはほんの少し耳を赤くしてコホンと咳ばらいをした。


「俺は、唯一東の島国人で、この王宮での商談を許されている敏腕商人だ」

「そんなの、知ってるよ」


 さらっと答えたロッタに、アサギは『鈍いっ鈍すぎるっ』と唸る。だが、ここで無駄な掛け合いはしたくない。


 なぜなら、おさぼり目的のメイド達の声が近づいているから。


「ロッタ、俺を頼れ」

「……は?」

「俺はこの窮地を救える秘策がある。今はちょっと思案中だが、ロッタの一泡吹かせたいという希望を叶えてやれる。絶対に」

「いやでも、今、思案中って……」

「物事には準備が必要なんだ。案は出ているが、諸々の準備は今からってこと。で、頼れ。ロッタがうんと頷いてくれたら、商談成立だ」

「……う」


 ”商談成立”って言う言葉がやけに引っ掛かるが、それでも今回は自分の力ではどうすることもできない。


 アサギの力を借りなくては、家族全員死ぬ未来を避けられない。


 だからロッタは、うんと小さく呟いた。


「おっし。言質は貰った」

「なんか物騒なこと言ってますが、アサギ…… 悪いけど私、そんなにたくさんお金持ってないよ」

「知ってる。今回は後払いで良い」

 

 タダとは言わないアサギは根っからの商人だと、ロッタは呆れた。


 でも彼の仕事ぶりは常に高評価だ。それに仕事と割り切って動いてくれる方が、ロッタは助かる。…… 後の請求が怖いけれど。


 そんなふうにちょっとだけ怯えるロッタを残して、アサギは『じゃあ、3日後にここで!』と言って踵を返してしまった。


 ロッタはアサギを引き留めようとしたが、すぐに同僚のメイドが姿を現し、手を引っ込めた。


 そして今日もロッタは、夜伽のあれやこれやの質問攻めを受けてしまった。 

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