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ep.20

真夏の青空の下、蝉のこれでもかという程の鳴き声に苛立ち、ペタンコの何も入っていないカバンを肩に担ぎ、とうに登校時間を過ぎた校舎に向かう一人の男子生徒の姿があった。

「…ッチ!」

停学がとけ、久々の学校だが厳しい暑さにまた苛立つ。

「…ッチ!」

そして再び舌打ちしながら、靴に履き替えダルそうに校舎へ入っていった。



「ぶぁあづぅい〜、蒸しぶぁあづぅい〜。」

薫が留学してから一週間がたち、薫の居ないやっと雰囲気にも慣れ始めた頃、夏の気候に公平は嘆いていた。

屋上にあるプレハブで作ってある部室には、もと倉庫だけに冷房器具は一切なくしかも周りのコンクリートの照り返しに、部屋の中はサウナ状態になっていた。そんななか、公平は机に溶けるようにうなだれていた。

「ぶぁあづぅい、ぶぁあづぅい、ぶぁあづぅい…。」

「ちょっとうっさいわよ。」

サー○ィワンのアイスを食べながら咲が言った。

「あー、なに一人だけいいもん食べてんだよ。俺も食べたーい!食べたーい!」だだをこねる公平の背中に、アイスを食べていた咲がさっと素早く何か白い物を投げ入れた。

「…冷たっ!!ってか痛い!え、なに!?冷たい、痛い、いめたい!!」

背中に入れられた異物にあたふたしながら、シャツをズボンから出した。すると、中から白い固形物が出てきた。…白い煙をに包まれた。

「なんだ…ドライアイスか〜、優しいなぁ、咲様。俺の為にわざわざ冷たいドライアイスをそっと背中にって、火傷するじゃね〜か!!お前はツンツンか?

ツンデレのデレがないツンツンなのか?」

顔を真っ赤にし背中をさすりながら、踊り狂う公平。「いや、欲しいって言うから。」

スプーンでアイスをすくい、咲は涼しげにそれを口へと運んだ。

「このツンツン娘!」

「いや、ツンツンって…なんだよ。」

「おいおい、ツッコミにキレがないぞぉハルキ!」

ハルキの返しに、公平が両腕を組み真面目な顔をした。

「お前はただでさえキャラがフツーなんだから、ちゃんとツッコミを入れなきゃ。」

「…キャラがフツー。」

そう呟くと、ハルキはムクッと立ち上がり公平を背にしゃがんだ。そして、そのままうずくまってしまった。

「ちょっ、おいハルキ?もしかして落ち込んだ?ゴメンゴメン!いや、ハルキはフツーじゃないって。なんていうか、アレだよ、アレ…なんていうか。」

言葉が見つからず、しどろもどろになる。そしてそれが生み出す沈黙がかえってハルキの心を締め付け、また落ち込んでしまった。

「だぁーもう、ゴメンゴメン!いや、ハルキがフツーじゃなくて俺らがおかしいんだよ。」

あたふたしながら言い訳を重ねる公平。そんな騒がしい状況の中、部室のドアが開いた。

「お前ら何やってんだ。」

蔵田が呆れ顔で入ってき、ドアを閉めた。シャツの第一ボタンは開けられており、袖は捲り上げられていた。

「おい先生いいのかよ、そんなに着崩して。服の乱れは…この世の乱れだ。」

「俺の服装にそんな大それたモンはかかってねぇよ。」

「お〜、さすが先生!ツッコミをバシッと決めてくれるぜ!」

「そんなことはどうでもいいんだ。」

軽く公平をあしらうと、蔵田がばつが悪そうな顔をした。

「今日教頭から言われたんだが、お前ら薫が抜けて3人だろ。」

確かに今まで4人だったが、薫が抜け3人になった。

「でだ、お前らは軽音部として一応活動してるが。3人じゃ、部活としての活動を認められないんだ。」

その言葉に、うずくまっていたハルキが立ち上がった。

「じゃあ、この部室はどうなるんですか?」

「…まぁ、没収だな。」

みんなのの動きが固まった。咲のスプーンからアイスが滴り、制服に落ちた。

「…なんだと〜〜!!!」

3人の叫びが真夏の空に響きわたる。





「部室没収か〜。」

ハルキがため息混じりにうなだれる。

「まぁ、でもあと一人入ればいいんだろ。」蔵田の話はこうだった。



「この学校は部の認定には最低4人必要なんだ。だから、今のままだったらお前らは部活として認められず同好会になる。」

「別に同好会でもいいんじゃないの?ギターとベースとドラムがあればバンドはできるし。」

咲がスカートに着いたアイスを拭き取りながら言った。確かその3つがあればバンドとしては十分成り立つ。

「まぁ、そうなんだが。ウチは文化部は最低4人は必要なんだよ。」

「そうだ!バンドとしては成り立つんだからそこんとこなんないのかよ!」

突っ掛かる咲と公平に、

「まぁ、俺もそうは言ったんだが。他の部との兼ね合いもあるし、お前ら薫を送り出す為に無断で演奏やっただろ。」

「あっ。」

ハッとした。確かに先日3人は薫の為になんの許可もとらず演奏した。

「先生達中にはあれを快く思ってない人もいるんだよ。だから、これ以上勝手を許してはいけないという意見も出てる。」

厳しい現実に3人は黙ってしまった。ただでさえ、薫が去ってしまったのに部室までも失ってしまうのか。「だが。」

沈黙のなか蔵田が口を開いた。

「方法がないわけじゃない。」

その言葉にハルキ達は、反応した。

「なんですか、その方法って。」

ハルキが尋ねた。

蔵田がニカッと笑い言った。

「もう一人誘えばいいんだ。」





「とは言ったものの。」

咲がポケットに手を突っ込み顔をしかめた。

3人は蔵田に言われた通り勧誘に出て、今は廊下を歩いていた。

「もう7月よ。大抵の新入生は部活にとっくに入ってるわよ。」

と不満を呟く。

「だよなぁ。しかも俺ら2人の時も相当苦労したし。」

「そうだよな。薫と咲が入ったのは奇跡みたいなようなもんだし。」

「だよなぁ。」

やはり、簡単にもうひとりとはいきそうにないようだ。

「まぁ、とりあえずポスター貼っとくか。」

そういうと、公平は廊下の掲示板に以前作ったポスターを貼った。

「なにこれ?」

「なにってポスター。」

「……なんの絵?」

「バンドの絵に決まってんじゃんかよ。」

貼られたポスター(?)を咲がビシャっと剥がした。

「あー、なにすんだよ。」

「なにって、こんな地獄絵図みたいな下手くそ絵みて誰が入ってくるのよ。」

「おい!?地獄絵図はいいけど下手くそはねぇだろ。」

「いや、なんで地獄絵図は受け入れるんだよ。」

剥がしたポスターをくしゃくしゃにし、

「とにかく、これは駄目。」そしてそばにあったゴミ箱に捨てた。

「あ"〜、俺の力作が〜。」

公平はその場で泣き崩れた。

「おいおい、そんなショックなのか?まぁ、落ち込むなって。」

ハルキが自分が書いた別のポスターを張りながら、慰める。

「…俺の…地獄絵図が。」

「やっぱり地獄絵図じゃねぇーか!!」

咲がゴミ箱を両手で持ち上げ、公平に投げつけた。

「ちょっと咲様。っぐふ!」投げつけられたゴミ箱は公平の頭にクリーンヒット。「自業自得だな。」

何食わぬ顔でポスターを綺麗に貼り終えたハルキ。

「じゃあ、次の掲示板いくぞ。」

「そうね。」

両手をパンパンと叩いてホコリを落としながら咲はまたポケットに手を突っ込み、歩きだした。

「おいてくなよー、2人とも。あれ?廊下が歪む。」

ふらふらしながら公平は、2人の後を追った。

3人が去った後、掲示板に立ち止まる1人の少年がいた。

「……ッチ。」

少年はポスターの絵を見ながら、また舌打ちをした。

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