001 『ショートショーツ』
「いや、女子校で下着泥棒なんてありえないでしょ」
萌舞恵女学院高等学校。全寮制で、都内にある中高大一貫の女子校。
他の女子校とあえて区別をつけるとするならば––––入学金がとても高い。こういう女子校のことを、世間ではお嬢様学校と呼ぶらしい。
百年以上前から存在する、伝統と格式のある由緒正しい学園。
紛うことなき名門校。
そのため比較的模範的な生徒が多く、学園生活にありがちな問題や事件とは、無縁の場所なのである。
しかし。
「それが、なんとありましたの」
と、市子は口を尖らせる。
若王子市子。おバカ。頭の中はお花畑のおバカ。私と同じ、二年二組のおバカ。
要は子供(ただし、一部分を除いて)。
「エイプリルフールは、先々週に終わったのよ。嘘ならもっと上手につきなさい」
「わたくしは嘘なんてついてませんわ!」
「じゃあ、どーせ無くしちゃたとかじゃないの?」
「その無くした人は、委員長なんですって」
「それは事件ね」
私達のクラスの委員長は、相生葵という。名前の全ての文字が『あいうえお』で構成された首席番号一番、新学期は教室の右上の席が定位置の彼女は、それはそれは絵に描いたような委員長である。
今時にしては珍しい三つ編みのおさげに、飾り気のない丸いメガネ。聞いた話では、一年の時も委員長だったらしいし、多分来年も委員長をやっていそうな人物である。
とにかく真面目で、几帳面。真面目な生徒の多い学校なわけだけれど、その中でも取り分け真面目なのが委員長なのである。
人当たりもいい方で、誰にでも分け隔てなく接する性格であり、下着を誰かに盗まれた––––なんてとても考えられない(もちろん、必ずとは言えないけれど)。
なので、普通に考えれば無くした––––と考えるのが妥当なのだけれど、委員長ほど真面目で几帳面な生徒が下着を無くしたとなれば、それは間違いなく事件に違いない。
「でも、よく考えたら––––下着を無くしたっておかしくないかしら?」
「なぜですの?」
「いや、脱ぐ機会なんて、お手洗いくらいしかないじゃない––––それに、完全には脱がないでしょ」
「確かに……でも、上なら脱ぐ機会ありますわよ」
「上も無いわよ、プール開きだってまだまだ先だし」
「体育の時に、スポブラに変えますわ」
そう言って、市子は大きな胸を張る。頭は子供の癖に、胸は大人である。
反対に私は自身の胸を見下ろす。ブラなんて必要の無い胸を見下ろす––––萎めばいいのに。
まあ、それはさておき。四文字熟語で言うなら、閑話休題。話を戻そう。
「それで無くなったのは、上なの? 下なの?」
「下ですわね」
「なら、やっぱり脱ぐ機会なんてないじゃない」
「じゃあ、アレですわね」
「何よ」
「委員長は見せたがりのノーパンっ子だったとか」
「そんなわけないでしょ、おバカも休み休み言いなさい……」
溜息。なぜこの若王子市子は、この学園に入れたのだろうか? 彼女こそ、入学させてはいけない人物ナンバーワンな気もする。
「まあ、とにかく委員長のショーツが無くなったのは分かったわ。それでいつ頃無くなったのかしら?」
「気が付いたのは、お昼休みにお手洗いに行った時だそうですわよ」
「ちょっと待ちなさい」
「何ですの?」
「まさか、委員長はお手洗いに行くまで穿いてないという事に気が付かなかったの?」
「その通りですわ、ノーパンだったそうですわ」
「いや、普通気が付くでしょ」
「じゃあ、ちょっとやってみますわ」
そう言うと、市子は私の制止も聞かずに、スカートの中に手を入れ、スルリと薄ピンク色のショーツを下ろした。
その後、上履きを脱いでから、片足ずつショーツをくぐらせ、私にそのショーツを見せてきた。
「脱ぎましたわ」
「うん、早く穿いてね」
今更になるが、ここは生徒会室であり、私と市子しか居ない。現在、私達は放課後の学校に残って、生徒会の職務中というわけだ。
本来ならば私は、先程報告のあった「水漏れをしている」という所を見に行かないといけないのだけれど––––市子が問題を持ち込んだため、行けずにいるというわけである。
私は二年生でありながら、この学園の生徒会長を任せれている––––のだが、なぜこの子がここにいて、さらに字も綺麗に書けない癖に、書記なんていう大役を任されているかは、この学園最大の謎と言ってもいいかもしれない。
「ノーパンになってみて思ったのですが––––」
「何も思わなくていい、早く穿きなさい」
私は市子の言葉を途中で遮り釘を指すが、市子は止まらない。
「ノーパンになってみて思ったのですが––––」
「同じ事を二回も言わなくていい、早く穿きなさい」
「ムダ毛処理した後の感覚に似てますわね」
「もう本当に最低、これ以上ないくらい最低の例えよ……そもそも意味が分からないし」
「服が肌に擦れるたびに、普段とは違う心地よさを感じますわ」
「具体的に言わなくてもいいし、感じなくていいから、早く下着を穿きなさい」
「今思ったのですけれど『肌』と『服』って漢字は、とても似てますわ」
「几帳面に反すると言うなら、今のあなたを表す言葉として適切ね」
「わたくし、オヤツだけはいつも毎日同じ時間に食べてますわよ」
「そう、よかったわね……」
再び溜息。もう一度、何度でもくどいくらいに言うが、ここはお嬢様学校であり、真面目で、規律ある学校である。そしてその中でも最も真面目な場所が、ここ生徒会室なのは間違いない。
なのに、この市子ときたら、セクハラまがいの発言は多いし、おバカだし、胸の大きさもおバカだし、頭の中はお花畑である。
唯一良いところを上げるとしたら、見た目の良さくらいしかない。
「あなたは本当に、見た目だけしか良いところがないわね」
「そういう、音羽ちゃんは、見た目も頭もいいのに、表情と胸は、硬いですわねー」
「うるさいわよ!」
私は、生徒会室に飾られた自身の写真を見る。
雲母坂音羽とフルネームで書かれた、すまし顔の女生徒。
我ながら、もう少し笑ったりとかして、優しそうな雰囲気を出せたら良かったのだけれど––––私にそういうのは無理らしい。
この写真は、生徒会発足時に撮った写真で、割と最近撮った写真なのだが、心なしか私の顔が幼くも見える。多分髪型のせいだと思う。
今は少し伸びて来たため、前髪を流しているのだけれど、この写真を撮った時は前髪をぱっつんに切り揃えた姫カットであった。
別に私は、姫カットに愛着があるわけでもないし、好きなわけでもない。
ただ、胸の大きなおバカさんが、
「音羽ちゃんは、姫カットとか似合いそうですわね」
と言うものだから、ついしてしまったのである。
今にして思えば、大失敗だったと思う。
なぜなら、私は一部の生徒から『音姫様』なんて言う、冗談みたいな名前で呼ばれるようになってしまったからだ。
もちろん、私は竜宮城に住まうお姫様じゃないし(そもそも『乙姫様』だと字が違う)、化粧室にある水の流れる音がする擬音装置でもない。
乳子––––じゃなくて、市子は私に付けられたあだ名を羨ましがっていたけれど、私からしたら、いい迷惑に他ならない。
あだ名だけが一人歩きして、下級生や、中等部の子から、「あれが『音姫様』ですのね、雅やかですこと」なんて噂されてしまうようになったからだ。
私はそんな風に、尊敬されたり、崇められたりするような存在ではないし、ただの女子高生で、ただの生徒会長、雲母坂音羽に他ならないと思っている。田舎者だし。別に家がお金持ちってわけでもないし。この学園にだって、特待生として学費免除枠て通ってるし。
確かに真面目に勉強はしているため、頭はいい方だとは思うけれど、私より頭のいい人なんてごまんといる。実際、今回下着が無くなった委員長の方が成績がいいし。
だから、私は勉学においてトップクラスではあるものの、トップではないし、『音姫様』なんていう、場違いなあだ名を付けられるような器でもない。
そして、私がそんなあだ名を付けられるキッカケを作った張本人は、未だに手に持っている下着を手首に巻き付けてから(ちょっとだけ、シュシュみたいにも見える)、私の後ろに回り込み、私の髪の毛を手櫛で梳かし始めた。
「音羽ちゃんの髪って、本当に素敵ですわよねー、手の上に乗せても滑り落ちちゃいますわ」
「私の髪で遊んでいないで、あなたも下着が無くなった理由を考えなさい。というか、穿きなさい」
「シャンプーのCMに出てきそうなくらい、綺麗な黒髪ですわ!」
「はいはい、ありがとう。早く考えてね。あと、穿いてね」
「それに、音羽ちゃんだけセーラー服を着れて羨ましいですわー」
「仕方ないでしょ、そういう規則なんだから」
市子の言う通り、この学園において、私一人だけがセーラー服を着用している。理由は、伝統を守るためだと聞いた。
この学園の制服は、元々はセーラー服だったのだけれど、九十年代辺りに「ブレザーの制服を着てみたい」と、当時の生徒達から要望があった。そして、世間では可愛いデザインの制服が流行っていた事もあって、ブレザーの制服に変更されたらしい。
だけど、この学園は百年以上の歴史を持つ場所だ。当然このセーラー服も同様の歴史を持つ。なので、その歴史を守るために、生徒の代表として生徒会長が着用することになっている。
おかげで、私はとても目立つ。『音姫様』なんていうあだ名が一人歩きしたのも、多分これが原因だと思っている。
「音羽ちゃん、今度は縦ロールとかどうですか?」
「しない」
「では、ハーフアップとか」
「しない」
「では、思い切って乙姫ヘアーとか」
「頭の上にハートマークなんか浮かべて、どうするのよ……というか、一番あり得ない」
「じゃあ、クラウンブレイドとかはどうでしょう?」
「それは、本当に髪型の名称なのかしら?」
「そうですわよ、後ろの髪を編み込んでから王冠のように巻き付ける、別名『王冠ヘアー』ですわ」
「お願い、これ以上私を姫化させないで」
市子は、その後もくだらない何かを言いながら私の髪を触り続けていたが、私はそれを無視して考える。
下着が急に無くなるのは、どう考えてもおかしい。ハンカチや、消しゴムが無くなるのとはわけが違う。
身に付けていたもの、それも肌着が無くなって気が付かないなんて方がおかしいし、誰かに取られて––––つまり、脱がされたとしたら気が付かないわけがない。
となると、やはり何かの理由で脱ぎ、何処かに忘れてしまった––––という線が濃厚か。他の事を考えていて、忘れてしまうなんてのは良くある事である。
そういえば、今日は三限目の授業で体育があった。
「委員長は、体育の時にショーツまで変えてしまうタイプなのかしら?」
「わたくしは、他人の着替えをそこまで把握しておりませんわ、今日の下着は水色の音羽ちゃん」
「うん、どうして知っているかは問わないけれど、訴えるわよ」
後ろにいる市子に圧力をかけると、市子は私の髪をイジるのをやめ、私の正面に回り込んでから、大きな胸を張った。
「音羽ちゃんの下着ローテくらい把握済みですわ!」
「はぁ……」
今更驚きはしない。こういう子なのである。私はそのことを咎めもしないし、今更軽蔑するようなこともない。
ただ、注意するだけである。
「私の下着ローテの把握よりも、もっと覚えなきゃいけない事があるでしょう」
「それは、何ですの?」
「英単語とか」
「うっ……」
「漢字とか」
「うっ……」
「今時、小学校レベルの漢字が書けないのはあなたくらいなものよ」
「読めはしますわよ」
「書けなきゃ意味ないでしょ」
「確かに、どの教科でもテストで一番の敵は漢字ですわね」
「じゃあ、市子は平仮名で回答してるの?」
「なるべく分かる漢字で答えるようにしてますわ」
「変な所に頭を使ってるのね」
「おかげで一問、一問にとても時間がかかりますわ。もしかしたら、それが原因で点数が悪いのかもしれませんわ!」
「うん、じゃあ数学は?」
「閑話休題ですわ」
「それは私のセリフだし、あなたは話をそらしたいだけでしょ」
まあ、話を戻したいのは本音なので、私もそれに合わせて脱線した話を元の軌道に乗せる。
「というか、どうして委員長を連れて来なかったのよ」
私がそう尋ねると、市子は可愛いらしく、
「てへっ」
と笑った。いや、誤魔化したと言うべきか。
「分かってるなら、ちゃんと連れて来なさいよ。当事者に話を聞いた方が絶対にいいに決まってるじゃない」
「それが、今日の委員長は何故かわたくしを避けているようでして……」
私は、市子の手首に未だに巻き付いているピンク色のショーツをチラリと見る。
多分それは、今日はではなく、いつもな気もする。市子が悪い子じゃないのは、多分みんな分かっているとは思うけれど––––正直苦手な人は、苦手だと思う。おそらく委員長は、苦手な部類に入るのだろう。
「まあ、いいわ。とにかく委員長を探して話を聞きに行きましょう」
「もう帰りましたわよ」
なんとなくそんな気はしていた。
「下着が無い状態で学校に長居するのも不安でしょうしね」
「いえ、それが下着が見つかったそうですの」
「……待って、もう本当に意味が分からない」
「急に見つかったそうですわよ」
「どこにあったのよ」
「無くしたと思っていた、お手洗いにあったそうですわよ」
市子の話を信じるのなら、急に消えた下着が、急に現れたって事になる。
穿いている下着が急に消えるなんて事は考えられない––––となると、やはり下着を一度脱いで、脱いでいる間に無くなったと考えるのが妥当である。もしくは一時的に見えなくなったとか。
「ちなみに、そのお手洗いの場所は聞いてる?」
「体育館の所ですわ」
「あぁ、あそこね」
体育館のお手洗いは、本校舎のものに比べて少し古いタイプの便座だった覚えがある。まあ、ウォシュレットくらいは付いてるけど。
とりあえず、ここまでの市子の話を信じるのなら、委員長が脱いだのは間違い無さそうだ。まずは、下着を脱いだ理由から考えてみるのがよさそうな気はする。
「……確か今日の体育って、委員長見学じゃなかったわよね」
「そうですわね」
下着が無くても平気なのだから、この線は違うか……。
「生理ではありませんわね」
「せっかく上手くボヤかしたのに、言わなくていい」
市子はいつも一言多いと思う。私は溜息を吐きながら、生徒会室に備え付けられたドリップマシンのスイッチを押した。すると、コーヒーのいい香りが漂ってきた。
「そういえば、この生徒会室ってやたらと設備が整ってますわよねー」
「元々は、理事長室だったらしいわよ」
と市子に教えてあげながら、私は出来上がったコーヒーを片手に、社長椅子みたいな椅子に腰掛けた。
「どうして生徒会室になりましたの?」
「ほら、理事長が結構なお歳でしょ? それで、上まで登ってくるのが辛いからって、理事長室は一階に移したそうよ」
「確かに、えみちゃんは今年で八三歳ですものね……」
えみちゃんと言うのは、理事長、冷泉夷のあだ名である。
昔から理事長は、えみちゃん、えみちゃんと呼ばれ親しまれてきたそうなので、ほとんどの生徒はそう呼んでいる。
だが彼女の外見は、えみちゃんという可愛いらしい少女のようなあだ名が似合うようなものではない。髪は白髪ではあるものの綺麗に整っており、歩く時は背筋をスッと伸ばしてとても優雅に歩く。その姿は、年配の女性というよりも、マダムだとか、貴婦人のような、格式高い言葉がよく似合う。
それでいて、生徒の名前と誕生日は全て覚えてくれていて、誕生日には、お祝いの品も送ってくれる。
そのため、私もそうだし、市子や、全校生徒からも慕われている––––いるのだけれど、本人は自分の事を「お転婆」と言って、いつも笑っている。
もしかしたらそういう所が、親しみやすく、えみちゃんと呼ばれる所以なのかもしれない。
「元が理事長室なので、なんか高級感がある作りなのは分かりましたけれど––––どうして生徒会室になりましたの?」
「『使ってないのなら、生徒会室として使わせてください』って、お願いしたら、くれたわ」
「音羽ちゃん、意外とそういう所抜け目ないですわよね」
「他にも色々貰ったわよ」
「例えば何ですの?」
私はコーヒーを一口飲んでから、市子の背後を指差す。
「そこの戸棚の奥に、小さな冷蔵庫もあるわ」
「本当ですの⁉︎」
市子は興奮気味に、戸棚を開けて冷蔵庫を開いたが、ガッカリとした表情をこちらに向けた。
「何も入ってませんわよ……」
「そりゃあ入ってないわよ」
「何も入ってないのでは、置いてある意味が無いと思うのですけれど……」
「プリンでも買って、入れとけばいいじゃない」
市子は私に対して、疑うような視線を向ける。
「食べませんか?」
「食べないわよ!」
「学則にもありますものね、『萌舞恵の娘、他人のプリンを食べるべからず』って」
「そんな学則ないわよ。あるのは、『他人のモノを取るべからず』でしょ」
「まあ、わたくしはプリンを買って来ましたら、冷蔵庫に入れる前に食べてしまうので、あまり意味は無さそうですわね」
「うん、知ってる」
市子はかなりの食いしん坊で、おまけに食い意地もはっている。そして食べた物は全て、胸に行く。萎めばいいのに。
まあ、それはさておき。
「それと、となりに今は電源が入っていないけれど、冷凍庫もあるわよ」
「どうして電源を入れませんの?」
「ファン式じゃないから、下に霜が溜まっちゃうのよ」
「なら、外に出しておけばよろしいではありませんか」
「そうしたいけれど、生徒会室に冷蔵庫と冷凍庫があるんじゃ、他の生徒に示しがつかないでしょ」
「なら、あのマシンは大丈夫ですの?」
市子は、先程私が使ったドリップマシンを指差した。聞いた話では、数万円もするいい物らしい。
「大丈夫でしょ、アレは理事長から生徒会長就任祝いに貰ったものだし。というか、最初からあそこに設置してあったし」
「音羽ちゃん、コーヒー大好きですものねー」
生徒会長になってこの生徒会室に始めて来た日に、あのドリップマシンはあった。ご丁寧にも「贈呈」の文字と、理事長の名前が書かれたのし付きで。
生徒会長という役所は、なんのメリットもない。強いて言うなら、内申点が少し上がるくらいだけれど、大学までエスカレーター式のこの学園においては、あまり意味をなさない。
だけれど、毎日美味しいコーヒーが飲み放題だと言うのなら、ちょっと嬉しい。仕事も捗るし。
「そういえば、えみちゃんって、この高校だけではなく、この学園全体の理事長なんですわよね」
「そうね」
萌舞恵中学校、高等学校、大学、彼女はこの学園全体の理事長でもある。
「どうして理事長室は、この高等部にあるのでしょうか?」
「そんなの簡単よ、この高等部が一番最初に出来たからよ」
「あっ、なるほど」
「出来た順番なら、高等部、中等部、大学の順ね」
「音羽ちゃんは博識ですわねー」
「私、一応生徒会長だから」
「それは知っていますわ、そしてこの若王子市子が、音羽ちゃんをサポートする書記ですわ!」
「初期不良もいいとこだけどね」
「何か言いましたか音羽ちゃん?」
私は「何も」とシラを切りつつ、ある作戦を思い付き、市子にバレないようにその作戦を実行する。
「じゃあ、そろそろ帰りましょうか」
「下着が消えてしまった理由が、まだ分かっていませんわ」
「……どうして覚えてるのよ」
「手首に巻いておりますので」
市子の手首には、先程自ら脱いだ下着が未だに巻かれている。
市子のことだから、話が変わったから先程の話は忘れるかなーと、思ったのだけれど––––まさかそんなアホみたいな方法でカバーしてくるとは思わなかった。作戦失敗である。
……しかない、もう少しだけ考えてみよう。
とは言っても全く答えは出ない。これは、考え方を変えた方がいいかもしれない。
例えば、下着本体ではなく、委員長の方を––––あの真面目な委員長の事を考えてみるとか。
「ねえ、委員長から下着が無くなったって聞いた時、どんな様子だった?」
「あ、委員長が自分から言ったわけではありませんの」
「……それは、どういうこと?」
「わたくしが委員長がノーパンな事に気付きまして、その理由を聞きましたの」
「ちょっと待って、それだとあなたがさっき言った通りの委員長が隠れ露出狂だという線がありえるわ」
だが市子は「それはありえませんわ」と、否定した。
「どうして分かるのよ」
「変態同士はお互いに何となく分かりますもの」
「自分のことを間接的に変態だと誇張するのをやめなさい」
もう本当にどうしようもない子である。市子ならぬ、終子である。だが、段々とこの事件の真相が見えてきた。
そもそも私は、委員長自身が「下着を無くした」と、市子に言ってきたのだと思っていた。しかし、市子がそれに気付いて指摘したとなると––––少しだけ話は変わってくる。
同じことのように思われるかもしれないが、これは全くの別物だ。
例えるなら、冷蔵庫に入れておいたプリンが急に無くなったとして、市子が「プリンが無くなりましたわ!」と言うのと、私が「プリンがない」と、市子の口元に疑いの眼差しを向けるくらい違う(というか、昔実際にあった)。
それに、もう一つヒントがあった。下着を無くしたにしても、今日は体育があったのだから、委員長は体操着くらいは持っているはずだ。
不恰好にはなるけれど、スカートの下から体操着を着用すればいい。なのに、それをしなかった。
つまり、体操着も着用不可の状態にあった可能性がある。
「分かったわ、なんで下着が消えたのか。それは––––」
私が回答を提示しようとすると、突然市子が、私の目の前に手をパーにして突き出してきた。
「ダメですわよ」
「どうしてよ」
「自分で答えを当てたいですわ」
まあ、気持ちは分からなくもない。友達のよしみで、少しくらいは付き合ってあげようと思う。
「なら、ヒントを出してあげる」
市子は元気に、「やりましたわ!」と胸を揺らした(物理的に)。私はそれを見なかったフリをして、話を続ける。
「まず下着は消えてなんかいないわ、ずっと同じ場所にあったと考えて間違いないわ」
「むぅ、さらに分からなくなりましたわ……」
「じゃあ、次のヒントね。下着が無いなら、体操着に着替えればよかったと思わない?」
「確かに……」
「じゃあ、最後のヒント」
というか、もうほぼ答えではある。
「先程、体育館のお手洗いで水漏れの報告があったわ」
「水漏れ、水漏れ…………あっ、それってもしかして……」
「じゃあ、答え合わせの時間ね」
*
場所は、委員長が下着を無くして、そして見つけたという体育館にあるお手洗い。
個室の一つに張り紙が貼ってあり、『故障中』と書かれている。
「これは、ウォシュレットが故障していますの?」
「正確には、赤外線センサー周りの故障よ。ウォシュレットは基本的に、座っていないと作動しないの」
試しに便座を開いてみると、ボタンを押していないのにウォシュレットの作動音が鳴り、急に水が飛び出してきた。私は、素早く蓋を閉めて回避した。
「ほらね」
「音羽ちゃん、間一髪でしたわね!」
「分かってればこうやって回避出来るけど、分からなかったら直撃でしょうね」
「ということは……」
「多分委員長は、これに当たって下着を濡らしてしまったのよ。それで濡れてしまった下着を脱いだってわけね」
これは私の予想になるが、その時刻は三限の体育の後だったと思われる。この威力ではどう考えても下着以外も濡れてしまう。
おそらく、その時の委員長の格好は体操着だったのだろう。
体操着は制服に着替えればなんとかなるが、濡れた下着はなんともならない。
「これで解決ね」
「ちょっと待ってくださいな」
「今度は何よ?」
「それなら、最初から素直にそう言えばよかったと思いますわ」
「下着が濡れたなんて言ったら、勘違いされちゃうでしょ。だから、あなたに聞かれた時に、『下着が無くなった』って嘘を付いたのよ」
「なるほど! 確かに、『下着が濡れたから穿いてない』と言われましたら、お漏らししたと、勘違いしちゃいますものね!」
「だから、なんであなたはいつもそうやって一言余計なのよ!」
こうして、今日も事件とも呼べない何かを解決した生徒会であった。