31.可愛いサーラと初めての恋心?
サーラと一緒に向かった東屋は今は藤の花が縁を飾り、ぐるりと薄紫色の花のカーテンが囲み風で揺れる美しい時期だ。
「わぁっ! とても綺麗です」
喜びの声を上げるサーラをお茶会の準備が済んでいる中へとエスコートし、私たちは椅子に腰掛けた。
「この間は行けなくてゴメンね」
座りながら言った私に、サーラは大きく首を横に振った。
「いいえ。お会いできなかったのは残念でしたけど、セバスチャン様ととても楽しい時間を過ごさせてもらいましたもの」
そんな大人な返しに中身は親戚のオバチャン状態の私はじーんときちゃうよ。
そして、どんな楽しい時間だったら婚約って流れになるのか…………
「ねぇ、サーラ。聞いてもいいかな?」
「はい。なんですか?」
可愛らしい笑顔のサーラへ少し真面目な表情を作りつつ、私は聞いてみた。
「婚約って、どういうことか分かる?」
小さく首を傾げたサーラに、ストレート過ぎたかしら? と思ったが、サラリとサーラは
「大きくなったら結婚して家族になるお約束ですよね?」
と言った。
「そうなの?」
「はい」
まったく分かっていないセバスチャンに頷くサーラ。
(うーん…………女の子は男の子よりオマセでオトナな子が多いからかな? あぁ、でも好きな子がいるとすぐ結婚するーって言ってた子いたなぁ)
自分の幼少期の保育園や幼稚園での記憶をぼんやり思い返し、案外簡単に結婚すると騒いでいた女の子たちの姿が浮かんだ。
しかし、ここは日本ではない。おまけに貴族の世界で『婚約』の重みがどれくらいのものなのか想像ができない。このくらいの幼い年齢なら、簡単に破棄しても問題ないのだろうか?
そんな事を考えながら、色々確認するべく口を開く。
「えーっと、サーラはセバスチャンのことが好きなの?」
「はい」
また小さく首を傾げながら言ったサーラは、まるで『そうですけどなにか?』と言ってるようにも見える。
だが、次のサーラの言葉に今度は私が首を傾げた。
「あ、でもフェリックス様のことも好きですわ」
「んん?」
「だって、お二人とも私の初めてできたお友だちですもの」
恥ずかしそうに微笑んだかと思うと、サーラは少し赤らめた頬に手を当てた。
「婚約は、父が言い出したことなんです。父がなんだかとてもセバスチャン様を気に入ったみたいで。でも、私はそれでも良いなって思ってますの。だって…………」
モジモジと口元を手で隠しているが溢れる喜びが抑えられないのか、満面の笑みで
「だって、お二人と家族になれるんですもの」
「サーラ…………!」
きゅうぅぅん! とハートが鳴った気がしたよ。オバチャンは。もう、なんて可愛いんだろうねぇ!!
でも、まだ七歳。流石に早いんじゃないか。
「そう言ってくれるのは嬉しいけど、婚約を結ぶにはまだ早いんじゃないかな。ね、セバスチャン」
と、セバスチャンへと向くと、そこには顔を赤くし目を丸くしたセバスチャンがサーラを見ていた。
(おーやー? おやおや~!)
ふっ、と視線を上げた私は涼やかに揺れる藤の花に目を細めた。
どうやらこれは、運命か。それなら、私は全力で応援するのみ! あぁ、青春ってまばゆい。年齢がずいぶん若いけど。
モジモジと照れ合っている二人に温かい視線を向け、私は甘酸っぱい気持ちいいなー! 私も欲しいー! なんてウフフと微笑むのだった。
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