プロローグ
最近付き合い始めた彼女、佳奈美。
さらさらな茶髪の髪の毛と、少し強気な瞳がとても可愛らしい女だ。
俺よりひとつ上の21歳で、いわゆる夜の蝶…というか、すごく遊びなれているらしかった。
たしかに 何か男を褒めるのとか上手いし、街でもいろいろナンパとかされてるみたいだけど…俺はほんとに、佳奈美が好きだったんだ。
「佳奈美、今日は夜あいてんの?」
携帯越しに、自分の部屋へと誘ってみる。
佳奈美は「うーん…」と少し間を置いて、
『飛鳥、今日はあたしの家に来てくれる…?』
少し寂しそうな声で言った。
「…あぁ、いいけど…なんかあったの?」
『うん、話があるの。……じゃ、11時くらいに来てね。待ってる…』
そう言うと、電話を切られた。
…………まさか、振られたり…は、しないよね?
…うぅぅん、しないしない。大丈夫。俺は大丈夫。
「…別れてほしいの」
はぁい、振られたぁ。ま、分かってたけどね!?だっておかしいと思ってたもん、佳奈美の態度。最近冷たいなーとか思ってたよ!!
悲しくないのかっていったらまぁちょっとは悲しい訳ですけど!!
「な、何で…?だって俺ら、最近付き合い始めたばっか…」
「……あたし…」
仕事帰りのおばちゃんが、マンションの廊下にたたずむ俺たちに目をやった。その瞬間だった。佳奈美が泣きながら叫んだのは。
やめてくれ。せめて 今叫ぶのはやめてくれ。
「セックステクゼロの人とは、やっていけないの!!!」
びっくりして目を見開くスーツ姿の太いおばちゃん。
佳奈美、泣くな。今は俺の方が泣きたい。
「…ごめんね、飛鳥…」
やめてー!このおばちゃんに名前公開までしないで!
おばちゃんの冷たい目。冷ややかな目線。
俺は号泣しながら、必死に佳奈美とおばちゃんの前から逃げ出した。
なんだよ佳奈美。なんだよあのおばちゃん。
とりあえず俺は、人生で何度目かわからない 絶望を味わった。