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始まり

黒き星、凶星の宣言から十六年後…。


始まりは、とある平野から始まる…。










 俺は、凶星の日に生まれ、そして降り立った。自分が何者か知らず、何の為にここに降り立ったのか知らず…。自分が何処から来たのか知らずに…。…そして自分の名前すらわからずに…この地にやって来た。

 降り立った場所は草木一本生えておらず、地面は死地と言われてもいいくらいに化していた。薄っすらと風が巻き上がり頬を撫でる。兎に角、歩いた。ひたすら歩いた。歩き続けた。俺以外に生きる者達に会いに…。


 この地に降り立ち、どれくらいの朝がきて、夜になり、そして歩き続けてきたか、もう正確に覚えていなかった。何十回目かの夜を過ごしていた時、遠くから声が聞こえた。しかもそれはまるで何かから逃げる悲鳴だった。俺は仕方ないと思い、、声がする方へと駆けていった。


「誰か〜!助けて〜!下さい〜!」

「グゥオァァァ!!」

「嫌ァァァ〜!」


 声がした場所に来てみると黒い服を着て、白いヴェールを頭につけた人が紫色の煙?熊?に追いかけられていた。きっとあの人が煙?に見つかって追いかけられたのだろう。するとこちらの視線に気が付き、こっちに全力で走ってきた。


「!そこの方〜!助けて下さい〜!」

「…はぁ」


 溜息をつきながらも俺は走ってくる彼女とすれ違いらこちらに向かって来る煙熊の眉間に『ゲンコツ』を打つ。


ゴツンッ!!

「ガギァ!?−−」

「……へっ?」


 拳で殴られたとは思えない音を出し、煙熊の身体がドスンと砂煙を撒き散らし崩れ落ちた。間もなくして煙が晴れ、デカイ熊が息絶えていた。暴れていた原因はおそらくだがあの煙らしい。


「はぁ…はぁ…助けて…ケホッ…いただき…ありがとう…ございます」

「俺が言えた義理はないが、アンタここで何してるんだ?時間が時間だ。とっとと帰れよ」

「そ、それは…その…」


 言い惑う彼女はコートの懐のポケットから何かを引っ張り出した。


「それは…方位コンパスか?」

「これはスターコンパスといって、先程の熊さんみたいに異常なものを察知するコンパスなんですけど、『星都東京』にワープして帰れるのですが…その…いつの間にか壊れてしまい使えないんです」

「…つまり、それがないと星都とやら帰れないという事か?」

「…はい」

 

 なんて事だ。俺は面倒くさい事に自分から足を突っ込んだらしい。だがここからが問題だ。ここで彼女を取り残したら、またさっきみたいな奴等に襲われる。そんな事をしたら俺も寝起きが悪くなってしまう。それは観念蒙りたいので俺は勝手に決めた。


「お前、とりあえず俺と一緒来い」

「え?」

「こんな場所にいたらまたあの煙熊みたいな奴に襲われるだけだ。それよりは遥かにマシだろ。それに帰れないんじゃ。どうしようもねぇ、そうだろ?」

「は、はい」


 彼女は戸惑いながらもこくりと頷く。本当なら面倒事に突っ込むのは嫌だが、このままというのも嫌なので彼女と一緒に行動する事にする。


「あ、も、申し遅れました。私は月野今宵つきのこよいといいます。あの、宜しければ貴方のお名前を…」

「…無い」

「ナイさん、ですか?」

「違う、俺に名前なんてない。いつの間にかここに降り立っていた。ここが何処か知らないし、何の為に来たのかも知らない。名前すらも、わからないんだよ、俺は」


 俺が淡々と話していると、グスッと隣からぐずる声がする。視線を彼女、月野の方に向けると何故か泣いていた。


「おい、なんでお前が泣いてんだよ」

「グスッ…だっで…ずっどおびどりでじだんでじょ!ざみじかったろうに!…ブゥゥゥ!」


 涙でグシャグシャになった顔で月野はハンカチで鼻をかんだ。おい、汚いから違う方向を向けよな…。


「グスッ…わかりました」

「何が?」

「私が貴方の名前を考えます!」

「いや、別につけなくても「いいですね!?」…はぁ、好きにしろよ」


 これだけは譲らないと鼻息が荒く、自身満々の月野にとうとう俺は折れた。ふざけた名前だったらここにマジで置いていって熊のエサにしてやるからな。

 少し時間が過ぎて、月野はやっと閃いたと目を開ける。…開けた目がキラキラ輝いているのはこの際、無視しておこう。


「考えました!今日は凶星遊戯の宣言日なので『月野凶つきのきょう』にしましょう」

「オイコラ待て!なんで名字がアンタと一緒なんだよ!?俺はアンタの家族か!?」

「今から家族なんです!ちょうど長男みたいな子が欲しかったんですよ!」

「勝手に決め−−『長男みたいな』?みたいなって本当の家族じゃないのか?」

「ええ、私は孤児院を経営しているので」


 …孤児院?今どきに?それに彼女は見た目からしてまだ成人じゃない。おそらく十代後半くらいだろう。


「今、失礼な事考えませんでした?」

「しねぇよ…」


 なんでわかったし…。


「なぁ、確か孤児院って親がいない、または捨てられた、理由があって育てられないから預けられる施設だよな?なんで今どき孤児院なんて…」

「先程の熊さんみたいな生物が理由です」


 アイツみたいな奴等が原因……なるほどな。


「…身なし子か」

「…はい。星都では彼らを討伐している組織があるんです。星都はシールダーという大きなバリアによって守られているのですが、いつ何が起きてもおかしくないので仕事として討伐しているんです……ですが」

「その仕事は常に死と隣り合わせ。こちらも命を落とす可能性がある。アンタの孤児院は討伐しに行って帰ってこなかった人の子の集め場みたいな場所か」

「はい」


 それが理由なら孤児院が出来ていてもおかしくない。先程もそうだが俺がもし彼女を助けていなかったら孤児院の子達はまた居場所を失っていたかもしれない。……だが待てよ?


「討伐しに行くのは大人の、大体は男性だよな?女性子供じゃ流石に危険だろ?」

「…正確には大人か私達ぐらいの『女性』しか行けません」

「…どういう事だ?」


 …俺は月野から次の発せられる事に言葉を失った。







「あの煙、『星屑スターダスト』を討伐できるのは女性だけですからね」

 

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