第6話 魔力という未知の存在
「それでは早速始めますか?」
「是非始めましょう!!」
どんな魔法を教えてくれるんだろう。わくわく
俺は部屋に備えつきの机に座り、さらに常備されている紙を広げた。この紙もA4サイズっぽい気がするけど気のせいということにしておこう。
そしてマフィナさんは座っている俺のすぐ隣に立っていて、家庭教師のようなスタイルだ。
家庭教師なんてしてもらったことないから新鮮だな、綺麗な人が隣にいるってのは少し緊張するが。
女性の耐性があんまりないんです。はい。
「まず最初に言わなければならないことがあります。
今日適性検査をしましたよね?その結果を見たのですが、宇佐美様はかなり特殊な適性を持っているようなのです。」
「普通すぎて面白くないレベルだと思ったんですけど…、魔力適性がちょっと高いくらいじゃなかったですか?」
属性適性なんて高いのも低いのもなかったし。
「普通の人は何かしらの特徴があるものなのですよ?とくに属性適性です。氷属性だけは28%ありますが他は全て20%未満、ましてや0%の属性が一つもないなんて人初めて見ました。」
「フィリップさんはあんまり驚いてなかったけど珍しいんですね。全ての属性が使えるといいことがあるんですか?」
「あるといえばあるのですが……、正直に言いますと不利に繋がることが多いのです。
無属性魔法なら関係ないのですが、一つの高い属性適性がないといざ属性魔法を覚えるときに凄く苦労します……。」
適性が高い属性がなかったらどれも中途半端になってしまうから人より成長が遅れてしまうってことなのかな、たぶん。
RPGでいう魔法剣士みたいな感じか。
「どうでもいいですよ、そんなの。」
マフィナさんは驚いた顔をする。
俺はそれに微笑みを返してさらに言葉を続ける。
「俺は魔法が使えると分かっただけでも充分です。むしろ凄く嬉しいんですよ?俺は可能な限り全ての魔法を覚えたいと思ってますから。そのためなら人の10倍ぐらいは努力してみせます。」
何かを得るために努力することは当たり前のことだ。魔力適性が一桁だったら流石に落ち込むが、幸いかなり高い数字だったんだ、これ以上望むことは傲慢だろう。
それに全ての属性が使えるなんて素敵なことじゃないか。アニメやラノベでは属性を多く使えるやつは大体強いし。
マフィナさんは自分の驚いた顔に気付き、少し呼吸を漏らした。その後すぐに微笑み返すところは流石メイドだ。
「なんというか……、宇佐美様はとてもストイックなんですね。研究者なんか向いてそうです。」
「よく言われますよ。」
褒め言葉として受け取ったことはあんまりないが。
「……余計なお世話でしたね、それでは改めて始めましょうか。
魔法を使うには魔力が必要なことは知っていると思いますが、この魔力というのは全ての生物が持っているものです。
知能のない生物にとっての魔力は生命維持にしか使われませんが、私たちのように知能のある生物は魔法という形にしてより広く扱えるようになります。
本来は生命維持のための魔力なので、魔法を使いすぎると当然命を失います。身の丈に合わないような魔法は使わないほうが懸命です。」
魔力は生き物に必須なのか。元の世界には魔力がないけど今の俺にも必須になってしまったのだろうか。
……今の俺の体はどうなってしまんたんだろうな。魔力なんて訳の分からないものが宿っているのは確からしいし、神かなにかに作り替えられたのかもしれないな。まあ普通に生きられれば問題ないか。
マフィナさんは用意した紙に重要な点を書きながら説明していく。
「属性は九つ存在しますが、属性を用いない魔法のことを無属性といいます。初めて覚える魔法は無属性であることが多いのですが、ちゃんとした魔法を使うのはまだ後です。
まず体の魔力を自在に操らなければ詠唱ができないので、この魔道具で魔力を操る練習をしてもらいます。」
そう言ってマフィナさんが取り出したのは、手のひらサイズの正方形の板だ。その面には大きく魔方陣のようなものが書かれている。
「これは使用者の魔力を糧にして使用者の体の魔力を強制的に循環させるポンプのような役割をする魔道具です。本来は魔力の循環が難しくなるような疾患を持つ人に補助具として使うのですが、魔力の流れを感じるにはちょうどいい魔道具です。
今日はこの魔道具でとにかく魔力に慣れてください。
あ、でも気分が悪くなったり頭がフラフラしてきたらやめてくださいね。魔力が枯渇する兆候なので。」
「わかりました、手を乗せればいいんですか?」
「はい、手のひらと魔方陣を合わせるようにすれば魔道具が宇佐美様の魔力を吸収します。手をそのまま乗せてみて下さい。」
俺は言われるがまま手のひらを魔方陣と重なるように置いた。
数秒ほど経つと、奇妙な感覚があった。何かが俺の中をぐるぐる回っている感じだ。例えるなら血管の中の血の流れが体の感覚として感じ取れているといったところか。ちょっと面白いな、5分で飽きそうだけど。
「おー、なにか体を巡ってる感じがします!」
「魔道具が魔力を吸っている感覚は分かりますか?微量なので少し難しいかもしれませんが。」
吸われてるってのはちょっと分からないな。
そう思って手のひらを魔方陣から数ミリ離すと魔力の感覚が抜け落ちた。そして再び手のひらを着けると魔力が手のひらの表面に集まり、少しずつ無くなっている感覚があった。
「あ~なんとなく分かりました。でも手を離すと魔力の感覚が無くなっちゃいますね。」
「なにもしなくても魔力は体を流れるものなので、魔道具を使わずに魔力の流れを感じれるようになったら第一段階突破です!
出来るようになったら教えて下さいね。次のステップに進みますので。」
「頑張ります!」
頑張りますってもどう頑張ればいいんだろう。
気合いで魔力見えろ~ってやっても分かんないし。でも魔道具を使うと分かるんだよな~。
ちょっと手のひらの位置をずらしてみる。
すると魔力の流れがだんだん弱くなっていく。魔道具の効力が減っているのだろう。
さらに指先だけ魔方陣に付けてみると、付けた指だけ薄く魔力の感覚がある。魔力は体全体に余すところなく循環しているのだろう。やはり血液みたいだ。
両手を繋いでいると右手と左手の繋いだ場所も魔力が流れているとこがわかる。接触していれば皮膚を介しても問題ないらしい。
そうやって試行錯誤して二時間ほど、魔道具を頭に乗せてみたり両手を繋いで触れてみたり、端からみればアホなことをしていたが、その甲斐あって魔力の流れが分かるようになってきた。
何も意識しなければ普通通りだが、強く意識すると身体中に魔力が循環している。指先まで分からないところはまだまだ修行不足ってことか。
魔法の習得にはまだ時間がかかるかもしれないな。
いつになることやら。