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数学オタクは魔法に憧れて  作者: 哲
1章 数学を愛する少年
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第5話 譲れないもの

今、俺は絶望している。


何故なのかと言えば、俺自身の適性検査結果が納得いかなかったということも一つの理由だ。


だが最も絶望しているのはそんな理由ではない。


ついさっきの出来事、俺が期待はずれの適性検査結果を眺めて考えていたところ、一部で盛り上がるような声が聞こえた。

お前すげぇじゃん!とか須泉くん流石!!とかそんな声だ。


須泉くんとは、須泉 祐次郎という一個学年が下の高校二年生だ。直接話したことはないが、噂では全国模試は常に一桁だとか、剣道では日本で一二を争うほどの強さだとか、日常会話だけなら10ヵ国語以上話せるとか、本当に同じ人間なのかと思いたくなるほど完璧超人なやつだ。ああいうのを『本物』の天才というのだろう。


その須泉くんで盛り上がっているということは、適性検査ですごい結果を出したということだろう。だが、俺は人の結果なんてそれほど興味はない。それが話したこともないような相手なら尚更だ。


しかし不意にに聞いてしまったのだ、広がる歓声の中の一つの言葉を。




「すげぇな須泉、魔力適性100%オーバーかよ!!」




は?



100%オーバーっつうかそもそも100%越えんのか


耳を傾けると、適性検査結果を見たこの世界の人の声が聞こえる。


「103%は大幅な更新ですよ!この%表示は我が国が始まって適性検査を行った結果の最高値を100%に換算して数字を出しているのですが、今まで1000年は更新してなかったはずです。この方はきっとこの国最強の戦士になると思います!」



おいおいおいおいまじか、つまり歴代で一番高い魔力適性ってことかよ。



……天才って奴はここでも俺を嘲笑うのか。


俺自身も人より才能はあるつもりだ。しかし『本物』を目の前にすると、俺はこの程度で才能があるなんて言ってたのか、と自分で自分が恥ずかしくなる。


『どれだけ努力してきたのかを知れば、天才なんて呼べないはずだ。』


こんな名言を残した偉人がいるが、須泉は今までどんな努力をしてきたのだろうか。

凡人がどれだけ努力しても『本物』には勝てない気がするのは気のせいだろうか。


ああ理不尽だ。

体が心の奥深くに引きずり込まれるような感覚。五感が薄くなり目の前に闇が見える。俺を形作っていた物がぼろぼろと崩れ散り、風に乗ってどこかへ飛んでいきそうな、そんな気さえしてくる。


……



だが、体が深淵のさらに先を進もうと、五感がなくなろうと、俺には絶対に無くならない感情がある。たとえ俺が崩れようとも無くならない、重く大切なものがある。



それはプライドだ。

魔法、そして数学では絶対に負けてやるものかという意地だ。

俺を形作る成分でこれほど強いものはない。


『本物』になんて絶対に負けてやらないからな。


後ろ姿の須泉に、心の中でそういい放った。








~~~~~~~~~~~


適性検査が終わった後、俺達はフィリップさんたちに連れられて城内を見て回った。

途中で昼食を貰ってかなりの時間を歩いたが、流石に広すぎる。歩いていると、ところどころに衛兵さんがいて俺達の動き回れる場所を制限しているみたいだ。俺達に見せたくないものがあるんだろう、ちょっと怪しい。


4時間くらい見て回ったところで城外に出て、競技場のような場所に出た。観客席が周りにあって野球場みたいだ。


「ここは城の競技スペースで、城の兵士が毎日訓練をしています。今は訓練の時間ではないため空いていますが、午前中はほとんど空いていないと思ってください。

そしてこの競技場はみなさんの授業の場であり、訓練の場でもあります。集まることが多いので覚えてくださいね。」


体を動かすようなことはここでするんだな。俺はあまり運動神経が良くないから心配だ。部活なんかも入ってなかったし。


「それではここで休憩ついでに一つ授業をしましょうか。魔法はそもそも簡単に出来るものではないので座学が基本ですが、霊術は今のみなさんでも出来る人がいると思います。

霊術の基本は感覚です。霊術は魔法より多彩な技がありますが、それは決まった術式が存在せず感覚によって技が生まれるからです。今日はこのために霊術の得意な二人に来てもらったので、模擬戦をしてもらいましょう。」


俺達と一緒に城内を見学していた人の内、二人が競技場の真ん中で向かい合う。俺達は観客席に移動してその光景を上方から見下ろした。


「この観客席と競技場の間には特殊な結界が張ってあります。とても強力な結界で大抵の攻撃では傷一つつかないため安心してくださいね。

そして模擬戦ですが、模擬戦を行う二人には人体を物理的に守る結界を張ります。この結界の耐久力が一定以下になったら負けというルールです。強力な技だと一撃で結界を割る可能性があるため、使用できる技を制限しています。みなさんもそのうち模擬戦をすることがあるかと思いますが、怪我をすることはありませんので、技に集中して模擬戦を行ってください。

それでは二人とも、訓練と同じようにお願いしまーす!!」


フィリップさんが競技場にそう叫ぶと、中央にいる二人はお互いに向かい合って剣を構える。固そうな鎧は特に着けていないし、剣はなんの変哲もないシンプルなものだ。


そして何の合図もなく、いやお互いにコンタクトしていたのかは知らないが、互いに足を蹴り、剣技が始まった。



うーむ……、見学しておいてなんだが全然見えない。

競技場までの距離が少し遠いのもあるが、何より速すぎる。到底人間のできる動きではない。


慣性の法則を知っているだろうか。

簡単に言えば止まっている物は止まり続け、動いているものは動き続けようとする、という法則だが、この戦いは全然慣性の法則が働いていない気がする。でなければ目に見えないような早さで直角に曲がれる訳がない。

これが霊術、とやらの力なのだろうか。霊術を扱えるようになれば慣性に逆らえるようになるのだろうと予測する。

またはこの世界の仕組みが違うとかだな。元いた世界の法則が通用する保証なんてどこにもない。


30秒くらいすると少しだけ目が慣れてきた。よく見ると圧倒的に力量が違うようで、一人がもう一人の剣撃を全て受け流している。

剣がぶつかり合うような音があまりしないのもこれが原因か、華麗な戦い方で俺の好みだ。


しばらくして、敵わないと知ったのか少し離れて剣を腰に構え、集中を始めた。これは大技の予感。


剣に赤いオーラが纏い燦々と輝いていて見える。霊術も目に見えるんだな。かっこいい、俺もあれやりたい。


「これなら受け流せるか?<烈火剣槍>!!」


一蹴りで間合いを詰める。速い!これは迎撃できるのか!?




ドゴーンと壁を打ち付けるような大きな音が初めて響く。


そこには剣に赤いオーラを纏わせたまま倒れた敗者と、余裕そうに構えを解いた勝者の姿があった。


珍しく俺の心が興奮している。ドクッ、ドクッと心臓の音が鳴り止まない。

俺にもあんなこと出来るのかな。いままで魔法を使っていく気だったが霊術に傾き始める。

だってすげぇじゃん、あんな<烈火剣槍>!!とかやってみたいじゃん。中二病じゃくてもそう思うはずだろ普通。


「これが霊術というものです。面白そうじゃないですか?みなさんはきっとこれ以上に強くなますよ!」


そうフィリップさんが締めくくり、競技場の見学が終わった。

これは俺の中二心が疼くな。俺の黒歴史ノートを書く日々が報われるときが来るのかもしれない。


~~~~~~~~~~~~


そしてクラスを分ける時間がやってきた。魔法クラスと、霊術クラス、そしてそれらとは別に各属性のクラスを選ぶらしい。

俺は適性検査通りに魔法クラスと、氷属性のクラスを選んだ。

そこまで悩みはしなかったな。霊術は適性がないからね、そもそも魔法の方が俺には向いている。


まあ当然のことだが、ただでさえ少ない知り合いがさらに少なくなってしまった。だが偶然にも柊さんが俺と全く同じ魔法クラスと氷属性のクラスを選んだみたいだ。これから仲良くしていこう。

あの忌々しい須泉は魔法クラスと水属性のクラスみたいだ。あいつには絶対負けたくない。模擬戦とかあったら覚悟してもらおう。


それからは昨日と同じように夕食を食べて部屋に戻った。俺は相変わらずいち早く夕食を終え部屋に戻る。こういうところが協調性が無いとかいうんだろうね、直す気はあんまりないが。


部屋を開けるとマフィナさんが迎えてくれる。


「お帰りなさい、宇佐美様。魔道具の用意が出来ましたよ!」


マフィナさん……、俺はこの人には一生頭が上がらなくなる気がするな。


準備は整ったようだし、俺は今のうちから魔法についての学習を始めようと思う。須泉みたいな才能のあるやつに好きなことで負けるなんて到底考えられない。だから努力で一番強くなってやる。


努力できるのは天才だからだ、とか言うやつもいるが俺はそうは思わない。天才だから努力できるのではなく、アイデンティティーが努力をさせるのだ。


魔法は元の世界にいた頃から俺の人生の一部だ。



他のどの分野で負けようとも、




このプライドだけは崩されてはならない。

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