トラックに感謝を?
窓越しに外を眺めていると、雪が降り始めた。
ここではとても珍しいから病院の屋上に出た。
ベンチに座って朝日を浴びながら、地面に溶けてゆく雪を眺める。
雲が完全に太陽を隠す。
強くなったり弱くなったりを繰り返している。
手を出すと、手のひらにぼた雪が降る。
10分後には完全に止んで、太陽が顔をだした。
少し積もる事を期待していた分、止んだ時のショックは大きかった。
ポケットにしまっていたスマホが鳴る。
結愛からの電話だ。
電話に出ると、声だけでテンションが上がっている事が伝わってくる。
「見た?雪だよ!珍しい雪だよ!」
「もう止んじゃったけどね」
「あー、……そんな事言っちゃうんだ」
「ごめんごめん、すごくきれいだったね」
「なんか棒読み感がすごいんだけど、まぁいいや。今から遊ばない?」
「良いよ。どこに集まる?」
「希の家」
「無理」
僕は、結愛の提案を遮るように否定した。
「いつまで掃除しないつもり?」
「来月には掃除します」
「おっそ。絶対来月ね」
無理やりな理由を付けて何とか集合場所を変える事が出来た。
パラパラと雨が降ってきて急いで待ち合わせ場所に行く。
待ち合わせ場所の喫茶店に入ると結愛と知らない男性が座っていた。
「あ、希。こっちこっち」
僕に気づいた結愛は手を振って招く。
僕は知らない男に意識を向けながら結愛のもとへ行った。
「おはようございます。結愛さんから話は聞かせてもらっていますよ」
「おはようございます……」
僕は、浮気とかそういう不安は無かったが、この男からは何か嫌な予感がした。
今はただ気のせいだと信じたい。
「職場で同期の斉藤実くん。先に待ってたらなんか居たから少し話してたんだ。私は少し席を外すね」
と、結愛は『お手洗い』と書かれたドアへと歩いて行った。
斉藤実……その名前は初めてではなかったが、どこで聞いたはずなのに全く思い出せない。
「浅木さん、どれくらい付き合ってるの?」
「いきなりなんですか……」
「ははは、ごめんね。無粋な質問だったね」
「……」
嫌な予感とか関係なく、僕はこの人が嫌いだ。
そこへ結愛は返ってくる。
「斉藤くん、私たちはこれからデートだからじゃあね」
「楽しんでくださいね」
僕たちは斉藤に別れを告げ、喫茶店を出た。
今雨は止んでいたが、水たまりがところどころにあった。
「なにしよっか?」
「何も考えてなかったの?」
「うん、雪が降ったからテンション上がって誘っただけだから」
「なんか……悲しいな」
ごめん。と言いながらも結愛は笑っていた。
「結愛の家に行こう」
「え、急に何」
「そんなドン引きするなよ!」
「いや、だって希の家は駄目って言ったのに、急に私の家に来たいとか……」
「出来るだけ早く掃除するからさ」
「はいはい、毎日それ聞いてるから。行くとこも無いしいいよ」
僕はひそかにガッツポーズをきめた。
結愛の家に行くことが初めてというわけでもないが、彼女の家に行くというのは緊張とともに嬉しさがある。
隣同士で喋りながら結愛の家に向かう。
目の前から大きなトラックがこちらに向かってくる。
気づいた時にはもう遅かった。
トラックが勢いよく水たまりを巻き上げる。
僕と結愛は頭からその水を被った。
「……」
「……」
同時に溜息が出る。
「家に着いたらお風呂にしようか……」
「そうなるよね……」
短い会話を終えた後にまた一つ僕たちは溜息が出た。




